ドライバーの楽しみを多く残すメカニズム
2024年2月に発表された『マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー』。2021年に登場しているクーペモデルとメカニズム的に大きな違いはないが、それでもアルトゥーラは『先進的』と表現するに相応しいスポーツモデルだ。当然、最も体現しているメカニズムがプラグインハイブリッドシステムである。外部充電が可能なバッテリーが搭載されており、モーターのみで33kmを走行することが可能となっている。
【画像】マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダーで富士スピードウェイを全開走行! 全49枚
近年、このようなEVモードを持つスーパースポーツは他にも存在するが、アルトゥーラで驚かされるのはその軽さだ。今回試乗した電動ルーフを持つアルトゥーラ・スパイダーですら車重は1570kgとなっている。1700kgを超えるスーパースポーツも増えてきている中、電動ルーフを持つプラグインハイブリッドでありながらこの車重を実現しているのは、これも先進的と呼べるポイントだ。
アルトゥーラたちがこれほど軽量な重量を実現できたのは、新たに開発され最適化されたメカニズムの恩恵が大きい。88kgのバッテリーに15.4kgのモーター、そして従来のV8ツインターボよりも軽量なV6ツインターボで構成される、システム出力700psを発生するパワートレイン。それにカーボンとアルミニウムを組み合わせた新世代アーキテクチャを採用しているからだ
そんなアルトゥーラだが、モーターを有する昨今のスーパースポーツの多くが4WDを採用しているのに対し、こちらは2WD、つまりMRのまま。最新技術を存分に採用しながらも2WDとなっているあたり、絶対的な速さだけでなく運転を楽しむ部分をしっかりと残していく決意を感じる。
オープンボディとは思えない密閉感
今回試乗の機会を得たのは富士スピードウェイで開催された『マクラーレン・トラックデイ・ジャパン2024』で、そのスポーツ走行にアルトゥーラ・スパイダーで出走させていただいたのだ。
コクピットに乗り込み、始動をしてピットレーンの隊列へと並ぶ。始動直後はEV優先の『Eモード』となっていて、『周辺環境を考えて静かに家を後にしたい』という需要を考えると、最適なデフォルトのモード設定だと感じる。また、Eモードで移動すると驚きの発見があった。それは外からの音が小さいことだ。今回はサーキット走行ということもありルーフを閉じた状態での走行だったのだが、オープンボディであることを忘れるくらいの静粛性であった。
そしてモードを『スポーツ』へと変更すると、エンジンが目を覚ます。コースへ合流して速度を上げていくと、再び静粛性の高さに驚かされた。エンジンサウンドなどドライビングに必要な音は聞こえてくるが、走行風の小ささは密閉度の高いクーペボディのようだ。
サーキット走行で感じる出来の良さ
富士スピードウェイ名物、約1.5kmのホームストレートに差し掛かりスロットルを全開にすると、悠々と300km/h近くまで加速する。ただ、そんなことはこのクラスのスーパースポーツならば当たり前のことだろう。しかしアルトゥーラ・スパイダーで驚かされたのは、しっかりと目が追いつくことであった。速度への恐怖感なくスロットルを踏み続けることができるのである。ボディ剛性が高く、突如破綻することのない高いスタビリティがあるからこそだ。単にハイパワーなモデルならば踏み切ることはできない。
高速コーナーのコカ・コーラコーナーでややリアがスライドしたが、その挙動は非常にマイルドで衝撃的であった。純粋なMRであることを考えると、ピーキーな動きでシビアなカウンター操作をドライバーに求めてもおかしくない。しかし、アルトゥーラ・スパイダーは50:50のFRマシンを思わせるマイルドな挙動で、カウンターを操作するべきタイミングを教えてくれるような動きであった。
これは秀逸な電子制御の恩恵もあるが、ボディ剛性が高くサスペンションがしっかりと路面を追従してしなやかに動いているのも大きいはず。そして何より穏やかな挙動だからこそ、ドライバー自身がマシンを手懐けているという高揚感を得やすいのだ。
パワートレインも高次元でまとまっている。エンジン単体で605psを発生する3.0LのV6ツインターボエンジンだが、ターボラグは感じさせない。ハイブリッドシステムとのマッチングが非常に自然かつ、低速トルクを補う方向性で味付けされている。その乗り味はまるでスーパーチャージャーを搭載したマシンに乗っているようであった。
アルトゥーラ・スパイダーは扱いやすく、静かに走行することが可能な最新鋭のパワートレインを有している。それでいて電子制御で我慢を強いることなく、ドライバー自身が手懐けている感触がある。そんなマクラーレン・アルトゥーラ・スパイダーの乗り味は、新時代のファントゥドライブを体現したスーパースポーツであった。
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