DCコミックの人気キャラクターである「バットマン」はこれまで多くの有名監督の手によって映画化されてきたが、その最新作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』が2022年3月11日より公開されている。
バットマンシリーズの楽しみのひとつに大富豪ブルース・ウェインが財力を投入して作らせたバットマン専用車「バットモービル」がある。果たして最新作ではどのような活躍を見せているのだろうか?
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文/渡辺麻紀、写真/ワーナー・ブラザース映画
■今回は『青さ』が残るバットマン
全米で大ヒットとなっている『THE BATMAN-ザ・バットマン-』。ロバート・パティンソンがバットマン/ブルース・ウェインを演じている
先日、全米で公開され、今年ナンバーワンの大ヒットとなった『THE BATMAN-ザ・バットマン-』。ティム・バートンがメガホンを取った1989年の『バットマン』から始まる近年のバットマン史では、あのクリストファー・ノーランの『ダークナイト』(2008)に続く高評価と大ヒットになっている。
今回、監督を務めたのは、リブート版『猿の惑星』シリーズを成功に導いたマット・リーブス。そして大富豪&仮面のヒーローの主人公を演じるのは『TENETテネット』(2020)が記憶に新しいロバート・パティンソン。
彼らが創り上げたのは、ヒーロー宣言してまだ2年目の若いバットマン/ブルース・ウェインだ。彼の最終的な目的は両親を殺した犯人を挙げること。ゴッサムシティの悪を一掃すれば犯人に行き当たるに違いないと信じ、犯罪のはびこる大都会の闇に眼を光らせている。
このバットマン像の特徴は正義と復讐の区別がついていないところ。
情緒不安定で猪突猛進。彼を育ててくれた執事のアルフレッド(アンディ・サーキス)の助言にも耳を傾けず、唯一の理解者である市警のゴードン刑事(ジェフリー・ライト)に対しても時に攻撃的になり、共同戦線を張ることになるキャットウーマン(ゾーイ・クラビッツ)ともギクシャク状態。
バットマンシリーズでは毎回バットマンのコスチュームの意匠が見所だが、今作はミリタリーテイストが取り入れられた現代的な雰囲気
そして、ゴッサムシティで連続殺人を繰り広げる謎の男“リドラー”(ポール・ダノ)の挑発にもすぐに熱くなってしまう。つまり、とても青っぽく未熟なヒーロー像になっているのだ。
何といってもこの設定が新鮮。パティンソン=バットマンが、ヒーローとして一人前になるまでを描く成長譚になっていて、青春映画のような味わいもある。
もちろん、ノーランが最初に手掛けた『バットマン ビギンズ』(2005)にもブルース・ウェインの修業時代は描かれていた。しかし、バットマンになったときはすでに私たちの知るヒーローになっていたことを考えると、やはり、これまでにないバットマン像になっていると思うのだ。
この「新鮮さ」はバットマン・カーことバットモービルのデザインや設定にも反映されている。本作の車のコンセプトも、同じように「未熟なヒーロー」がキーワードになっているようだ。
■今作のバットモービルは普段使いできそう!?
アメリカンマッスルカーの雰囲気も漂うバットモービル。アメリカのハイウェイを走っていてもおかしくなさそうだ
そのまえに、過去のバットモービルをおさらいしてみると、ティム・バートンのときのそれはテール部分がコウモリの羽根のようなデザインになっている流線形でゴシックっぽいボディ。ペイントはマットというのもバートンらしいこだわりだった。
ノーラン版のデザインは装甲車さながらのゴツさで、実際に運転できるのが特徴。財力にモノ言わせているような感じが伝わって来る。こちらもリアルにこだわるノーランらしい。
続くザック・スナイダーの『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)では装甲車とサンドバギーを合わせたようなよりハードでミリタリーなデザイン。色もブラックではなく、メタリックなシルバーグレーっぽいと、バットマンを演じたベン・アフレックの年齢や雰囲気にも合わせている印象だ。
では、今回はというとアメリカンなマッスルカーをカスタマイズしたようなデザイン。今までの車のなかではもっとも汎用性を感じさせる。
フロント部分には障害物を一掃するための大きなスチル製のバンパーが取り付けられたロングノーズスタイル。だがここにエンジンはなく、車体の後部にむき出しのV8エンジンが搭載されたミドシップレイアウトとなっている。そしてエンジン前方には2基のターボチャージャーが見て取れる。
これまでのバットモービルとはコンセプトからまるで異なるデザインで、ヒーロー2年目という設定のバットマンにふさわしいアマチュアっぽさ。自らの手で時間をかけてカスタマイズしたようなテイストで面白い。
しかも、走るときは後部の巨大なエンジンの排熱孔から青白い炎が出て、夜の闇や雨のなかで存在感を発揮していてインパクトも大きい。
今回のデザインについて監督のリーブスはこんなコメントをしている。
「子どもの頃の私は、アダム・ウェストが出ていたTVの『バットマン』シリーズ(『怪鳥人間バットマン』(1966~1968))が大好きだった。とりわけ私の心を掴んだのはバットモービル。車の後部から火が出るのが最高にクールだった。
私たちのバットマンはまだ始まったばかりなので、バットモービルにもプリミティブなテイストを感じさせたかったんだ」
ということは、今回のバットモービルは最初の『バットマン』に敬意を表したデザインということだ。ちなみにそのバットモービルは、1955年式のリンカーン・フューチュラを改造したもの。流線形のデザインが特徴的な、驚くほど美しい車だ。
■カーチェイスはほぼデジタルなしのリアル撮影!
炎の中のカーチェイスも実際に撮影されている。CG技術が進んだ最近ではリアル撮影への回帰傾向が見え始めているのだろうか
劇中、このバットモービルと宿敵のひとり、ペンギン(コリン・ファレル)の車が雨の降る夜の公道で大チェイスを繰り広げるのだが、そのシーンのほとんどはデジタルなしのリアル撮影。炎のなからかバットモービルがジャンプしながら飛び出すシーンも本当に撮影したという。
走行シーンもカメラを車に固定して撮影し、リーブスの言葉を借りるなら「まるでスティーブ・マックィーンの『ブリット』(1968)を撮っているみたいだった」。
プリミティブな車の魅力を活かしたプリミティブな撮影方法。それらがプリミティブなダークヒーローをより際立たせるということになる。
ちなみに上映時間は2時間56分。これまでの『バットマン』シリーズのなかではもっとも長いものの、退屈することはない。バットマン/ブルース・ウェインの成長を見届けたいという気持ちにさせてくるからだろう。
●解説●
ゴッサムシティで次々と起きる謎の殺人事件。被害者は政府や警察の要人ばかりで、犯人はリドラーと名乗り、彼らの汚職を暴いた上で殺していた。その犯人がいつも現場に残すのはバットマンに宛てた手紙。リドラーの正体は? そして彼の本当の目的はどこにあるのか?
サイコサスペンスとディテクティブストーリーを合わせたような構成の新生『バットマン』シリーズ第1弾。今回のバットマンは引きこもり系で、ゴッサムシティ中が知っている大富豪ながら、ほとんど人前には現れないという設定。
青っぽいのみならず、コミュ障的な色合いも強い。何でもリーブスはそんなブルース・ウェイン/バットマンのキャラクターをニルバーナのフロントマン、夭折したカート・コバーンをイメージ。隠遁者っぽいロックンローラーという要素を盛り込んだという。
セリーナ・カイル/キャット・ウーマンを演じているのは『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(18)等のゾーイ・クラビッツ。
バットマンと同じように屈折し、ベリーショートのヘアスタイルとボンテージなスーツがとても似合っている魅力的なキャット・ウーマンになっている。彼女とバットマンの高校生のような淡い恋も妙に新鮮だ。
* * *
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
絶賛公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C) 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC
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