ACシュニッツァーのチューニング奥義の深さを実感
ACシュニッツァーが2016年に作り上げたコンプリートカー「ACL2」。ツーリングカーレースに出場してもおかしくない出立ちの、市販プログラム開発に向けたプロトタイプ的ワンオフモデルです。BMW市販モデルでニュル最速を記録したこの車両にモータージャーナリスト西川 淳氏が試乗し、ACシュニッツァーのチューニングの一端を体感しました。
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その実力を世界に知らしめるべく生まれたプロトタイプ
シュニッツァーといえばBMWのツーリングカーレース活動を支えたドイツモータースポーツ界の雄だ。残念ながら2020年に“シュニッツァー・モータースポーツ”としての活動は終わりを告げているが、”ACシュニッツァー“の方は経営的に盤石なグループ傘下にあって、今なお積極的な活動を続けている。
両社は全く別の組織だ。元はというと、シュニッツァー兄弟の弟ヘルベルトと、アーヘン(略してAC)に本拠を置く巨大BMWディーラー“コール・オートモービル”を経営するウィルが、市販モデルのチューニングパーツ開発のため1987年に設立した会社が“ACシュニッツァー”である。設立したころはモータースポーツ活動におけるビッグネームとなっていたシュニッツァーという名をブランド名として大いに活用したというわけだろう。
前置きはさておき。わがホームワインディングに突如現れたグリーンのBMWは、そんなACシュニッツァーが2016年に作り上げたコンプリートカー「ACL2」であった。
ベースがF22(M235i)の「2シリーズクーペ」であることは、その目つきからかろうじて分かる。けれどもその姿はもはやツーリングカーレースに出場してもおかしくない出で立ちであり、禍々しいまでの迫力を発散して見る者に迫っていた。
フィット感が高く、派手なのにまとまっているエクステリア
2016年といえば、F22ベースの「M2」(F87)が生まれた年でもある。けれどもM2クーペが370psであったのに対して、ACL2はなんと570psを発揮。各所の軽量化(車重1475kg)もあって、パワーウェイトレシオは驚異の2.59であった。この数値、2016年当時のスーパースポーツでいえば、フェラーリ「458イタリア」やポルシェ「911 GT3RS」、メルセデスAMG「GTS」などを上回っていたというから、その凄さが窺えよう。
ACシュニッツァーは翌年2017年に市販プログラムとして「ACL2S」をリリースする。要するにこのグリーンのACL2は市販プログラムの開発に向けたプロトタイプ的なワンオフモデルであり、そのパフォーマンスを世界に知らしめるためのアドバルーンでもあった。事実、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフでは、市販BMW最速となる7分25秒8で周回し、その実力の程を証明している。
ベースモデルからのチューニングポイントは枚挙にいとまがない。いちいち紹介するだけで数回ぶんのレポートになりそう。現在は京都で輸入車用パーツの輸入を行うSHコーポレーションがデモカーとして所有しており、同社が扱うクイックシフターも加えて装備されていた。
それにしても流石に名門の仕事である。ド派手なエアロデバイスというと、“取って付けた”感たっぷりというケースがほとんどだが、ACL2は違った。フィット感が高く、派手なのにまとまっている。ちゃんと機能するであろうことが、佇まいからも分かる。コケおどしの類でないことは明らかだ。
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ド派手なエアロと570馬力の3リッターエンジン
スーパーカー慣れした筆者であっても、乗り込む前から緊張を強いられた。乗り込むと、タイトなシートに挟まれて緊張のボルテージはさらに上がる。野太いサウンドで570psが目を覚ませば、じっとしていることがかえって辛くなってきた。
重めのクラッチを慎重にリリースし走り出す。動き出した瞬間から“軽い”と思った。太いタイヤをものともせず、むしろギュッと引き締まった状態で走り始めるのだ。
トルクの盛り上がりが凄まじい。ノーマルエンジンでは早々にフラットに転じる1000回転をすぎたあたりでも、まだまだ伸びていこうとする。最初はちょっと怖くなってアクセルペダルを緩めてしまったほど。もちろんエンジン回転もリニアでかつ軽やか、綺麗に高回転域まで力を増やしながら伸びていく。突き抜けようとする感覚が素晴らしい。
パワーフィールにばかり驚いていてはいけない。このクルマの妙味はやはりボディサイズを活かしたハンドリング性能にこそあった。
なんといっても後輪にかかる駆動が恐ろしくパワフルで、かつ出し入れの自由度が高い。またクイックなステアリングの動きにも機敏に反応するから、アクセルとハンドルの動きひとつで後輪はキレイにブレークする。ときおりトリッキーに滑るが、それは2シリーズの短いホイールベースならではで、それを予測しながらステアリングワークを楽しむというのがこのマシンの基本的な扱いだろう。
これだけのハイスペック(特にパワーウェイトレシオ)を誇るFRの比較的コンパクトなスポーツカーを公道で滑らせてなお踏み込んでいくだけの胆力は流石にない。けれども、その入り口を味わうだけでも、先の世界は容易に想像できるというもので、ACシュニッツァーのチューニング奥義の深さを実感した。
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