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悪いのは「ビッグモーター」だけじゃない 水増し不正請求の実態と中古車業界の闇

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悪いのは「ビッグモーター」だけじゃない 水増し不正請求の実態と中古車業界の闇

 2023年7月18日、中古車販売大手「ビッグモーター」が、弁護士3名による調査委員会からの報告書を公開した。これによるとビッグモーターは、ユーザーから預かった修理車両に対して、店舗側でさらに傷を負わせて(靴下にゴルフボールを入れてボディへ叩きつけていた事例も記載)、割り増しした修理費を損害保険会社へ請求、さらに新品を購入したといって実際には安い中古交換部品を取り寄せて装着し、差額を着服していたという。

 クルマ好きにとっては話を聞くだに鳥肌が立つ事件だが、果たしてこれは、ビッグモーターだけの問題なのだろうか。中古車業界では「こういう話」がいまもそれなりに横行しているのか。中古車業界に造詣の深い自動車専門ライターに、報告書を熟読してもらいつつ、詳しく話を伺った。

悪いのは「ビッグモーター」だけじゃない 水増し不正請求の実態と中古車業界の闇

文/萩原文博、写真/ビッグモーター、AdobeStock

■「血」を流して積み上げた成果を台無しに

 筆者は約30年前に中古車情報誌の編集部にアルバイトとして加入し、その後18年間、編集部員として記事制作に参加していた。その後2年間は中古車情報誌での経験を買われて、辛口のスクープ誌の編集に携わり、中古車業界の様々な事件の記事を執筆した。

 そんな自分からすると、現在話題となっている大手中古車販売店「ビッグモーター」の事案は、昭和から平成初期に横行していたことのようで、「まだこんなことやっている販売店があるのか」ということと、急成長の裏には「やはりこのようなことをやっていたのか…」という感覚が強い。

以前から「あまりに成長が急で、なにか特別なことをやっているのではないか」という噂はあった、ビッグモーター(写真/@yu_photo – stock.adobe.com)

 約18年間中古車情報誌の編集部に属していたが、平成初期の中古車業界は現在とは比較にならないほど「ダーク」だった。走行距離メーター巻き戻しや修復歴車を「修復歴ナシ」として販売することをはじめ、同じクルマの写真を使用した非現車のオトリ広告など、当たり前のように行われていたのだ。

 そうした状況を憂いて、「誰もが中古車を安心して購入できるように」と、中古車業界はオークションでの走行距離管理システムを導入、中古車メディアは車体番号表示の掲載を実施。しかし中古車の車体番号表示によって広告出稿が激減し、情報誌がペラッペラッになってしまったのだ。

 そういう大量の「血」を流してでも、ユーザーが中古車を安心して購入できるようにしたい。「たとえ自分たちの売上が落ちたとしてもこの車体番号表示は成功させる」という、当時のスタッフの思いは強かった。だからユーザーだけでなく販売店にも理解され、現在では車体番号表示は当然のこととなり、中古車業界の信頼性も少しずつ向上し、クリーン化が進んでいった…、と、思っていた。

 今回のビッグモーターの事案は、せっかく先人たちが築き上げ、クリーンになりつつある中古車業界の信頼を根底から崩す事例である。

■「急成長」の裏側には…

 ビッグモーターは、クルマの売買だけでなく、車検や修理そして自動車保険まで取り扱う自動車の総合デパートのような販売店だ。今回問題となっているのは、修理を行う鈑金部門が損害保険会社に不適切な保険金請求を行っていたというもの。

 筆者には、この不適切な保険金請求だけでなく、実際にクルマをビッグモーターへ売却したユーザーがあとから(買い取り額を「想定条件と異なっていた」などと言って一部)返金請求されたこと、そして中古車販売の際には総額表示に加えて「オプションなどを付けないと購入できない」といった話を聞いていた。しかし、ビッグモーターが「組織として」そういった行為を行っていたかどうかわからないため、静観していた。

 そもそも中古車販売は、ユーザーからの下取りや買い取り、オートオークションで仕入れたクルマにマージンを乗せて販売するという、いわゆる「手数料ビジネス」だ。したがって、中古車1台ずつに相当なマージンを乗せないと急成長することはない。

 しかし、中古車の車両本体価格にマージンをたくさん乗せてしまうと、当然価格が高くなり、ユーザーが寄りつかない。したがって諸費用のナンバー交換費用や車検費用といった人件費にマージンを乗せることが一般的だ。

 そもそも諸費用の人件費は販売店側が設定するもので、高い、安いという判断はユーザーが行うべきもの。何度も中古車を購入した経験のある人ならば、「この店は諸費用が高い!」、「この店は良心的だ」という判断はできるだろうが、初めて中古車を購入する人やそれほどクルマ購入に馴れていない人などは判断できないだろう。だから最初は何軒も回って見積書をもらい、中古車購入に対して自分の経験値を上げていかないとならないと考えている。

中古車販売は、そもそもそれほど儲かる商売ではない。誠実にやればやるほど経営は厳しくなるはずなので、だからこそ「いい店」を見極めることが重要になる

 筆者、個人的には「中古車選びは販売店選び」だと思っている。店舗の規模が小さくても、その土地に根付いてリピーターが多い。そういった販売店は信頼性も高く、良い店だと言えるだろう。

 今回のビッグモーターの事案は、「販売店の規模が大きくて、建物がキレイで、全国に店舗を展開しているから良い店とは限らない」ということを暗に証明してしまっている。

■今回の過失はビッグモーターだけ…か…??

 ビッグモーターの経営陣が報酬の自主返上を実施することになった鈑金部門の損害保険会社への不適切な保険金請求事案について、確かに、修理部分にさらに手を加えて、不適切な請求をしたビッグモーター側に最大の問題はある。

 しかも1回の請求に「ノルマ」(編集部注/報道によると「14万円」と一般的な修理費としては非常に高額な下限設定)まで設定されていたというのだから、ある意味「徹底されているな」と考えてしまう。

 しかし「過失」はそれだけとは言えない。

 ビッグモーターの不適切な保険金請求に対して、損害保険会社側はその請求を鵜呑みにして支払っていた、という事実もある。一般の人が自動車保険を使って修理する際には、非常に厳しいチェックが行われるのに、ビッグモーターの請求は鵜呑みでそのまま保険金を支払っていたわけだ。これは、ビッグモーターと損害保険会社とのズブズブな関係をハッキリと表していると思われる。

 どうして、ビッグモーターと損害保険会社がそんなズブズブな関係になっているのか。

 それはビッグモーターが自賠責保険や自動車保険を取り扱う代理店業務を行っているからだ。ビッグモーターぐらいの規模になれば、各種保険の手数料もかなりの金額になる。これだけ大口の顧客ならば、損害保険会社も忖度せざるをえないだろう。

 約10年前、筆者が辛口スクープ誌の編集部に所属した際に、不適切な保険金請求事案を取り扱った。それはドイツのプレミアムブランドを数台所有するオーナーの告発だった。そのオーナーが所有する最新モデルで買い物に行き、駐車していた際に、フロントのバンパーを擦られてしまったという事故が発端となる。

 オーナーはすぐに損害保険会社に連絡すると、いつもメンテンスに入れているディーラーの営業マンがクルマを引き取りに来た。その擦り傷も、オーナー曰く、コンパウンドで磨けば消せるのではというレベルだったそうだが、フロントバンパーを交換するということになった。

 営業マンが自宅に損害保険会社へ提出する書類を持ってきた際、中身を確認せずにハンコを押したそうだ。修理から戻って来たクルマを見ると「交換した」というフロントバンパーは新品のように見えなかったそうだ。そこでオーナーは損害保険会社に連絡をして今回の掛かった費用の書類を取り寄せて驚いたそうだ。

 フロントバンパーの交換だけでなく、フェンダーの塗装も含まれていた。さらにオーナーが目を疑ったのが、1カ月もレンタカーを借りたことになっていてその費用がなんと100万円。数台の車を所有しているため代車など必要ないこのオーナーは、すぐにディーラーに行くと、そのまま「販売店出入り禁止」となってしまったのだ。

 この販売店は、国産、輸入車の新車を取り扱うディーラー系販売店。そのようなメーカーの看板を掲げる販売店でも、損害保険会社に不適切な保険金請求を行い、しかもそのオーナーを販売店出入り禁止にするという言語道断な対応をした事案だったのだ。

今回の件もそうだが、被害にあったのは水増し請求を受けた損保会社だけではない。大事なクルマに傷をつけられた(修理されたとはいえ)オーナーたちは、等級も下がっているはずなので、影響は大きい。ぜひ救済措置、保障をすべきだ

 個人的にはディーラー系の販売店でも、不適切な保険金請求が行われていたのだから、ビッグモーターがこのようなことが行われていても、それほど驚きがしない。しかしこれは立派な犯罪なのだ。しかも公になったのであるから、企業としては相応の責任を負うことになる。

■「正直者が馬鹿を見る」を終わりにしよう

 ビッグモーターには今後、国土交通省の立ち入り検査があるだろうし、損害保険会社の管轄である金融庁が動く可能性もある。そしてその先は、板金部門だけでなく、中古車の販売や買い取り、従業員への待遇について調査が及ぶ可能性がある。

 どこまで調査範囲が広く、深まるかは、国民の関心度次第だ。本メディアも含めてぜひ関心を持ち続けてもらいたいし、継続的に話題を追い続けてほしい(編集部注/しょ…承知しました(by編集局長))。

 そのうえで、2023年10月から中古車の販売価格表示が「支払総額」に変わる。

 一部の中古車販売店では、検索サイトなどで表示されている支払総額に加えて、オプションを付けないと購入できないということもあった。今回の改訂で、「本当の乗り出し価格」を表示するよう徹底してもらいたい。

 こうした動きに加えて、大手中古車検索サイトは、今回のビッグモーターのような法律違反を起こした販売店は、速やかに「掲載停止」などのペナルティを科すべきではないだろうか。

 大手販売店から多額の料金が支払われているのは理解している。しかしこういった一部の販売店の行いによって、マジメに商売をしている販売店まで影響が出る可能性も高いからだ。いい加減「正直者が馬鹿を見る」という傾向は終わりにしてもらいたい。

 掲載メディアは販売店だけでなく、ユーザーを第一に考えて、今回の事案に対して速やかな対応をお願いしたい。そしてこれまでマスコミに対して無反応だったビッグモーターが、これを機にどのように変わるのかについても、注視していきたい。

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