クールでエネルギッシュなボス
text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
【画像】スカンジナビアの北極星【ポールスターの各モデルをじっくり見る】 全101枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
2021年のAUTOCARアワード、世界を変えるかもしれない人物へ贈られるスターメー賞に輝いたのは、ポールスターのトーマス・インゲンラートCEOだ。
トーマス・インゲンラートは、自分がまったく新しいタイプの自動車会社の代表になるとは思ってもいなかった。彼はそれまで、ボルボのデザイン担当上級副社長として、世界的な販売回復に拍車をかけることになったスタイリングとキャラクターの改善を担当していた。
しかし、ボルボがそのブランド価値を守り続けるためには、決して作ることのできないクルマがあることを、インゲンラートのような内部の人間はよく知っていた。大胆で奇抜なデザインや、ハイパフォーマンスカー、少量生産の高級車、好き嫌いのはっきり分かれるクルマなどだ。
そこで、2016年後半、ボルボ社内では、伝統的な「温もり」のあるブランドには、既存の部品やシステムをできる限り活用して、まったく異なる顧客層に向けたクルマを作る「クール」な仲間が必要だという考えが生まれた。
クールさを示す方法の1つは、他の自動車メーカーが電動化を余儀なくされる前に、進んで電動化を受け入れること。もう1つは、スタイリングを大胆にするとともに、コンセプトをドライバー中心にすることだった。
そのためには、新ブランドの価値を体現するようなブランド名と、その方向性を明確に示すような、先進的な考え方と個人的なクールさを持つ、刺激的で経験豊富なボスが必要だった。
驚くべきことに、その両方はすでにボルボの手元にあった。それは、1996年からレーシングチームやパフォーマンス志向の市販モデルに使用されていた「ポールスター」という名前と、デザイン部門の責任者であり、率直でエネルギッシュ、そして際限なくクリエイティブなインゲンラートの強力な個性である。
クルマのデザイン以上に重要なこと
ポールスターは当初、あらゆる自動車メーカーが水面下で抱えているような探究的なプロジェクトだった。インゲンラートはこう説明する。
「ホーカン・サムエルソン(ボルボCEO)とピーター・メルテンス(当時の研究開発責任者)は、ボルボにとってまったく新しい挑戦となるポールスターの構想を思いつきました。それは、EVのアストン マーティンのようなもので、高級車の中ではボルボよりもずっと上に位置するものでした」
「わたし達は2か月ほどこの構想に取り組み、かなり保守的なデザイン案を作成し、モデルの構成を考えました」
「しかし、ある夜、ピーターから電話があり、別のアイデアを提案されました。彼は、デザインスタディとして制作したコンセプト40.2を見直していたのですが、そのデザインは人々に好まれており、ポールスターモデルとして良いのではないかと提案してきたのです」
インゲンラートは一晩考えたが、すぐにこのアイデアを受け入れた。ポルシェやテスラのEVと競合することになり、ボルボともある程度重なることになるが、新ブランドの方向性としてはより良いものだった。アストン マーティンのEVのアイデアよりもはるかに社会に適していると思われ、潜在的な需要もはるかに大きいためだ。
「メインストリーム(主流)とは呼べませんが、より多くのユーザーに訴求できました」
インゲンラートはすぐに、新ブランドのあらゆる課題に没頭するようになった。どうやってその価値を伝えるのか?どのようなラインナップにするのか?ボルボ車とどのように関連するのか?誰が買ってくれるのか?これらはすべて未解決の問題だった。
「新しいブランドを立ち上げるというのは、クルマをデザインするだけではなく、それ以上のことをしなければならないということなのです」
「ある日、ホーカンのオフィスに行くと、彼がこう言ったんです。『いいかい、トーマス、君は20年も前からやっているんだ。そろそろ自分自身に挑戦して、このブランドを完全にコントロールする時が来たのではないだろうか』と。彼はわたしに、CEOになるチャンスと、そのために必要なすべてのツールとパワーを与えてくれたのです」
CEOの個性を反映したブランド
インゲンラートの人事異動は2017年の中頃に発表された。ポールスターの要となるモデルに2が採用されたことで、はるかに高級で高価な「アナウンスメントモデル」である1にも変化が生じた。クロームを取り除き、より先進的なデザインになったのだ。
カラーとトリムの担当者は、マットホワイトのフィールドにグロスホワイトでロゴを描くというアイデアを思いつき、それが功を奏した。
「彼らの言うことが正しいと理解するのに数日かかりましたが、今では元に戻すことは考えられません。CEOになってすぐに学んだことは、変化への順応を加速させなければならないということでした。会社があまりにも急速に成長し始めたため、3か月後には主要な手順のいくつかが意味をなさなくなってしまったのです」
ポールスターはクールで、モダンで、スタイリッシュで、攻撃的ではなく、環境に配慮し、スカンジナビアデザインの基本的な価値を尊重している。正直なところ、新ブランドはインゲンラート自身のイメージに沿って意図的に形成されたように見える(それが彼にAUTOCARアワードを授与する理由でもある)。
そのことを本人に問うと、言葉の選択に迷った末、「その通りです」と答えた。
「なぜそれが良いことなのかというと、わたしは役割を演じる必要がなく、ありのままの姿でいられるからです。新しいブランドを立ち上げたばかりの頃は、クルマのデザインだけでなく、事業全体を発展させるための価値観についても、配慮と情熱と愛情をもって取り組む必要があります。もし、それらをリーダーと結びつけることができれば、特に初期段階では大きなメリットがあります」
「その後はあまり重要ではなくなります。長い歴史を持つポルシェでは、そのブランド・バリューについて今更説明する必要はありません。でも、最初の頃は重要なんです」
何にでも首を突っ込みたがる
インゲンラートは、「何にでも意見を言う」という自身の評判が、この仕事につながったと考えている。ポールスターは、ロゴやレターヘッドをはじめ、見込み客へのメールでの連絡方法、公道での走行テスト、ショッピングモール内の「ブランドセンター」開設など、デザインに関するすべての事項に細心の注意を払っている。
英国では、サッカー選手のマーカス・ラッシュフォードが行っているチャリティー活動に食料を寄付するよう、関係者に呼びかけたこともある。
「ポールスターのスタッフはわかっているんです。わたしがすべてに首を突っ込まないとは限らないとね」とインゲンラートは笑う。
インゲンラートによると、デザイン責任者からCEOへの転身は、多くの人が想像するような大掛かりなものではなかったという。
「チーフデザイナーは感情やインスピレーションで動くものだと思われがちですが、実際にはビジネスや経済、技術などをよく理解していないと、議論では存在感を示せません。議論に勝てるだけの情報を持っていなければ、自分の仕事をしたことにはならないのです」
しかし、さまざまな責任があるにもかかわらず、彼がCEOになって感じた最大の喜びは、ある種の自由な感覚だ。
「正直に言うと、大好きです」と彼は明かす。「過去に提供したものに左右されることなく、ブランドの舵取りをすることは、デザイナーにはない純粋な喜びです」
「数年前、ボルボのソリューションとしてマットウッドを宣伝するプレゼンテーションを行ったことを覚えています。誰もが『素晴らしい』と言ってくれました。わたしは何かを成し遂げたと思い、いい気分になっていたのですが、その時、ある人にこう言われました。『ちなみに、ここ米国ではよく磨かれたウッドが求められるんですよ』と」
「マーケティングに携わる人は、自分の領域は他とは違うと考えるものです。しかし、今ではわたしが世界を支配しています。少なくともウッドの仕上げに関する限りはね」
ポールスターの道を示すプリセプト
2020年のジュネーブ・モーターショー出展用のコンセプトモデルとして計画され、昨年9月に生産が決定した高級セダン「プリセプト」は、トーマス・インゲンラートが新ブランドに込めた野心を明確に示している。
プリセプトのエクステリアは、彼がポールスターのデザイン原則と位置づけているものをよく表現している。「超精密な幾何学的形状と、ソフトで彫刻的なボディ」だ。
プリセプトは、メルセデス・ベンツSクラスと同等の全長を持つピラーレスのセダンで、優美なパノラミックルーフを備えている。通常はリアウィンドウ用のスペースを作るリア構造を後方に移動させ(カメラで後方視界を確保)、さらに大型リアハッチを採用している。
また、従来のクルマにはラジエーターグリルがあるが、プリセプトのフロント部分にはカメラやレーダー機器を設置する「スマートゾーン」がある。「息をすることを見ることに置き換えるのです」とインゲンラスは語る。
インテリアには、リサイクルされたペットボトル、再生された漁網、廃棄されたワインボトルのコルク栓、亜麻など、さまざまな素材を使った軽くて丈夫な素材が採用されている。インゲンラートの言葉を借りれば、「ディストピア的なブルータリズムを、洗練されたハイテク・ミニマリズムに置き換えた」ということになる。
手を近づけると表示アイコンが大きくなるなど、ドライバーの気が散らないようにデザインされたタッチスクリーンが前面に配置されている。
来年発売予定の新型SUVに次ぐ、ポールスター4番目のモデルとなると考えられているプリセプトは、2024年までに市販モデルが発表される見込みだ。
一問一答集:ボルボとの違いは?
――世界はなぜ、新たな自動車ブランドを必要としたのか?
「既存ブランドですべてを成し遂げていると考えるのは傲慢です。また、他の地域(主に米国と中国)に、新しいものすべてを任せるわけにはいきません。わたし達は、独自の空間を持つブランドを作ることができると確信しています」
――導きの星
「わたし達(ポールスター=北極星)は、自分たちが導きの星であるという傲慢さを持つべきではありません。それは理想であり、目標であるというだけです。謙虚でなければならないのです」
――ポールスターとボルボの位置づけについて
「ポールスターとボルボというブランドは、まだ世間的には思ったような位置づけとはなっていません。両ブランドはあまりにも近すぎる。だからこそ、数年後のわたし達の姿を理解してもらうために、ポールスター・プリセプトというコンセプトを打ち出したのです」
「今のところ、ボルボの子供として見られるのは正しいことであり、その信頼性には大きな価値があります」
――2つのスウェーデンブランド
「歴史が証明しているように、これは完全にうまくいきます。過去にはサーブとボルボという、まったく異なる2つのスウェーデンブランドがありました。これは再びうまくいく可能性があります」
――シャシーの違い
「ポールスター2のシャシーは、ボルボでは受け入れられないでしょう。というのも、スピードバンプの乗り越え方が、後ろにいる子供たちには強く感じられてしまうからです。わたしは、それが自然な分離(差別化)につながることを期待しています」
一問一答集:ジーリーの関与は?
――迅速なモデル投入
「迅速でなければなりません。今や20年も待てません。変化のスピードが速いのです。これからの5年間は、本気で行動を起こさなければ、パーティーに遅刻してしまうと思います」
――ポールスターの事業規模
「ニッチな企業では生き残れません。持続可能な企業になるためには、ある程度のボリュームが必要です。わたし達は、年間10万台以上の販売を達成し、それ以上に成長したいと考えています」
「では、テスラのようにボリューミーな道を辿るのか?わたしはそうは思いません。わたし達は、フォルクスワーゲンに勝つために努力するのではなく、プレミアムブランドでありたいと考えています」
――欧州のEVポテンシャル
「中国がすべてを握っているわけではありません。過去12か月間に欧州で発売された製品を見てください。わたしは、誇りを持って言いますが、欧州が電動化のリーダーとなる可能性はまだ十分にあると信じています。レースはまだ終わっていないのです」
――ジーリーとの関係
「彼らは関与し、意見を持ち、わたし達が間違ったことをすれば責任を取ってくれます。しかし、彼らの役割は主にサポートです。もちろん、リー・シューフー(李書福:ジーリーの創業者兼オーナー)はポールスターの発展を大いに支持してくれていますが、会社の運営がわたし達の仕事であることを十分に理解しています」
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