ホンダの軽自動車「N-ONE」の新型に今尾直樹が試乗した。自身もN-ONEを所有するからこそ、気が付いたポイントは?
新型N-ONEのグレード構成
マイナーチェンジとは思えぬ驚きの仕上がりとは? 新型レクサスIS試乗記
8年ぶりに全面改良を受けたホンダの軽自動車、N-ONE(エヌ・ワン)の試乗会が横浜みとなみらい地区で開かれた。軽自動車初のFFターボ×6MTということで話題の「RS」のマニュアルもヨカッタし、ベーシック・モデルの「オリジナル」も、高級仕様の「プレミアム」もヨカッタ。つまり、3台試乗した新型N-ONEは全部ヨカッタ。
もはや軽自動車とは思えぬ、一人前の自動車の落ち着きが感じられた。逆にいえば、軽自動車の区分を考え直すべき時期に来ているのかもしれない。
というと先走りのしすぎなので、まずは新型N-ONEの商品展開から説明しましょう。冒頭に記したように、新型N-ONEには3つのタイプがある。
Sho Tamura「オリジナル」は14インチの鉄ちんホイールで、昔風のホイール・キャップが付いている。パワートレインは660cc直列3気筒の自然吸気エンジンとCVTのみ。赤、薄いブルー、アイボリーなど、1960年代風のボディ色もあったり、内装も2トーンの明るいシート表皮が用いられていたりして、全体にシンプルでカワイイ仕立てになっている。
「プレミアム」はボディの前後と横にメッキをあしらい、LEDフォグライト、アルミ・ホイールを装備する。内装ではステアリングホイールが革巻きになり、シート表皮はダーク系で統一される。エンジンには自然吸気とターボがあり、後者は「プレミアムツアラー」を名乗る。ターボ・モデルはアルミ・ホイールが14インチから15インチに格上げとなる。ギアボックスはCVTのみである。
Sho TamuraSho TamuraSho Tamura「RS」は2017年の初代N-ONEの何度目かのマイナーチェンジで追加されたスポーティ仕様で、新型ではCVTのほか、6MTが新たに設定されている。
6MTは2座のミドシップ・オープン・スポーツカー、S660のそれを前輪駆動用に改良して搭載している。ホンダが「軽自動車初のFFターボ×6MT」と銘打っているのは、ターボ×6MTはS660で実現しているからだ。FFターボ×5MTはスズキ「アルト・ワークス」が現在もあるし、過去にもある。
ちなみにFF自然吸気×6MTの軽自動車はホンダにもあります。それはなんでしょう? 答は「N-VAN」。リアの両サイドにスライド式ドアをもつ、趣味人のための軽バンだ。
「オリジナル」と「プレミアム」および「プレミアムツアラー」にはFFのほか、4WDの設定もあるけれど、会場には持ち込まれておらず、試乗したのはすべてFFである。
「上質な小型車を操っている感がある」
最初に乗ったのは、RSの6MTで、筆者も個人的に興味津々の1台である。外観は鮮やかなイエローにブラックのルーフの2トーン・カラーで、マット・ブラックの15インチのアルミ・ホイールを履いている。
Sho TamuraSho TamuraSho Tamuraインテリアは基本的にブラックで、シートとステアリングホイール、シフトレバーの周辺にオレンジ色があしらってある。ボディ色とのコーディネートを考えるとオレンジ色でいいのか、という疑問を抱かないでもないけれど、それは好みの問題だとして、本革巻きのステアリングとシフトノブには突出した高級感を感じる。
「まるで、180万円ぐらいしそうだ」
と、筆者は思ったけれど、RSの6MTの車両価格は199万9800円。どひゃー。高いっす。知っていたけど、あらためて驚く。ルノー「トゥインゴ」には5MTで179万円のSというモデルがあるし、MTはないけれど、フォルクスワーゲン「up!」は167万3000円。国産の軽自動車は高いのである。
Sho TamuraホンダN-ONEはそのなかでも高いのだ。アルト・ワークスのFFターボ×5MTは153万7800円。N-ONEのいちばん安いモデル「オリジナル」は159万9400円。おなじホンダのN-WGNと較べても、おおむね30万円高い。初代からして“プレミアム軽”という位置づけだから、いまさら驚くには当たらない。問題は高いだけのことがあるのかどうか、である。
ということで、いざ発進! クラッチは軽くて節度がある。つながりはわかりやすくてスムーズで、扱いやすい。6MTの丸い筒形のシフトノブは「S2000」のそれをデザインのベースにしているというエンスージアスティックな代物で、ある重さを持っている。ギアボックスのゲートは明確で、がちゃんこがちゃんこ、シフトを繰り返したくなる。
Sho TamuraSho Tamura走り出して驚くのは、エンジン横置きのFFにありがちなギクシャクが皆無なことだ。変速の際もあっけないほど滑らかで、洗練されている。
エンジンはほかのNシリーズ、N-BOXやN-VAN、N-WGNと基本的には同じで、658ccの直列3気筒DOHCターボの最高出力64ps/6000rpm、最大トルク104Nm/2600rpmという数値もほかのモデルと同じだ。ぜんぜんドッカン・ターボではなくて、低速トルクがしっかりとある。だから扱いやすい。
Sho TamuraSho Tamura実はRSのMTのエンジンのみ、専用セッティングが施されている。具体的にはアクセルのオン/オフによるエンジンのレスポンスをあえて鈍くしているという。スムーズなシフトを意識してのことで、横置きFFなのにギクシャクしないのはその効果によるものなのだ。
3000rpmを超えると、ゴオーッという意外と男性的な排気音を発する。美声というわけではない。でも、S2000風のシフトノブを操作して、アクセルをフロアまで踏み込み、スイスイ走っていると、上質な小型車を操っている感がある。
Sho TamuraSho TamuraSho Tamura車重840kgで64psだから、めちゃんこ速いわけではない。さりとて、いまどきの軽自動車を軽だと侮ってはならない。4速でレブ・リミットの7000rpmまでまわしてやると、100km/h以上に達してしまう。5速、6速トップと、あと2枚もギアが残っているのに! 余裕で高速巡航をこなす実力の持ち主なのだ。
しなやかな乗り心地も好印象で、これには「横力キャンセルスプリング」という工夫が効いているらしい。ダンパーに対してスプリングをオフセットすることにより、ダンパーのスムーズな動きを可能にするという。
筆者の推測ながら、軽自動車とは思えぬフラットさは2520mmのホイールベースをうまくいかしてもいるのだろう。VW up!のホイールベース2420mmやトゥインゴ のそれの2490mmよりも長いのだ。トレッドは前後1295mmと、up!やトゥインゴより100mm以上も狭いのは、全幅1.48m以下、という日本の軽自動車規格のいびつなところゆえだけれど、少なくとも一般道、首都高をフツウに走っている限り、 RSのマニュアルはコーナリングも安定していた。
Sho TamuraSho TamuraSho Tamura新型はたいへんしっかりしている
このあと、「オリジナル」、続いて「プレミアムツアラー」に試乗した。筆者のウチに初代N-ONEの初期型の自然吸気モデルがあるので、おなじ自然吸気の「オリジナル」の進化の具合には目を見張った。
新型N-ONEの特徴のひとつは、基本的には同じプラットフォームのN-WGNとは異なり、フロントだけでなく、リアにもスタビライザーを全車が備えていることだ。「RS」はもちろん、自然吸気ユニットのもっとも安価な「オリジナル」も、これを装備している。
Sho TamuraSho Tamura自然吸気は最高出力58ps、最大トルクは65Nmと控えめだ。その分、サスペンションはソフトに仕立てられている。155/65R14の細くて扁平率の高いタイヤ・サイズのおかげもあって、乗り心地はあくまでやさしい。にもかかわらず、高速道路でもウチの初代N-ONEよりはるかに安定している。
リア・スタビライザーの有無だけではない。ステアリング・フィールもウチのはあいまいだけれど、新型はたいへんしっかりしている。電動パワー・ステアリングの制御ロジックには特に意を払ったそうで、その効果だろう、新型N-ONEはステアリング・ホイールとクルマとのあいだにちゃんとつながり合うものがある。
Sho TamuraSho TamuraSho Tamuraボディ剛性は上がり、静粛性も上がっている。CVTの制御もよくなっており、ウチのはフル加速すると“ガーッ”とエンジンが大きな音を立てて回転を積み上げ、そのあと、遅れて加速を始める。その騒音の音量が小さくなり、加速のマナーもリニアになっている。
「プレミアムツアラー」は「RS」のCVTと同じターボ・エンジンを搭載しているので、出力増に合わせて、乗り心地が自然吸気モデルより引き締められている。RS、オリジナル、最後にプレミアムツアラーに乗った筆者的には、RSよりタイヤが若干ドシンバタンするような気がした。
Sho TamuraSho Tamura“おとなの軽”に生まれ変わった
そこで試乗後、ホンダのエンジニアに、RSとプレミアムツアラーとでサスペンションの違いはあるやなしや、と質問してみたら、回答は次のごとくだった。
すなわち、RSはエンジン音がよく聞こえるセッティングにしている。ドライバーは元気な音で元気よく走る。一方のプレミアムツアラーは静粛性に意を払っている。室内が静かなので、神経がドシンバタンを無意識に意識し、そう感じたのではないか。
Sho TamuraSho TamuraRSはダンロップのエナセーブ、プレミアムツアラーはブリヂストンのエコピアを履いており、サイズはどちらも165/55R15だけれど、ブランドの違いももちろんある。
このような回答から、ちゃんと確認しておけばよかったのですけれど、RSとプレミアムツアラーで足まわりに違いはないということが推測できる。いずれにせよ、音がドライバーの心理面に影響するというエンジニア氏の説明は筆者的に腑に落ちるものがあったので記しておく。
というわけで、新型N-ONEは初代N-ONEを熟成した、その意味では2代目にふさわしい“おとなの軽”に生まれ変わった。正常進化で、すべてがまるっとよくなった。
Sho Tamuraそれもこれも、次世代パワーユニットの開発が優先され、既存モデルの開発費が抑えられているからだと筆者は推測する。
たとえば、新型N-ONEは前後の意匠こそ異なるものの、ボディのアウター・パネルは初代と同じものだそうで、これによりいくばくかの経費が抑えられたのは確かだろう。デザイン部のひとは、初代の外板と現行N-WGNのフロアをつなぐのに苦労されたみたいではあるけれど、その甲斐あって、「タイムレス・デザイン」は2代目N-ONEのアイデンティティとして、いっそう強固になった。お金がないから知恵を絞るしかない。やることは限られる。それがいいほうに全部出た。
もし×があるとすれば、初代N-ONEに親しんでいる筆者だから思うのかもしれないけれど、室内が若干タイトになっていることを指摘しておきたい。でもこれ、あえてタイトにしているのだ。初代N-ONEはベンチ・シートを採用していて、運転席と助手席のあいだになにもなかった。だから、とてもゆったりしていた。
Sho Tamura2代目では全車セパレート・シートとなり、MTのシフト・レバーの位置の問題もあって、運転席と助手席のあいだにコンソールを設けることになった。そのため、よくも悪くもミニバン的な広々感がなくなった。
後席は、初代N-ONEの途中で加えられたロールーフがデファクトになってもいる。立体駐車場に入るように全高を10mm低めた仕様で、その分、後席のヘッド・ルームがわずかに削られている。その代わり、立体駐車場に入れられるようになって便利になった。
居住空間が狭くなったのは悪いことばかりではない。運転席と助手席のあいだに設けられたセンター・コンソールは、初代に慣れた筆者には窮屈感につながっているけれど、コーナリング時にドライバーが左ひざをコンソールの側面に当てて体を支えられるというメリットもある。狭いと書くと×だけれど、スポーツカー的なタイト感と書けば○になる。
運転の楽しい軽自動車
つまるところ、2代目N-ONEは初代のファミリー・カーからパーソナル・カー色を若干強め、ドライバーズ・カー寄りにキャラクターを変えているのだ。
これには、ファミリー・カーとしては日本一のベスト・セラーであるN-BOXがあり、N-WGNが初代N-ONEのポジションにやや近いところに移動したという事情もあるだろう。おかげで、新型N-ONEは元祖のN360により近づくことができた。結果的にはヨカッタのである。
Sho Tamuraいずれにせよ、運転の楽しい軽自動車がここに登場した。これが新型N-ONEの大○であろう。運転好きにとってはもちろん、運転好きではないひとにとっても、運転の楽しいクルマは大歓迎のはずだ。だって運転が楽しいクルマを運転すれば、運転嫌いもきっと運転好きになる。
ファン・トゥ・ドライブなプレミアム軽と認知されれば、ホンダのミニとかフィアット500となる可能性も高まる。自動車のキャラクター商品。いまは国内のみだけれど、「ドラえもん」とか「ルパン三世」みたいに世界に飛び出す可能性だってある。その始まりが1967(昭和42)年のN360だとすれば、世界で最も長く放映されているTVアニメの「サザエさん」が1969(昭和44)年だから、2年長い伝統と歴史もある。
Sho Tamuraもしも、タイムレス・デザインとしてN-ONEのカタチが国民に受け入れられたなら、「計画的陳腐化」とは正反対、内燃機関が禁止されたあともEVになってつくられ続け、愛され続ける……なんてことだってありえる。
可能性は無限大だ。
文・今尾直樹 写真・田村翔
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