この記事をまとめると
■ヨコハマタイヤの新作スタッドレス「アイスガード7」を中谷明彦さんが試した
まだ溝のある数年落ちのスタッドレス! どうせ来年買い替えるといっても「溝が減るまで」夏の履き潰しは危険だった
■「アイスガード6」と比較することでサイピング技術の進化を体験
■「アイスガード7」はより万人受けのタイヤとして安心感を手に入れていることが確認できた
テストドライブ会場までの一般道でも安全・快適
今シーズンも冬のドライブを力強くサポートするスタッドレスタイヤが注目される季節がやってくる。ヨコハマタイヤは昨シーズンに引き続きアイスガード7を市場投入し、安全安心の雪道ドライブをサポートするという。
今回は改めてアイスガード7の実力を試すべく、北海道旭川市にあるヨコハマタイヤのタイヤテストコース(TTCH)、およびその周辺の一般道で安心安全な性能を確認してみた。
まず最初は、トヨタカローラツーリング/ハイブリッドE-Fourに装着したアイスガード7である。IG70というネーミングで、サイズは205/55R16というサイズが装着されている。
テストドライブ起点となる旭川空港を出ると、一般道はすでに降雪で圧接された状態。ところどころ乾燥舗装路が顔を出し、複雑な路面状況を呈している。南側は気温が高く路面は乾いているが、斜面の北側へまわり込むと、途端にアイスバーンが路面全面を覆っているというような状況で、タイヤの性能だけに頼ることは危険な道路条件だ。ドライバーが常に周囲の状況を感知しながら適切な運転操作を心掛けなければならない。
ハイブリッド車の場合は、ドライブレンジのなかにBレンジが備わり、これによりエネルギー回生によるエンジンブレーキを強めに作動させることが可能で、このBレンジを多用してフットブレーキによる減速をなるべく控えることがABSの介入を防ぎ、ひいては車両の安定性の確保にも繋がるといえる。Bレンジを使って走行すると、アイスガード7との相性は抜群に良く、ライントレース性、減速G、トラクションによりしっかりと路面を掴みながら快適に走ることができる。
舗装区間が長くなるとパターンノイズが聞こえ、とくにカローラツーリングのようなツーボックスタイプの場合、後席への音の侵入が大きく感じられるが、全面圧雪路であればパターンノイズはほとんど感じることがなく快適だ。雪道においては快適性よりも安全性第一ということを考えると、パターンノイズの発生を抑えることで雪上性能の低下を招くのなら多少音がしてもそれを受け入れてより高い安全性を求めることが優先されるべきだろう。
一般道のなかにはワインディング区間があったり、また 登坂路もある。そうしたあらゆる路面において安定したグリップ感が得られることがこのアイスガード7の特徴で、これまで凍ったアイスバーンでのブレーキング性能のみが高く求められていたのに対し、近年は圧雪路での雪上性能への要求も高まっていると言われることから、幅広い路面に対応できることはユーザーが本来求めていたことにほかならない。
テストコースに着くとさまざまなテストステージが用意されていた。
最初に行ったのはヨコハマタイヤの誇る屋内氷上テストコースのメニューである。マイナス10度の低温路面に調整された極低温度、そしてその隣にマイナス2度の低温路面が用意され、プリウスの四輪駆動車に装着したアイスガード7(IG70)と、一昨年までの主力商品だったアイスガード6、さらにアイスガード7で採用されたコンパウンドのみを採用した、なんとスリックタイヤの3種による比較テストを行うことができた。タイヤサイズはそれぞれ195/65R15が装着されている。
まず、極低温路をアイスガード6で走行を始めると、時速30キロからのフル制動でおよそ20m程度の制動距離で直進性を乱すことなくしっかりと止まることができる。これを標準の性能と捉え、次にアイスガード7に乗り換えてみる。
アイスガード7だと時速30キロからの制動で制動距離は約5m縮まって15mの目印のところで止まることができる。ただ、進入速度を30キロにぴったりと抑えることはなかなか難しく、とくにトラクション性能が高まっているアイスガード7では加速状態からの制動という場面になってしまうこともあり、安定して15mという制動距離を確保することはできなかったが、止まる最後の数mではグッとしっかり路面をつかむ感触も得られ、サイピング技術が明らかに進歩しているという実感を得ることができた。
次にスリックタイヤの仕様で試す。スリックタイヤは表面に一切サイプも溝もなくつるんとしたトレッド表面なので、発進することすら難しいと思われたが、四輪駆動の効果もあり、意外にもすんなりと発進し加速して行くことができる。もちろんタイヤは空転していて、車速は車輪速によって表示されるので実速度を30キロに合わせることは非常に難しい。
そして、ブレーキを強く踏み込むとABSが即座に介入し、制動距離はどんどん伸びていく。結果としては20mを5mほど超える位置でようやく止まるような状況となった。もっともつるんと滑りそのまま先まで滑っていってしまうのではないかという危惧は当たらず、ブレーキを踏むとABSは介入するけども減速Gも立ち上がり、確実に止まる制御をするという感触は確かめることができた。スリックタイヤにおいてこのような結果が引き出せるというのはとても意外なことといえる。
続いて低温の路面温度マイナス2度で同じく3種のタイヤを比較する。マイナス2度の路面というのは比較的一般路、たとえば関東地方でも起こりえる幅広い地域で実際の冬の路面に即した路面温度と言え、ここでの性能の格差というのは、現実に近い結果が得られると言える。
ここではやはりアイスガード7がもっとも短い制動距離で止まることができ、またグリップ感、直進制動安定性なども抜き出ているということを実感できた。
スリックタイヤ、アイスガード6ももちろん同様に止まることができるが、マイナス10度の時よりもアイスガード7との差はやや大きくなったと言える。これはアイスガード7が雪上性能、つまりマイナス2度程度の路面により特化したサイプやトレッドのパターン技術を採用したことが功を奏しているといえるだろう。
雪に効くだけでなく扱いやすい性能も兼ね備える
次に圧雪路の屋外スラロームコースで性能比較をしてみる。こちらのコースで用意されたのは同じくプリウスでタイヤサイズも同じである。四輪駆動ということもあり、発進においては問題なく走行可能だが、とくにスリックタイヤを装着したモデルではスラロームは厳しいだろうという予測だったが、意外にもスリックタイヤのプリウスも右左へとラインを変更してスラロームをクリアすることが出来た。ただ、操舵初期の応答性はほとんどなく、操舵輪が大きな操舵角を得たときにタイヤのショルダー部がエッジ効果を発揮して急にひっかかるようにまわるといったような旋回フィーリングであった。
アイスガード6はもちろん、すでに実績のあるタイヤでありスムースで正確なライントレース性なども完成度の高さを示したが、現行アイスガード7はさらにそれを熟成させ、ステアリングの手応えや旋回時のグリップ感なども得られるほどに性能が高まっている。確実なライントレース性や操作性、そしてブレーキ、発進の安心感などを総合的に評価すれば、最新のアイスガード7はかなり高評価が得られると言える。時速40キロのスラロームと60キロのスラロームを試したが、車速が上がるとさらにその格差は広がり、アイスガード7がもっとも高い性能で仕上がっていることが確認できた。
次に流行のミニバンでアイスガード7と6の比較を行う。用意されたのはトヨタのヴェルファイア。フルサイズのワンボックスカーでE-Fourの四輪駆動を採用している。装着されたタイヤは235/50R18という非常にスポーティな外観を持つ幅広で低扁平なサイズのタイヤである。
発進は四輪駆動ゆえアイスガード7、6ともにスムースで確実な加速が得られるが、ステアリングの切り始めの応答性の高さ、そして最大舵角に達した時の路面をつかむ感覚が、アイスガード7ではより手応えとしてドライバーが感じ取ることができ、それは安心感につながるものだった。スラロームを行っていくと、だんだんヨーダンピングと言ってリヤが流れ出す傾向が強くなっていくが、そんな場面でもアイスガード7はヨーの立ち上がりが比較的穏やかで、リヤの流れ出しがゆっくりなのでドライバーが感知しやすく、それをステアリング操作やアクセルワークなどによって収斂させることも容易に行える。
アイスガード6では流れ出しスピードが速く、それを抑え込むにはいささかスキルの高いドライビングテクニックが求められるため、より万人受けのタイヤとしてアイスガード7は安心感を手に入れていると言えるだろう。
その次は同じく雪上スラロームだが、最新のトヨタGR86、FRの二輪駆動車で6速マニュアルトランスミッションを持つ仕様の車両が用意されている。装着タイヤは215/45R17で低扁平のスポーティタイヤサイズである。二輪駆動FRゆえ、発進時にトラクションはかかりにくく、容易にタイヤが空転を起こす。トラクションコントロールをオンにしておいても介入が入るので四輪駆動車のような鋭い加速感は得られないが、GR86が装備しているトラックモードを選択すれば、そのスリップと駆動力のバランスが適度に保たれ、スポーティさを維持しながらも確実にクルマを前へ進めることができた。
スラローム区間に入るとフロントのターンインの応答性が良く、それに伴いリヤがスムースに流れ出していく。そこでアクセルワークによりリヤのスライドをコントロールしながらパイロンを右左とリズムよく駆け抜けていくことができる。そのときの運動性能、コントロール性、パワーオンオフによるグリップ変化の扱いやすさなど、FRのスポーティカーを雪上で楽しく走らせることに、アイスガード7は非常にマッチングよく応えてくれている。
いわゆるドリフト走行的な楽しみも存分に行え、雪上ゆえタイヤの摩耗が抑えられ、またクルマへの負担も少ないと考えられることから、こうしたクローズドされたスラローム会場があれば、ドリフト走行の有効なドライビングトレーニングができるだろうと思わせられた。
今冬もアイスガード7が雪道での安全性を守る
さて、次は同じくスラローム走行だが、用意されたクルマは注目のトヨタGRヤリスRZハイパフォーマンスの4WD6速ミッション仕様車だ。全日本ラリーなどでも活躍し、いまもっとも注目されているこのGRヤリスを雪上で走らせることが出来るのは非常に有益で貴重な機会となる。装着されているタイヤは225/40R18 という低偏平のスポーティサイズで、アイスガード6と現行のアイスガード7(IG70)を装着した2モデルが用意された。
まず、アイスガード6でスタートする。四輪駆動車ゆえスタートのトラクション性能が高く、またGRヤリスのクロス化されたトランスミッション、そしてターボエンジンの力強い加速でラリーのスタートを彷彿させるような鋭いダッシュを引き出せる。スラローム区間を抜けていくと、四輪ドリフト状態からゼロカウンターをうまくコントロールすることができ、ダイナミックで迫力のある走行が可能だ。
バックミラーを見ると雪煙がけたたましく立ち上がり、タイヤが路面をしっかりと捉えながらもトレッドパターンが雪の表面を削り取って巻き上げているというのが実感としてわき上がる。制動Gもしっかりと伝わりABSが介入するものの決められたボックスの指定区間の中にきっちりとクルマを止めることができる。
次にアイスガード7(IG70)装着モデルに乗り換える。スタートでのホイールスピンは少なくなり、より強力な加速ダッシュで速度を上げることが可能となっている。また、ターンインにおいてはしっかりとステアリングの手応えを感じながらヨーを立ち上がらせ、さらにテールがリバースしたときに感じる横Gも、アイスガード6よりもしっかりと体感できるレベルに高まっている。
四輪駆動車の場合はアクセルオンすることによりトラクションがかかり、ヨーダンピングを抑える方向に車両の運動特性をコントロールすることができるため、旋回区間はパワーオフで回頭性を高め、それをパワーオンで収斂させて立ち上がって行くという非常に理想的な走行姿勢を引き出すことが容易にできた。
GRヤリスはカップリング式の駆動配分装置を持つ四輪駆動で小型軽量かつハイパワーであることから、もともとこうした雪道の運動性能に優れた特性がもたらされているわけだが、アイスガード7(IG70)とのマッチングで、よりそれを高度に引き出すことができると確認できた。
最後のメニューは、ヨコハマタイヤ自慢の雪上ハンドリング路において、なんと全日本ラリーでトップクラスを疾走しているアドバンカヤバKTMS GRヤリスに、モンテカルロラリーで唯一の日本人優勝者でもある奴田原文雄選手がドライブするマシンの横に同乗させてもらえる、というステージが用意されていた。
クルマはGRヤリスだが、ラリー用に改造されている。というもののトランスミッションはノーマルのマニュアルトランスミッションに変更されていて、本来のラリーで使われるドグクラッチのミッションとは異なっているという。装着されたタイヤはノーマルと同じ225/40R18で、果たしてこのロールゲージが張り巡らされ鍛え上げられたサスペンションと本格的なブレーキシステムをもつ全日本ラリー車とのマッチングがどうなのか興味深い。
早速、横に同乗させてもらい奴田原選手のドライブで発進する。加速感がしっかり感じられるほどにアイスガード7は路面をしっかりととらえていて、最初のコーナーからクルマを大胆にドリフトさせ雪の壁が正面に見えるような姿勢で旋回して行く。
奴田原選手はもともと三菱でランサーエボリューションを駆っていたことから、僕自身はかなり昔から付き合いのある選手で、お互いランサーエボリューションについて多くの経験を積んできた。そんな奴田原選手にGRヤリスの可能性を聞くと、非常にコンパクトで扱いやすく戦闘力が高いクルマだという返事が返ってきた。実際運転していて楽しそうであるし、現状でも戦闘力としてはランサーエボリューションXを上まわっているのを確信している様子だった。
ノーマルタイヤでハイスピードでハンドリングコースを責める奴田原選手だが、クルマの姿勢は非常に安定している。外から見るとものすごい姿勢で、まるでモンテカルロラリーのワンシーンを見ているようだが、室内はいたってスムースなG変化と快適な乗り心地、そしてコントロールのしやすそうな奴田原選手の運転姿勢を確かめることができた。できれば自身でも操縦してみたかったが、今回は同乗走行のみということでこの貴重な経験をさせていただくことになった次第である。
このようにアイスガード7はすでに多くのユーザーに支えられ高い評価と実績が築かれた信頼できるタイヤである。
今回それを改めて確かめることで、また今冬もアイスガード7によって多くの雪道での安全性が確保されるということを期待している。
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