自動車の電動化が進む今、かつてあった内燃機関を搭載した旧車に注目が集まっている。なぜなら最新モデルでは得難いエンジンサウンドやエンジンフィール、ハンドリングなどを有するからだ。そこで『GQ JAPAN』ではちょっと懐かしいクルマを振り返り、旧車ならではの魅力を深めていく。第2回目は井上陽水出演のCMでも話題となった初代「セフィーロ」をベースにしたオーテックバージョン!
和製アルピナとも言うべき1台
いささか旧聞に属するが、2022年11月に日産の純正コンプリートカーである「AUTECH」と「NISMO」のモデルを中心とした公式オーナーイベント「オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング 2022」が行われた。
3年ぶりの開催となった同イベント(場所:大磯ロングビーチ第一駐車場)には、現在の日産モータースポーツ&カスタマイズの前身であるオーテックジャパン時代の往年の名車も顔を見せた。会場では懐かしの名車(迷車?)もあった。
そのイベントで異彩を放っていた初代「セフィーロ」をベースにしたセフィーロ オーテックバージョンを紹介したい。1988年の発売当時、免許を保有しない歌手の井上揚水が、助手席から「お元気ですか?」と、問いかけるCMが話題となった日産のアッパーミドルセダンだ。
基本コンポーネンツは、同クラスの「スカイライン」(R32)などと共有。ボディ形状は、スカイラインがピラー内蔵の4ドアハードトップに対して、セフィーロは、フォーマルな4ドアセダンに仕上げられていたのが特徴のひとつだった。
内外装や装備、エンジンなどをユーザーが自由に選択できるセミオーダーメードシステム「セフィーロ コーディネーション」も導入され、自分だけの1台を作り出せる愉しさも提供されていた。
初代セフィーロをベースに、日産の架装車部門であったオーテックジャパンが手掛けた純正コンプリートカーが、「セフィーロ・オーテックバージョン」だ。4WSシステム「HICAS-II」と2.0L直列6気筒ターボエンジンを組み合わせた「スポーツクルージング」をベースに、独自のチューニングとカスタマイズを実施した。“大人の高級スポーツ”を謳った世界観は、和製アルピナとも言うべき1台である。
エクステリアは、エアロパーツなどによってドレスアップを実施。フロントバンパーとリヤバンパー、サイドスカートは専用設計で、足まわりには、PIAA製専用アルミホイールに、標準装着品よりもワイドな215/60R15ポテンザRE88タイヤを組み合わせた。オーテックモデルである証として、フロントグリルやフロントフェンダーに専用エンブレムが装備され、特別なモデルであることが主張された。
細部にまで手をくわえるエクステリア以上に凄いのはインテリアだ。シート表皮とドアトリムなどには、贅沢にも英国コノリー社製の最高級レザーを使うのだ。表面は、機能性を重視した当時の日本車のレザー内装とは一線を画す。
さらにステアリングは、イタリアのイタルボランテ製。移動時間のムードを盛り上げるべくオーディオシステムも専用チューニングが施されていた。
エンジンにも手をくわえ、性能向上を図ったのもオーテックならではのこだわりだ。タービンの大型化だけでなく、抵抗の少ないボールベアリングターボチャージャーに変更。シリンダーヘッドの吸排気ポート形状やカムシャフトの変更まで行っていた。その結果、最高出力は20psアップの225psに。最大トルクは3.0kgmアップの30.0kgmまで強化。ポートやカムシャフトまで手をくわえているあたり、エンジンレスポンスやフィーリングの向上も狙いだったのだろう。
セフィーロ・オーテックバージョンは、モノグレードであり、4速ATと5速MTを用意。価格は、339万3000円(MT)と349万円(AT)で、それぞれベースのスポーツクルージングより88万1000円高価だった。
当時のセフィーロは、井上揚水のCMや糸井重里が手がけたキャッチコピー「くうねるあそぶ。」などが話題となり、注目こそ集めていたものの、販売は好調と言い難く、それゆえ、より高価なオーテックバージョンもセールスは苦戦した。
撮影車は、1990年8月以降に登場した中期モデルをベースとしたものだ。実はオーテックバージョンは、1990年1月のデビューということもあり、前期型仕様も存在したようであるが、こちらはかなり希少のようだ。なお、3ナンバーサイズのワイドボディとなった後期型では、そもそもオーテックバージョンが存在していない。つまり、極めて限られた期間にしか販売されなかったモデルなのだ。
オーナーによれば、数年前、中古車店で発見し、状態の良さから即決したという。近年のネオクラシックカー高騰の前だったため、オーナー曰く「今よりはずっと現実的な価格だった」とのこと。
今回のイベントに参加したセフィーロ・オーテックバージョンは、この1台のみ。内外装の状態は良く、ほぼノーマル。美しさを守り続けてきた前オーナーと現オーナーの愛情を大いに感じた。
超希少なセフィーロ・オーテックバージョンは、オーテックジャパンの歴史を伝える1台となっていくことだろう。
【過去記事】
Vol.1 メルセデス・ベンツ初代Eクラス(W124)
文・大音安宏 写真・大音安宏、日産 編集・稲垣邦康(GQ)
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