2018レースカーから探るSTIの先端技術 Vol.13
SUBARU BRZ GT300は開幕戦の岡山で、マシントラブルによりリタイヤした。その原因の究明と対策、そして第2戦富士スピードウェイに向けてのマシンセッティングは何を行なってきたのか?お伝えしよう。なにせ、予選2位という速さを取り戻したのだから、気になるのだ。<レポート:編集部>
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岡山でのマシントラブルは複合的な要素が絡んでのリタイヤとなった。主な原因としてはブレーキとタイヤトラブルに集約できる。
ブレーキの問題点としては17年の最終戦でもトラブルが発生し、リタイヤという残念な結果があった。そのため、18年仕様では熱容量アップに向けローターサイズ変更等の対策から始まった。だが、vol.9でお伝えしたようにGT3用のブレンボ製に交換してはみたものの、車両重量の違いなどからコントロール性に難があり、従来のAP製に戻している。つまり、容量アップに対応できる部品がすぐにはなく、やむなく17年仕様で開幕戦を迎えたわけだ。
※参考:2018レースカーから探るSTIの先端技術 Vol.9 スーパーGT300 BRZに降りかかる難題 STIの先端技術でどう切り抜けるか
結果的には同様の原因によるトラブルが出てしまったが、開幕戦の後の鈴鹿公式テストではようやくパーツが供給され、AP製の大熱容量タイプに変更することができた。それが今回の富士用として装着されている。特にローターに刻まれた溝に制動力のほかに放熱性とブレーキタッチの秘密があるようで、17年仕様のフィーリングのままで、良く止まる、という仕様に変更されている。
今季のマシンはこれまでお伝えしているように、開発コンセプトの変更があり、17年仕様とは異なるセッティングが各所で行なわれている。そうした違いを良く把握しながらレースに勝つための戦略を立てていくわけだが、言葉で言えるほど簡単ではない。
■ブレーキ&タイヤ温度への対策
何が言いたいのかというと、タイヤに関してはコンパウンドや構造違いを新たに開発しており、こちらのタイヤでシーズン前からテストを繰りかえしていた。しかし、マシンの開発コンセプト変更によりダウンフォースが減り、その結果タイヤの温まりが遅くなる傾向が出ていた。
テストではそうした状況は確認しているものの、他のテスト項目をこなす必要もあったわけだ。もちろん、そこには、空力特性のテスト、エンジンのテスト、ミッションのテストなどが複合的に組み合わされている中で、タイヤテストも含まれていたが、タイヤのテストが十分だったとは言えない状況だった。
しかしレース本番となると、タイヤウオーマーの使用が禁止されているスーパーGTでは冷間状態でタイヤ交換し、即レースへ復帰という展開になる。17年仕様では車重が重くダウンフォースもあり、タイヤ温度の上がりには特段問題とはならなかったが、18年仕様ではその部分に暖まり方の違いが生じていた。そのために、冷間時からの急激な限界走行状態へ持っていくことが厳しかったようだ。とりわけ左側タイヤに負担のかかる岡山では、タイヤにダメージが出てしまい、予定外のピットイン、そしてタイヤ交換という作業が必要になってしまったというわけだ。
今回はそのデータを解析して対策している。マシンの横Gや荷重のかかり方を測るセンサーからのデータを取り出し、タイヤの仕事量を読み解いている。その結果、コーナー毎のタイヤへの負荷のかかり方が見えてきた。その対策として、ニュータイヤ装着直後の数周は、タイヤへの負荷をかけ過ぎないようにコントロールすることが必要であり、ドライバーの負担となるが、ピットアウト直後は、タイヤの温度コントロールをこれまで以上にする必要があることがわかった。もちろん、レース中なので、後続から追いつかれてしまうリクスは伴う。
実際、今回の富士第2戦では、1回目のピットインの時、山内選手がニュータイヤ4本に交換しているが、アウトラップから2周目までは1分41秒台で周回している。その後も39秒台で4ラップしている。ちなみに、レースラップは38秒台だったので、約1秒タイムを落としてレースをやっていたのだ。そのため3位の31号車には、ピットインのタイミングでは4秒強のアドバンテージを持っていたが、ラップを落としていることで追い付かれ、2位争いを展開するシーンがあった。が、山内選手は見事に抑え込んでいた。そして、タイヤが温まった後は、38秒台前半にラップを上げ、31号車に対して10秒以上引き離すまでタイムを上げていた。
■フラットボトムの精度をより上げる
一方、スピードを追求するための空力ボディでは、今回はボディ下面の流速とエンジンルーム内、フロントフェンダー内の乱流、そしてフロントリップからの空気の取り入れ方などを変更している。
これまでフロント・フロンフェンダー内はサスペンションアームの可動範囲が大きく取れるように大きな開口部を作っていたが、これはエンジンルーム内の空気の流れが、ボディ下を流れる空気に引っ張られて吸い出されるが、その下面が乱流となっていることがわかった。そのため、フェンダー内を可能な範囲で開口部を小さくし、整流効果を上げる変更をしている。
そして、フロントのリップスポイラーの形状も変更し、先端部を短くしている。これはボディ下面への空気の取り込み方を変更したもので、この形状変更に伴い、アンダースポイラ―であるヴァーチカルフィンの数を6枚に増やす変更も同時に行っている。
こうした整流効果により、フラットボトムの効果を上げ、ドラッグを下げながら17年並みのダウンフォースの確保に成功している。また、リップスポイラーの先端部を短くしたことにより、タイヤの接地性が下がらないように、16年仕様のカナードへ変更した。またリヤウイングは低ドラッグを開発目標としたスワンネック形状の18年仕様を採用してレースに挑んでいた。
富士スピードウェイへの戦略として、これまで第3セクターでタイムを稼ぎラップタイムを速くするという方向だったが、ダウンフォースを上げるためにコーナリングは速くても直線が遅く、ストレートで抜かれるシーンを見てきた。こうしたシーンがきっかけで、今季の開発目標の方向性が決まったわけだ。もちろん、これまでのマシンづくりの方向は間違っていないが、直線で抜かれることのないようにトップスピードを上げるというのをプラスしたということだ。
結果として、BRZ史上最速の279km/hを記録しており、17年仕様の262km/hからは大躍進していることが分かる。このことにより、またブレーキ強化もあって、第1セクター、第2セクターでトップレベルのタイムを記録した。従って予選結果は2位のフロントローを獲得した。
■サスペンション・ジオメトリーの変更
もう一つの大きな改良点はジオメトリーの変更だ。Wウイッシュボーン形状のBRZ GT300 だが、リンクの取り付け位置を変更し、タイヤの接地性を上げる変更を行なっている。つまり、サスペンション・リンクの中心とタイヤ接地中心点の関係を変更することで、アンチダイブ、アンチスクォートを強化し、マシンの姿勢変化を最小限に収めることに成功している。
もちろん、アンチダイブやアンチスクォートにはダンパーやスプリングでの調整も可能だが、コーナリングへの影響が大きいことからダンパーの減衰を変更することなく、またスプリングも基本バネレートを変更しないで対策するという技を投入していた。
このリンク取り付け位置の変更でロールセンターを下げることも実施しており、結果的にはスプリングを少し柔らかいものに変更したのと同じ効果を得るジオメトリー変更を行なっていた。
■パワートレーンと給油タンクの変更
エンジンの変更では、今季からエア・リストリクターからブーストコントロールでのBoP(性能調整)に変更しているのは既報だが、今回の大気圧は945hPaがGTAからの公式通知だ。そこから換算し、およそ7%の補正が必要で、最大過給圧は3.9barで第2戦を戦うことになる。
また、燃費も今回改善してきている。というのは、燃料の給油タンク(ピット側)には流量調整がされており、1分間に給油できる量が主催者によりコントロールされている。そのため、少しでも少ない給油量のほうが短いピットストップとなるわけだが、規則上、こちらを加工、変更することはできない。
一方で、マシン側の燃料タンクのエア抜き用ダクトの取り回しを変更し、すこしでも給油が速くできる工夫をしてきている。また、エンジン本体も燃料を薄めにし、約4%弱の燃費改善があったという。これにより排気温度は上昇するが、エキゾーストパイプの耐熱性に少し余裕があることから、燃料を薄くすることにトライしている。もちろん、出力には変更なくパワーダウンとなることはないということだ。
これらの対策により、シーズン当初からの狙いである低ドラッグ、高ダウンフォースのマシンづくりは、徐々に完成度を高めつつあるとみていいだろう。
こうしたマシンを速くする課題に対し、さまざまなアイディアで対処し、解決していく姿は非常に興味深い。課題に立ち向かい、解決していくには、エンジニアのノウハウ、知見が必要なわけで、トラブルがあればあるほど、技術で解決していく凄さ、面白さがBRZにはある。
だが、しかし、決勝レースではエンジンルームから白煙が上がり、レースはリタイヤした。このトラブルは、単なる部品のトラブル、作業ミスなのかもしれない。いや、エンジニアリング的な新たな課題が生まれたのかもしれない。今後も注目を続けていきたい。
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*取材協力:SUBARU TECNICA INTERNATIONAL
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