もくじ
どんなクルマ?
ー 110周年を迎えるモーガンの未来
ー 旧体制の中で生まれた19年ぶりのニューモデル
どんな感じ?
ー モーガンらしさを残しつつ、随所をアップデート
ー 1075kgの車重にBMW製の340psユニット
ー ステアリングレシオの設定には疑問
「買い」か?
ー あと一歩で真のドライバーズカーと呼べる
スペック
ー モーガン・プラス・シックスのスペック
英国が生んだエキゾチックモデル ツインカムのMGA 60周年を祝う
どんなクルマ?
110周年を迎えるモーガンの未来
絵に描いたような、家族経営の中小企業。父親や母親から息子や娘へと受け継がれ、叔父や叔母、いとこたちが事業を支援する。田舎の小さなレストランや民宿をイメージできるかもしれないが、21世紀の自動車工場には当てはまらないイメージだろう。
自動車を製造することは、そんなに単純な仕事ではない。朝早く起きて、お茶を飲みながら手を汚し、頑張ったからといって成功するとも限らない。むしろ極めて複雑だ。最新の専門的なノウハウが常に求められる。デザインや設計、技術の専門家も必要だし、製造に関する設備も不可欠。単純な事務作業だけでは回らない。
英国生まれ英国育ちの家族経営企業、モーガンは、ミレニアムを乗り越え今年で110周年を迎える。誠にめでたいことだ。だとしても、ピッカーズリー通りを拠点にするモーガンにも、変化は必要だったのだろう。今年のはじめ、モーガン一家は事業の大半をイタリアの投資ベンチャーであるインベストインダストリアルへと売却した。以前はアストン マーティンを所有していたこともある企業だ。
旧体制の中で生まれた19年ぶりのニューモデル
なぜ事業の売却を行ったのか、モーガンのビジターセンターで聞いてみたところ、率直な答えが返ってきた。「長年に渡って好調とはいえない状態が続いていた中で、とても良い申し出があったのです。創業者一家は、モーガンという会社を成長させるよりも、手中に留めておきたいという思いが強くなっていたところでした。今の世の中で事業を成長させるには、適切な投資と、賢明なネットワークを持ったリーダーシップが必要です。われわれに必要なものを、提示してくれたのです」
今年の3月、モーガンの所有権が変わるというニュースに合わせて、19年ぶりとなるまったく新しいモデルの発表もあった。それが、今回のプラス・シックス。開発が始まったのは2016年だから、新体制による成果というより、旧体制が残した最後のクルマだと考えたほうが良いだろう。しかし皮肉にも新体制が生み出したかのように、すべてが新しいクルマとなっている。
プラス・シックスの骨格をなすのは、新開発の軽量なアルミニウムと木材とを組み合わせたボックス・セクション・モノコックシャシー。剛性はプラス・エイトにまで受け継がれた、先代のエアロシリーズと比較して2倍向上しているとのこと。
またモーガンとしては初めて、ターボエンジンを搭載するクルマでもある。BMW製のB58型と呼ばれる直列6気筒ターボエンジンを採用し、最高出力は339ps。BMWではおなじみのZF製8速ATが組み合わされる。従来のモーガンとは異なり、プラス・シックスには電動パワーステアリングも装備。新しいシャシーは、将来的にはEV化にも対応できているという。
早速モーガンが描いた未来像を味わってみよう。
どんな感じ?
モーガンらしさを残しつつ、随所をアップデート
クロームメッキ加工されたボタンを押して、小さなドアを開ける。昔のモーガンと変わらない、幅の広いランニングボードを慎重に超えて、まったく新しいキャビンへ身体を収める。足元も狭いが、シートも従来どおりかなりタイトだ。乗員空間の前後長は僅かに伸ばされたと聞いているが、185cmを超える身長のわたしが座ると、増加ぶんをちょうど吸収してしまう。
ステアリングコラムにはチルト(上下)とテレスコピック(前後)とで調整が可能になっている。また操作系のレイアウトはとても良好。足元の空間に、ペダルを3枚並べられるのかは疑問ながら、マニュアル車の計画もあったらしい。少なくとも数時間は快適に座っていられる空間には仕上がっている。
インテリアの仕立ても良い。今回の試乗車には、丁寧に織られた魅力的なカーペットが敷かれ、柔らかい本革で覆われたヘッドレストには刺繍があしらわれている。だが、ステアリングホイールの雰囲気が、いまひとつ調和していない。
計器類はモーガンの慣習の通り、アナログメーターがダッシュボードの中央にレイアウトされる。手前にレブカウンター、助手席側にスピードメーターが並び、見やすい大きさの数字が振られている。運転席の正面には、小さいながらトリップコンピューターのモニターが設置された。デジタル数字でスピードが表示されているのが、ステアリングホイールのリムの向こう側に見えるのが嬉しい。
以前のモーガンのように、助手席の同乗者にスピードメーターを見てもらって、スピード違反の速度に達したら膝を叩いてもらう、という方法も今までどおりできる。モーガン乗りならみんな知っていると思うけれど。
1075kgの車重にBMW製の340psユニット
新しいモーガンに搭載された新しいエンジンのおかげで、速度違反も短時間にできるようになってしまった。BMW製のストレート6は、一般道で走っているとエグゾーストノートよりもターボによる吸気音の方が大きく聞こえ、チューニングは完璧ではないのかもしれない。注文時にアフターマーケット製のマフラーを選択するオーナーも多いとは思うが、その場合は甘美なサウンドが楽しめるだろう。
マフラーをお好みのものに変えてしまえば、ジャガーFタイプが搭載するV型6気筒ユニットより最大トルクで勝る、BMW製の直6に対する不満はほとんどないはず。しかも車重はFタイプより500kgもモーガンの方が軽いのだ。そのため、スピード・シックスは立ち上がりから極めて速い。本当に俊足という言葉がぴったりだと思う。
だが、新しいモーガンに対しての感想は、ひたすら攻め立てた走りに浸り、圧倒的なスピードに酔いしれるというクルマではない、というもの。
ZF製のATをマニュアルモードで操作すれば、不満を感じないほどクイックに変速をし、AT任せでもとても滑らかに仕事をしてくれる。ただし、シフトパドルはPSAグループのものに見られるような、プラスティック製の安っぽいものではなく、よりフィーリングの良いものをモーガンには選んでほしかった。また、マニュアル・トランスミッションの方がより運転に浸れるとは思うし、このクルマにも似合っているだろう。
ステアリングレシオの設定には疑問
新開発のアルミニウム製シャシーは、今までのモーガンでは期待できなかった、新鮮と感じるほどの良質なハンドリングを獲得している。明確に従来のモーガンが悩んできた、悪癖ともいえる性質は改善している。高速でバンプを越えても横飛びすることなく、まっすぐ突き進んでいける。しかし、まだ完璧とまではいえないだろう。
サスペンションも硬すぎることなく、充分にしなやかな乗り心地を体現している。ピッチングやボディ全体の上下動に関しては、まだパーフェクトに制御できているわけではないものの、モーガンは木製でもろいという仕草はみじんも見せない。
新しいシャシーは、ホイールベースが先代モデルから若干延長されている一方で、先代のような、スポーツカーの標準としてはかなりスローなステアリングレシオも備えている。ロックトゥロックは3回転で、エクステリアの雰囲気ほどクリックな旋回性はない。また、ステアリングの重みも突然軽くなる場面がある。
このようなシャシーのセッティングの結果、高速コーナーでの正確性は充分に評価できる反面、きつい低速コーナーでの機敏性や扱いやすさではいまひとつ。わたしの好みとしては、ステアリング操作で得られる瞬時の反応には物足りなさを感じる。また、着座位置とフロントタイヤとの距離が他のコンパクトなスポーツカーと比較すると遠いため、小さな2シータースポーツに期待するほど軽快に感じられない理由でもあるだろう。
だとしても、モーガンが獲得したダイナミクス性能での進化は、間違いなく素晴らしいものだ。
「買い」か?
あと一歩で真のドライバーズカーと呼べる
クルマの乗り降りだけでなく、モーガンにはドライバーに多少の慣れが求められる。インテリアの操作スイッチは小さいし、折りたたみ式のルーフの開閉も、急な雨に備えて練習しておいた方が良い。古いモーガン乗りにとっては、オーナーズクラブ・サイトへログインする際のパスワードを覚えるくらいの、軽い手間にしか感じられないだろうけれど。素晴らしい恋を続けるには、多少の我慢も必要なことと似ているかもしれない。
新設計のシャシーは非常に興味深い。多くの人が想像していた以上に、新しいプラス・シックスは上々の完成度を獲得している。できの悪さは杞憂に過ぎず、優れたダイナミクス性能を持つ真のドライバーズカーと呼べる領域へ相当に近づいている。
もちろん、ポルシェやロータス、アルピーヌなどと並列には考えないで欲しい。そもそもモーガンに興味を持つようなドライバーは、そんなことはしないだろう。だが、間違いなくモーガンの競争力が相当に引き上げられたことは確かだ。
モーガン・プラス・シックスのスペック
■価格 7万7995ポンド(1060万円)
■全長×全幅×全高 -
■最高速度 267km/h
0-100km/h加速 4.2秒
■燃費 13.5km/ℓ
■CO2排出量 -
■乾燥重量 1075kg
■パワートレイン 直列6気筒2998ccツインターボ
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 340ps/5000rpm
■最大トルク 50.9kg-m/1600-4500rpm
■ギアボックス 8速オートマティック
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