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F1の歴史を守り続ける秘密の「整備工場」 マクラーレン・ヘリテージの驚くべきコレクション

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F1の歴史を守り続ける秘密の「整備工場」 マクラーレン・ヘリテージの驚くべきコレクション

何の変哲もない建物に、往年のF1マシンがズラリ

本当にこの場所であっているのだろうか?ロンドン郊外のウォーキングにある何の変哲もない建物と駐車場は、驚くほど控えめなものだ。

【画像】超貴重なコレクションが並ぶマクラーレンの自動車整備工場【マクラーレン・ヘリテージの写真を見る】 全23枚

玄関をくぐると、インダストリアルな質素な廊下に通じており、両脇にはトイレがある。壁のペンキは少し傷んでいて、カーペットはあちこち擦り切れている。頭上には1980年代を思わせるストリップライトがあり、この廊下の先に何が待っているのか、文字通り何の手がかりもない。そして、最後のドアを開けると……なんということだろう。

F1マシンが3段重ねで積まれており、防汚シートで隠されているが、エアロパーツからもわかるそのシルエットは、明らかにグランプリマシンのものだ。

そのラックの前には、ミカ・ハッキネンの1999年型MP4/14A-04「ウエスト」からルイス・ハミルトンの2007年型MP4/22「チャイナ」(後者はルイスがバリアに激突し、中国GPのチャンピオンを逃したマシンなのでこう呼ばれている)まで、F1マシン4台を解体して並べている。ジョニー・ラザフォードがインディアナポリス500で優勝した1974年型インディカーのタブも置かれており、F1マシンがいかに巨大化したかを物語っている。

プラスチック製の箱には「MP4/4」という伝説的な文字が大きく書かれ、その上にホイールガンなどのツールが無造作に置かれている。F1テクノロジーの頂点を極めようとするメカニックたちが、AUTOCARの取材を気にもとめずに歩き回っている。

マクラーレン・ヘリテージへようこそ。ここは、おそらく世界で最も希少な自動車整備工場だ。

マクラーレンの歴史と伝統を守り続ける

ここに展示されているクルマの多くは、所有者から修理を依頼されたカスタマー・カーだ。しかし、それについては後述する。まず、担当者を紹介しよう。

インディ・ラルは、1981年からマクラーレンで働き始めたベテランのメカニックである。アラン・プロストがタイトルを獲得した1986年シーズンは、彼のメカニックとして活躍した。現在、彼の正式な肩書きは「ヘリテージ&プロモーション・イベント・マネージャー」であり、マクラーレン・ヘリテージを運営する代表者である。スケジュールに合わせてクルマを修理するのは当然ながら、達成すべき目標も課せられている。

ラルの率いるチームは、ブルース・マクラーレンの最初のレーシングカーであるオースチン・セブンから、2013年のMP4/28A-04までさまざまなマシンを維持し、歴史を守り続けることを使命としている。ル・マンを制したマクラーレンF1、CanAmで活躍したM8、そして1980年代にハンス・メッツガーが開発した伝説的なV6タグ・ターボのテストベッド、ポルシェ911ターボ(930型)までもが展示されているのだ。

目玉はもちろんF1マシンだが、デビッド・クルサードやニック・デ・フリースなどを乗せたシートの束や、ラベルを貼ってマシンに入れる準備を整えた燃料バッグの山など、あちこち見て回るといろいろと驚かされるものがある。ハミルトンのカートが2台もあるのだ。

それにしても、マクラーレンがこのように歴史的な「遺産」を残しているのは、歓迎すべきことだろう。というのも、かつては前シーズンのマシンを売却して、次のシーズンの資金を調達していたからだ。レースで活躍するために設計されたクルマは、出番がなくなった時点で、多額の現金と同じ扱いになってしまう。
ラルはこう説明する。

「(ブランドの遺産は)別の形で、以前から存在していました。しかし、遺産を残していくにはエネルギーが必要で、お金もかかります。だから、いろいろな段階で、もうやめようということになったんです」

「でも、やがて多くのクルマが集まってくるようになりました。我々は、走っている姿を見たいのです。シリーズ1、シリーズ2という重要なクルマもありますが、最近は整備して個人のお客様に販売するという、まったく新しい事業としてスタートしました」

新たなビジネスチャンス 必要とされる高度な技術

このカスタマー・カーが、今後の鍵になる。デニスの退社で揺れるマクラーレン・レーシングのトップに就いたザク・ブラウンは、商機を見出したようだ。シリーズ1やシリーズ2のマシンは売り物にはならないが、それ以外の、戦績の少ないマシンは取引可能だ。そして、売って終わりではなく、維持と運営で継続的な収益を得ることもできるのだ。

とはいえ、課題も多い。例えば、ラザフォードが所有していた1974年のインディカーは、さまざまなオーナーを経て、フルレストアのためにマクラーレンに戻ってきた。

「所有していた人のレベルや力量にもよりますが、あまりの貧弱さにかなりショックを受けています。だから、これはわたし達にとって非常に大きなプロジェクトなんです」とラルは言う。

最近のハイブリッドマシンがすぐにここに来ることはないにしても、F1エンジンは非常に複雑な機械だ。

「こうしたクルマ(ハイブリッド以前のもの)を走らせるには、小さな軍隊が必要です。メルセデスの助けを借りれば走らせることも可能ですが、最新のものについては、F1チーム以外で走らせることはできないと思います」

古いクルマを手入れする難しさ 歴史への愛情

ソフトウェアも大きな問題だ。ジュリアン・コーツはシステムエンジニアのスペシャリストで、古いコンピュータを動かすという難しい仕事を担っている。1993年以降ならまだしも、それ以前のホンダ製エンジンのコードを見ることはできない。

「盲目的にやっているんです」と彼は言う。「マルチメータ(テスター)を使ったりして、何が起こっているのかを理解しようとするハックもありますが、時間がかかるし、時々予期せぬ問題が出てくることもあります」

例えば、マクラーレンのテクノロジー・センターで古いコンピュータをネットワークにつないだところ、古いマルウェアが入っていたために、すべてのアラームが作動してしまったことがあるという。その時、コーツはどうしたか?「すぐに電源プラグを抜きましたよ」

レースチームでないにもかかわらず、そのようなメンタリティーで運営されているのは興味深いことだ。フロアで働く人々の間では、フェルナンド・アロンソ/ジェンソン・バトン/ホンダの時代(埃を被っているマシンが何台かある)に対する愛情はほとんど失われていない。一番大事にされているのは優勝したクルマだ。

そして、その背景には人間模様がある。幅広い年齢層が働いていて、お互いに助け合うことを大切にしている。ゲイリー・ウィーラーやコーツといったベテランだけでなく、クリス・クーサルのような若手もいるが、上下関係はあまり感じられない。

ウィーラーはクーサルのアイデアをよく聞き入れるし、その逆もまた然り。2人は異なる時代の自動車に詳しく、それぞれ専門知識を持っているのだ。こうした世代間交流がなければ、技術は時間の流れの中で失われてしまうだろう。

技術の継承 熟練技術者と若手の協力関係

マクラーレンのヘリテージコレクションに展示されているクルマの年式を考えると、ここで働く人々の若さには目を見張るものがある。クリス・クーサルも、そんな若手メカニックの1人だ。6年前に見習いとして入社した彼は、自動車製造や車両力学などさまざまな部署で働いた後、3年前にこの仕事に就いた。

「レース部門での仕事がなかったので、マクラーレンがヘリテージ部門に仕事を作ってくれたんです。素晴らしい経験で、本当に嬉しいですよ」

クーサルによると、新しいクルマが最も難しいという。「パッケージがより複雑になっているからです。すべてが細かくなって、作業が難しくなるんです」

とはいえ、古いクルマに幻想を抱いているわけではない。

「クルマの組み立て方が、わたしが学んできたものとはまったく違うのです。メートル法のクルマに慣れているのに、帝国単位(フィートやポンドなど)に頭を悩ませるなんて、おかしな話ですよ」

クーサルのような若手にとって、ラルやウィーラーのような先輩はありがたい存在だ。どのソケットがどのナットに合うか、どのネジがどの方向に動くかなど、彼らは細かいことまで覚えているのだ。24時間365日、クルマと向き合い、生きてきたからこそできる芸当である。

F1チームでメカニック経験のあるスタッフも

マクラーレン歴38年のゲイリー・ウィーラーは、誰が一番優れたドライバーかを判断するのに十分な経歴を持っている。彼はためらうことなく、アイルトン・セナの名を挙げる。

ウィーラーは、1982年にエマーソン・フィッティパルディの名を冠したレースチームで働き始め、そこでセナと知り合うことになった。当時はまだセナがトールマンと組んでF1に参戦する前だったが、ブラジル人のチコ・セラとは知り合いで、南米のつながりから2人はよくエマーソンのチームを訪れていたという。

1984年、マクラーレンに移籍したウィーラーは、ピザ屋でセナにばったり会った。セナはメディアとの接触を避けるため、店の隅っこに隠れていた。ウィーラーはセナに気づくと、「もしマクラーレンでレースすることになったら、自分をメカニックに指名してくれ。そうしてくれたら何も言わないから」と頼んだそうだ。

4年後、セナは約束を守った。「ロン(デニス)やホギー(マールボロのマーケティング責任者、ジョン・ホーガン)と交渉していたとき、セナは彼らに、わたしをメカニックにしてほしいと言ってくれたんです」とウィーラーは語っている。

「彼が(マクラーレンを)去るときは悲しかったのですが、いつか必ず戻ってくると思っていました。わたし達は、彼に必要なクルマを与えることができなかった。彼は信じられないほど忠実な人でした。マクラーレンにいる間、ずっと同じメカニックを使い続けていたんです。でも、彼はドライバーとして、わたし達とは別の次元にいました」

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みんなのコメント

2件
  • 流石に英国の自動車文化は奥深い。

    古い車、イコール文化遺産の意識とそれを企業側がきちんとビジネスにする。

    それが最も扱いにくいレースカーでも同じなのがなお素晴らしい。
  • ヴィンテージF1を眺めながら酒飲めたらどんなに幸せだろう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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