逆走防止に効く立体標示
道路に描かれただまし絵のような路面標示「イメージハンプ」をご存じだろうか。これは、平面の図柄を立体的に見せる手法で、道路脇の縁石や交差点などに設置されていることがある。
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だまし絵と同じ技法を使っているが、目的はあくまでアートではなく、生活道路で頻発する交通事故を減らすために速度を下げさせることだ。
イメージハンプは、ドライバーがアクセルから足を離す程度の驚きを与えるようにデザインされており、その大きさや形状、デザインには工夫が施されている。実際、広島市安佐北区口田地区でイメージハンプが設置されたところ、設置区間の平均速度が時速25.1kmから時速22.9kmに下がり、時速30kmを超える速度を出す割合も35.5%から30.1%に減少した。
さらに、単に速度を下げるだけでなく、
・ショートカット走行
・逆走の防止
にも役立っている。例えば、長崎自動車道の川登サービスエリア(SA)下りでは、ドライバーが逆走していることに気づかせるために
「立体的に見える反対向きの矢印」
を設置。また、国道178号線の岩美道路などでは、「逆走危険」の立体的な看板が浮き上がるイメージハンプが設置され、ドライバーに注意を促している。
このように、事故防止対策として効果を上げているが、その理由は何だろうか。
事故防止に効果がある理由
多くのドライバーは、無意識に視覚情報をもとに速度を調整している。制限速度を守るべきなのはわかっていても、つい
「これくらいなら大丈夫だろう」
と自分の感覚で速度を決めてしまうことがある。
例えば、制限速度が時速50kmに設定されている道路でも、車幅ギリギリまで塀が迫っている場所では、ほとんどのドライバーがその速度を守ることはないだろう。自然に速度を落として運転するのが一般的だ。
この傾向を利用して、イメージハンプは速度を下げさせる錯覚を作り出している。ドライバーの
「無意識」
に働きかけ、速度を落とさざるを得ない状況にする仕組みだ。
制限速度や「徐行」などの文字を道路に書く方法は、意識的に減速を促すものだが、イメージハンプは無意識のうちにドライバーに影響を与え、減速を促進する。そのため、事故防止に効果的だといえる。
ドライバーに動機づけを与える錯覚
文字通り、道路に
・ハンプ(凸状の部分)
・狭窄(きょうさく。車道を狭くする構造)
を設置する方法もあるが、これには基礎工事や一定の施工期間が必要で、当然費用もかさむ。しかし、積水樹脂(東京都港区)が販売している「ソリッドシート」は、物理的な障害物にならず、車道幅を侵さないため、施工が早く、基礎工事も不要というメリットがある。このイメージハンプなら、デメリットを避けながら設置することが可能だ。
また、ハンプの場合、
「バイクや緊急車両が通過する際」
に逆に危険になることがある。ハンプを越えるときに騒音が発生したり、トラックでは荷崩れしたりする危険もある。しかし、イメージハンプならこうした問題もなく、スムーズに減速を促すことができる。
さらに、イメージハンプと同様に錯視を活用して、車両の速度を積極的に制御する標示もある。それが「オプティカル・ドット」と呼ばれるもので、志堂寺和則「交通安全のための錯視」(応用物理学会)という論文によると、ドットの間隔を広げたり狭めたりすることで、速度を低下させたり回復させたりする効果が期待できるという。
このように、イメージハンプだけでなく、目の錯覚を利用した事故防止サインは、設置にかかる費用や労力を軽減できるため、今後さらに普及することが期待される。
リアルな世界で安全を生み出す錯視
制限速度や一時停止を示す道路標識は街中でよく見かけるが、多くのドライバーはそれらの標識を認識していても、実際には守れていないことが多い。しかし、錯視をうまく利用したイメージハンプは、これらの標識とは異なり、ドライバーの
「感覚」
に働きかけるため、事故防止に役立っている。
道路が狭くなれば自然と減速したくなる心理を利用し、疑似的にそのような状況を作り出して減速を促している。これは「減速しなければならない」という強制的な意識ではなく、ドライバーが自然に速度を落とすことを引き起こすため、効果が高いといえるだろう。
ただし、錯視を利用したバーチャルな手法なので、
「ドライバーが慣れてしまう」
と効果が薄れるという弱点がある。しかし、施工が簡単で、実際にハンプを設置するよりもコストが抑えられるため、効果が薄れてきた場合には、デザインを変更するなどして改善できる可能性がある。
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