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V8ツインターボは恐ろしく官能的だった──マセラティ レヴァンテの最強グレード「トロフェオ」試乗記

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V8ツインターボは恐ろしく官能的だった──マセラティ レヴァンテの最強グレード「トロフェオ」試乗記

いい具合に曲がりくねった伊豆山中のワインディングロードにさしかかったところで、センターコンソールに位置する「SPORT/CORSA」と記されたボタンをダブルクリック。このモデルのために新設された「CORSA」(英語のレースとおなじ意味)なるドライブモードを選ぶ。

すると、3.8リッターV型8気筒ツインターボエンジンのレスポンスがひときわ鋭くなり、排気音のボリュームも上がった。“バ行”と“パ行”、つまり濁音と半濁音の中間ぐらいの音質は管楽器のようで、鼓膜だけでなく心も震わせる。

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マセラティ初のSUV「レヴァンテ」に、かねてから噂のあったV型8気筒ツインターボエンジン搭載モデルがくわわったのである。いまドライブしている最高出力590psのトロフェオと、少しチューンを抑えた、といっても最高出力550psを誇るGTSの2モデルがある。価格は前者が1990万円、後者が1800万円だ。

新しいエンジンは、同社のフラグシップセダンである「クアトロポルテGTS」に搭載されるエンジンがベースだ。マセラティとフェラーリが共同で開発したこのエンジンは、フェラーリのマラネロ工場で熟練工が手で組む。エンスージアスト垂涎のエンジンだ。

レヴァンテへの搭載に際しては、“SUV”のキャラクターを考慮し、FRのクワトロポルテGTSに搭載されるエンジンとは、異なるチューニングをしたという。しかし、最高出力は530psから590psに増強されている点が目をひく。現在、マセラティのラインナップで最も強力なエンジンを積むのがレヴァンテ トロフェオなのだ。

ただし山道を駆けまわって感銘を受けたポイントは、パワフルさではなかった。速いのはもちろんだけれど、それよりも音や回転フィールといった官能性が心に響いたのだ。

“濁音と半濁音の中間”の排気音は、タコメーターの針が4500あたりを超えると「カーン」といった硬質なサウンドに変化し、心をぞくぞくさせる。CORSAモードにすると、レスポンスがシャープになり、かつシフト・タイミングが素早くなるほか、いい音を出すために排気系のセッティングも変更される。

音の変化とともに、回転計を駆け上がる針のスピードは一段と増す。アクセル操作に対する反応の素早さは、触れれば切れそうに感じるほど鋭い。

「ザッツ・エンターテインメント!」と、おもわず言いたくなる。

なんと華やかで、まわしがいのあるエンジンか。マセラティ(とフェラーリ)のエンジニアたちは速いクルマをつくるだけでなく、人の心を昂ぶらせる術に長けている。

CORSAモードの特徴はほかにもある。エアサスペンションが車高を下げ、電子制御式のダンパーは車体の揺れや傾きを抑え、機敏に走る方向にセッティングが変更される。

うまい! と、うなったのは、ある程度のロール(横傾き)を許している点だ。“スパッ”と曲がるのではなく、じんわりと曲がる。じんわりというのはあくまで比喩的な表現で、コーナリングスピードはとてつもなく速いが、ステアリング操作をおこなうと、一瞬の“タメ”があってからコーナリングが始まる。

手応えがよく、タイヤの状況を細やかに伝えるステアリングフィールとあいまって、ドライバーは自分の操縦によって曲げているという満足感に浸れるのだ。

エンジンや足まわりのよさはもちろん、スピードの一歩先にある「うまみ」のような部分まで踏み込みチューニングしているあたり、100年以上におよぶマセラティの歴史は伊達ではないと感じさせる。

市街地に入ってCORSAモードを標準モードに切り替えると、一転してラグジュアリーな雰囲気に変わる。滑らかな感触のトロフェオ専用のレザーシートはやわらかく身体をホールドし、「Bowers & Wilkins」のサウンドシステムはボリュームを絞ってもFM局のクラシック音楽をクリアに聞かせる。

あれだけ走って、これだけエレガント。さらには背の高さゆえのユーティリティ性まで備える。

この種のクルマはSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)と呼ばれ、アクティビティを楽しむ用途のクルマといったイメージが強い。レヴァンテも、高いユーテリティと悪路走破性を備えているから、アクティビティを楽しむにはピッタリだ。

それにくわえレヴァンテ トロフェオは、スポーツカーにまったく引けをとらないドライビングの楽しさを享受できるうえ、高級車が持つ優雅さによって、乗るたび“良い気分”にひたることができる。これはもう、SUVというくくりではなく、新しい呼び名を与えたほうがいいのではないか? そんなことまで考えたほどだ。

今、日本におけるマセラティの販売台数は、約半数をレヴァンテが占めるそうだ。北米や中国になると、その割合はさらに高くなるというから、いまやレヴァンテがマセラティの主流だ。ブランド初のSUVは大成功なのである。ちなみに、日本限定15台のレヴァンテ トロフェオの「ローンチエディション」は、2370万円の価格にもかかわらずあっという間に完売したそうだ。

1914年創業のマセラティが名門であるのは間違いないけれど、技術開発やモータースポーツへ湯水のようにカネを突っ込んだ結果、経営は楽ではなかった。楽ではなかったどころか、シトロエンに買われたりデ・トマソ傘下になったり、苦難の道を歩んできたといってもいいだろう。そのマセラティが遂に掘り当てた金脈が、得意のスポーツカーや高性能スポーツサルーンではなく、レヴァンテだったというのがおもしろい。

今回追加された3.8リッターV型8気筒ツインターボエンジンによって、さらなる拡販が期待されるレヴァンテ。マセラティのドル箱モデルとなったレヴァンテが今後、どのように進化していくか注目だ。

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