現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 業界のご意見番「清水和夫」が「ダイハツ問題」を斬る! 「かつてのダイハツは安全の追求に燃えていた」【短期連載その1】

ここから本文です

業界のご意見番「清水和夫」が「ダイハツ問題」を斬る! 「かつてのダイハツは安全の追求に燃えていた」【短期連載その1】

掲載 85
業界のご意見番「清水和夫」が「ダイハツ問題」を斬る! 「かつてのダイハツは安全の追求に燃えていた」【短期連載その1】

 この記事をまとめると

■第三者委員会の調査で数々の不正が明らかになったダイハツ

期待していた「トヨタ・ダイハツ・スズキ」の商用EVにも影響か! 消費者に他メーカーまで揺るがす「ダイハツの不正」の大きすぎる波

■ダイハツは1998年の車両規定変更の際には衝突安全でトップレベルの技術を持っていた

■筆者は最近のダイハツから安全性を熱く語るエンジニアが減っていたことを感じていた

 ダイハツの不正のファクトを整理して今後を考える

 2023年は自動車業界にとって厄年となったようだ。長年続いていた数々の問題が浮上し、該当企業は謝罪会見に明け暮れた。なかでもダイハツの不正問題は言葉を失うほどの驚きだった。ここではすでに発表されているファクトを整理しながら、なぜ不正を行ったのか、またなぜ不正を未然に防ぐことができなかったのか、そして実際のユーザーはどうなるのか、ダイハツのこれからの行方について、筆者の個人的な意見を述べたいと思う。

■衝突安全ではトップレベルの技術を持つダイハツ

 まずはファクトの整理だが、ダイハツは1998年にトヨタが51.2%の株式を取得し、完全にトヨタグループの一員となった。1998年というと、軽自動車(以後軽カー)の車両規定が大きく変わった年だった。それまでの軽カーは貧しかった戦後の国民に安いクルマを提供するために作られた国民車であり、そのためエンジンの排気量や車体の大きさが規定され、その枠のなかで各メーカーが凌ぎを削りながら競争してきた。やがてエンジンの排気量は改定され、ついに車体の大きさも拡大されたのであった。

 ダイハツは安くて安心して使える軽カーを専門に作るメーカーとして、その名を馳せてきた。軽カーの衝突安全の保安基準を小型車(登録車)と同じレベルにするという法改正では、ダイハツはどの軽カーメーカーよりも先んじて最高の安全技術を開発することに燃えていた。もちろんGOAボディを推し進めていたトヨタの技術協力があったことはいうまでもない。

 新基準では軽カーのボディサイズも拡大されたが、小型車よりもコンパクトなボディでも、十分な安全基準をクリアすることができたのだ。

 しかし、軽カーの衝突安全がトピックスとなっていた1998年に厳しいオフセット衝突に初めて対応できたのはダイハツではなくホンダだった。1998年10月に発表したホンダライフはクラストップレベルの正面衝突50km/h、オフセット衝突64km/hをクリアし、前席エアバッグに前席3点式ロードリミッター付きプリテンショナーシートベルトを標準化し、ABS&ブレーキアシストをオプションとするなど安全装備は充実していたのである。これを受けてダイハツの安全技術の責任者だった瀬尾役員もオフセット対応すると私とのインタビューで明らかにしていた。

 気がつけば熱く安全を語るエンジニアが減っていたダイハツ

■2023年に起きた衝突安全の不正問題

 しかし、令和5年4月28日にダイハツはタイで生産する小型車の側面衝突の認証試験の不正があったと発表した。安全技術では定評があったので、なぜ不正を働いたのか疑問だった。いろいろと取材するとコトの真相が見えてくるが、決して悪質な不正ではないことがわかってきた。複雑な認証試験の実態を理解することも必要だろう。

※写真はイメージ

 不正を働いた試験は、タイで生産されるダイハツとトヨタの小型車であるが、このプラットフォームはダイハツが開発し、タイの工場で生産していたモデルだった。ルール的にはタイ政府の認定試験なので、滋賀県にあるラボでタイ政府の検査官が立会のもと認証試験がおこなわれた。

 不正を行ったのはUN-R95という側面衝突の国際基準。時速50Km/hでクルマの真横(乗員が座る場所)に総重量約900Kgのバリア台車がつっこむ。リアルワールドで致死率が高い側面衝突の安全性を評価する重要な試験であり、ダミー人形を座らせ頭部や胸部の傷害値を計測する。ところが、今回は新たに改正されたUN-R95では「ドアの内側に鋭利なモノが乗員への傷害の危険性の有無を確認・記録すること」という項目が加わった。

※写真はイメージ

 そこで鋭利なモノが飛び出ないようにと、現場の担当者は不正な細工を施してしまったのだ。この問題は内部告発で発覚したがその後の再試験では市販モデルは安全基準を満たしていることが判明した。基準をよく読めば、鋭利なモノは「記録報告」義務だったので細工の必要はなかった。

 さらにダイハツは社内調査を続けると、5月には新たな不正が見つかった。二度目となる不正は日本で市販されてきたダイハツ・ロッキーとトヨタ・ライズのHEV車なので他人事ではない。今度の基準はUN-R135というポール側面衝突試験。電信柱などに側面から衝突する事故では重症・死亡率が高いことが事故調査で明らかになっており、ポールに見立てた直径254ミリの鉄の支柱に、台車に載せた被験車を時速32Km/hで75度(真横を90度とする)方向から衝突させ、そのときのダミー人形の傷害値を測定する。

 認証試験は助手席側(左)は検査官が立会うが、運転席側(右)は社内試験データを提出すればよいというルールだ。ところが、左側のダミー人形のデータを右側として提出してしまった。社内では左側の衝突試験だけを実施し、右側の社内試験を省いていたのだ。

 これは明らかに不正試験である。だが、筆者の推測であるが、同じプラットフォームのエンジン車の右側のデータが取得されていたので、エンジン車とハイブリッド車の車体構造に大きな違いはないと判断し、右側の衝突試験を省いたのではないだろうか。

 そもそもこのテストはなんのために制定されたのか、社内で知る人は少ないだろう。ポール衝突から命を守るために開発されたのが、カーテン式エアバッグ。この保護装置の安全性を確認するためのテストだったのだ。ところが現場ではメールで指示された仕事をすることが使命だと勘違いしていたのではないだろうか。

 リアルワールドの事故で人命を救うという本来の役割をどれだけの社員が、どのくらの情熱を持って、安全技術を開発・評価していたのか。軽カーの枠を拡大した20数年前のダイハツとは別の会社になってしまったようだった。近年のダイハツのエンジニアと会話しても、口にするのは「電動化や燃費」の話ばかり。熱く安全を語るエンジニアはいなくなっていた。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

全長2.5mで新車100万円級! トヨタの「斬新2シーターモデル」がスゴイ! めちゃお手頃サイズなのに「必要にして十分」の“おふたりさま向けマシン”とは
全長2.5mで新車100万円級! トヨタの「斬新2シーターモデル」がスゴイ! めちゃお手頃サイズなのに「必要にして十分」の“おふたりさま向けマシン”とは
くるまのニュース
アルピナの未来、26年「BMW傘下」でどう変わる? 高性能EV&Mモデルとの差別化を考える
アルピナの未来、26年「BMW傘下」でどう変わる? 高性能EV&Mモデルとの差別化を考える
Merkmal
高すぎるよぉ…! 価格が暴落したら買いたいスーパーカー3選
高すぎるよぉ…! 価格が暴落したら買いたいスーパーカー3選
ベストカーWeb
男性が乗って女性にモテるクルマTOP5は? ChatGPTに聞いて出た「ホントかよ!」な答えとは!!
男性が乗って女性にモテるクルマTOP5は? ChatGPTに聞いて出た「ホントかよ!」な答えとは!!
WEB CARTOP
悲喜交々のST-4。「複雑な気分」のENDLESS GR86と「逆に清々しい気持ち」で5連覇を逃した冨林勇佑
悲喜交々のST-4。「複雑な気分」のENDLESS GR86と「逆に清々しい気持ち」で5連覇を逃した冨林勇佑
AUTOSPORT web
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
レスポンス
「とりあえず増税ね」で50年!? 「世界一高い」自動車諸税&ガソリン税“見直し”正念場 “年収の壁”の向こうの璧
「とりあえず増税ね」で50年!? 「世界一高い」自動車諸税&ガソリン税“見直し”正念場 “年収の壁”の向こうの璧
乗りものニュース
あれぇぇ!? [ノートオーラNISMO]と[シビックRS]を比較してみると意外な結果
あれぇぇ!? [ノートオーラNISMO]と[シビックRS]を比較してみると意外な結果
ベストカーWeb
レゴ、F1全チームをテーマにした製品を2025年1月1日から販売開始。往年の名車ウイリアムズFW14Bなど“オトナ向け”製品も3月に発売
レゴ、F1全チームをテーマにした製品を2025年1月1日から販売開始。往年の名車ウイリアムズFW14Bなど“オトナ向け”製品も3月に発売
motorsport.com 日本版
ホンダが「凄い施設」を初公開! 夢の「全固体電池」実現に一歩前進!? パイロットラインを栃木で披露
ホンダが「凄い施設」を初公開! 夢の「全固体電池」実現に一歩前進!? パイロットラインを栃木で披露
くるまのニュース
ラリージャパン2024がついに走行開始。シェイクダウン1走目の最速はヌービル/WRC日本
ラリージャパン2024がついに走行開始。シェイクダウン1走目の最速はヌービル/WRC日本
AUTOSPORT web
ダイハツが新型「軽SUV」発表! 打倒「ジムニー!?」な“5ドア”モデル登場! タフすぎる「ゴツ顔×カクカクボディ」採用した“新型タフト”138万円から発売!
ダイハツが新型「軽SUV」発表! 打倒「ジムニー!?」な“5ドア”モデル登場! タフすぎる「ゴツ顔×カクカクボディ」採用した“新型タフト”138万円から発売!
くるまのニュース
MotoGPマシンデビューの小椋藍選手 初走行の印象は……【MotoGPバルセロナ公式テスト】
MotoGPマシンデビューの小椋藍選手 初走行の印象は……【MotoGPバルセロナ公式テスト】
バイクのニュース
ゼンリン、パナソニックのカーナビ「Strada」向け最新地図データ発売へ…12月2日
ゼンリン、パナソニックのカーナビ「Strada」向け最新地図データ発売へ…12月2日
レスポンス
下取り額爆上がり? アルヴェルのドアの速さまで変えられるトヨタの[KINTO FACTORY(キントファクトリー)]がすごい!
下取り額爆上がり? アルヴェルのドアの速さまで変えられるトヨタの[KINTO FACTORY(キントファクトリー)]がすごい!
ベストカーWeb
チャンピオン争いで明暗を分けた要因と変化がもたらす2025シーズンへの期待/MotoGPの御意見番に聞くソリダリティGP
チャンピオン争いで明暗を分けた要因と変化がもたらす2025シーズンへの期待/MotoGPの御意見番に聞くソリダリティGP
AUTOSPORT web
メルセデスが好発進、ハミルトンがトップタイム。RB勢は下位に沈み角田裕毅19番手|ラスベガスGP FP1
メルセデスが好発進、ハミルトンがトップタイム。RB勢は下位に沈み角田裕毅19番手|ラスベガスGP FP1
motorsport.com 日本版
ヤマハとホンダがコラボ展示! バイクSFアニメ『Tokyo Override』劇中車の『YZF-R1』&『CB1300』が渋谷に登場
ヤマハとホンダがコラボ展示! バイクSFアニメ『Tokyo Override』劇中車の『YZF-R1』&『CB1300』が渋谷に登場
レスポンス

みんなのコメント

85件
  • kur********
    安全性を熱く語るエンジニアが減ってきたと気付いていたなら、
    それをメディアで指摘するのがジャーナリストの役目だろ。
  • kam********
    昔は安全性が販売の重要ファクターだった時もあった。
    今でも重要な事なのだが、ダイハツはそれを当たり前の事にしてしまったのだろ。クリアして当たり前ではクリアしても褒められずクリアしない事は責められる。
    そんなのはクリアして当然という考えが時間も技術も必要な安全技術を軽んじる結果になった。営業本意の企業にありがちな技術者軽視ですよ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

100.8165.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

0.1140.0万円

中古車を検索
ライフの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

100.8165.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

0.1140.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村