エンジン愛好家が語るEV
この数年で世界中で電気自動車(EV)が急速に普及し、街中でも日常的に見かけるようになった。その一方で、「EVアンチ(EVを感情的に批判するファン)」も少なくない。しかし、元自動車エンジニアの筆者(いのうえみつみ)の視点から見ると、こうした批判の多くは性急すぎるように思える。
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こう書くと「EV信者(EVを感情的に称賛するファン)」と思われるかもしれないが、実のところ、筆者は根っからの
「エンジン愛好家」
だ。学生時代の多くをバイクやクルマと過ごし、特にRBエンジンを搭載したスカイラインには強い思い入れがある。官能的なサウンドとパワフルな走りを誇る直6エンジンは、今でも至高の存在だと考えている。
その延長で、自動車メーカーのエンジニアとして開発に携わったこともある。エンジン搭載車だけでなく、EVの黎明期にも関わる機会があった。その経験から感じるのは、EVはまだ発展途上であり、現時点で批判して遠ざけるのは惜しいということだ。
本記事では、EVアンチと呼ばれる人々の意見を紹介しながら、筆者の考えを述べていく。
EVに否定的な「三つの意見」
EVに否定的な意見として、次の三つがよく挙げられる。
・環境に悪い
・航続距離が短く不便だ
・運転してもつまらない
しかし、これらはいずれも技術の進歩によって克服可能な課題だ。
EVが環境に悪いという意見は、主に製造時にかかる環境負荷を指摘しているが、この見方はEVの本質を誤解している。
エンジン車からEVへの移行は、主に化石燃料の消費を削減することを目的としている。各車両が燃料を消費するよりも、発電所で集中的にエネルギーを生産するほうが効率的だ。発電には依然として火力発電が使われており、CO2は排出される。しかし、火力発電の熱効率は50%以上に達しており、CO2回収技術の進展により環境負荷は確実に減少している。
また、EV製造時の環境負荷が高いといわれる理由は、モーターやバッテリーなどの電動走行部分にある。しかし、EVはエンジン車に比べて部品点数が約1万点減少しており、全体的に見ると環境負荷は低い。独フォルクスワーゲンの試算によれば、車の製造から廃車までに排出されるCO2量を1kmあたりに換算すると、ガソリン車の平均140gに対し、EVは119gとなっている。
どんな車でも環境負荷は避けられないが、EVは走行時のCO2排出がゼロで、その他の条件でも有利な点が多いことは確かだ。
航続距離が短く不便だという意見は、EVの根本的な課題である。しかし、現状ではエンジン車よりも1回のフル充電で走行できる距離が短いのは事実だ。それでも、初期のEVはフル充電で200~300km程度しか走行できなかったが、現在では同クラスでも400~500km走行可能な車種が増えている。技術の進歩によって、航続距離は確実に向上している。
また、1回の充電にかかる時間がガソリン車の給油よりも長いという点も批判されがちだが、EV先進国の中国では、最近では3~5分でフル充電が可能な車種も登場している。これには高出力の充電機器や、駆動用バッテリー自体を交換する方式が採用されており、充電インフラの進化とともに利便性は大きく改善されるだろう。
充電インフラ整備は自動車メーカーだけでなく、国家レベルでの取り組みも求められる。日本でもバッテリー交換式の実証実験が進んでおり、今後に期待できる。
運転してもつまらないという意見は個人の感じ方に過ぎないため、一概に批判することはできない。しかし、筆者の感覚では、EVの走行は決して退屈ではない。
EVモーターのトルクフルな加速は非常に鋭い。コンパクトカーのEVでも、以前運転していたスカイラインより発進加速が優れており、驚いた。確かにエンジン車特有のサウンドや振動は静かなEVにはないが、EVならではのストレートな加速に十分楽しみを感じる。
EVの成長は技術進化次第
EVへの批判には新技術への反発が影響している。新しい価値観を持つ車に対する馴染みが少ないからだ。
自動車の歴史を振り返ると、最初の大きな変動は米国のモータリゼーションだ。馬車から大量生産される大衆車への急速な移行が進んだ。この時期にも、大量消費社会への批判や大気汚染の拡大といった問題があった。しかし、技術の進歩と共にそれらはひとつずつ克服され、最終的には受け入れられて現在に至っている。
自動車技術の変遷も同様だ。キャブレターから電気的な燃料噴射方式へ、また自然吸気からダウンサイジングターボエンジンへ移行した際にも、「つまらない」「無駄が多い」などの批判があった。しかし、最終的には環境性能や実用性が市場に受け入れられ、技術は一般化した。
近年では、ハイブリッドカー(HV)の普及が大きな変化を生んだ。トヨタが25年前に初めてプリウスを登場させたときも、HVへの批判が多かった。しかし、現在ではハイブリッドカーは実用性と環境性能の良好なバランスにより、世界シェアで4~5割を占めるほど普及し、普通の技術として受け入れられている。
EVも急速に販売が拡大しているが、現段階ではまだ黎明期に過ぎない。HVが初めて登場した時と同じ状況だ。EVに対する批判が続くなかでも、技術が進歩し実用性が増せば、市場で確実に受け入れられるだろう。
バッテリーコスト削減とEV普及の未来
EVが現状でエンジン車より高価格であるため、「金持ちの道楽」といわれることがある。しかし、これはEV技術の進化と共に自然に解消される問題だ。
現在のEV価格の高さは主に駆動用バッテリーのコスト増に起因している。航続距離を確保するためには、大型で大容量のバッテリーが必要となり、どうしてもコストがかかる。もし現時点でガソリン車と同程度の航続距離を持つEVを作ろうとすれば、数十万円から数百万円の差が生まれる。
しかし、今後はバッテリー技術のブレークスルーが期待されており、特に全固体電池の実用化が迫っている。日産は、全固体電池を搭載した車をガソリン車と同等のコストで提供することを目指している。
新技術を搭載した車は、初期段階ではコストが高くなるのは避けられない。例えば、カーエアコンやパワステも初めは価格差があったが、現在では標準装備となりコスト要因にはならない。EVも年々コスト削減が進んでおり、技術が標準化すれば、大衆車として受け入れやすい価格になるだろう。
未来志向で語る自動車の進化
EVは意外にも自動車の歴史のなかで古くから存在しており、日本でも戦後すぐにある程度普及していた。排気ガスを排出しないEVが環境によいと多くの人が感じていたが、それでもエンジン車が主流になったのは、単純にEVの性能が不足していたからだ。
現在、モーター技術やバッテリー技術の進化により、EVは実用的なパワーや航続距離を手に入れ、ようやく普及の準備が整ったといえる。自動車が社会で生き残るためには、環境負荷を減らす必要があり、EVはその重要な要素となる。
とはいえ、現時点ではEVにはまだ多くの課題があり、エンジン車やHVが再評価されつつある。しかし、EV技術の進化は止まっておらず、数年後には情勢が変わるだろう。
筆者はエンジン車が好きだし、運転して楽しいのもエンジン車だ。しかし、環境性能が重要な時代にはEVは欠かせない存在だと思う。将来的にはEVが自動車のメインストリームになってほしいと願っている。EVを否定する人々は、現状に基づいて批判しているが、もっと未来を見据えた考え方を持つべきだろう。
ネット上にはさまざまなEVに関する論評があり、否定的な意見が目立つことがある。しかし、EVに触れたことがない人には、ぜひ一度試乗してその実力を体験してもらいたい。実際に体験することで、EVという自動車の新たな可能性に触れることができるだろう。
現在のEVには航続距離や価格といった課題がある。しかし、試乗すればこれらの不安を感じることなく運転できる。実際に運転してみると、EV特有の走行感や静けさを実感でき、その魅力を理解できるだろう。長距離走行をしたい場合、レンタカーやライドシェアを利用することもできる。遠出してみると、意外と充電スポットが多いことに気づくだろう。それでもなおEVを否定するのであれば仕方がないが、体験していない段階で批判することは避けるべきだ。
EVは完璧な車ではないが、走行時にCO2を排出しないその重要性は明らかである。技術やインフラの整備は世界中で進んでおり、日本でもその姿を見る機会が増えている。現状の課題を批判するだけでは、未来を見据えた思考にはならない。
EVアンチは、技術の進歩を見守り、情勢を冷静に見極めるべきだ。普及のチャンスを否定する者には、
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はないだろう。
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