1974年にデビュー以来、コンパクトFF車のベンチマークであり続けるフォルクスワーゲン ゴルフ。日本でも間もなく8代目となる新型が発表されるが、その前に初代から現行型までのゴルフを振り返ってみたい。今回は、5代目ゴルフについて語ろう。
多くの新機軸が盛り込まれた5代目ゴルフ
2003年8月に5代目ゴルフが発表された。このときなんと、フォルクスワーゲン本拠地のウォルフスブルク市が、期間限定で「ゴルフスブルク市」へと名称変更された。ウォルフスブルクは戦前にフォルクスワーゲンの工場を建設するにあたって新たにつくられた都市だった。
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ゴルフ5には、多くの新基軸が盛り込まれた。エンジン、車体、デザイン、サスペンションなど、多岐にわたって、新技術やゴルフとして新しい要素が投入された。また、兄弟車が一気に増えたのもトピックスであり、総生産台数はよりいっそう多くなっていった。ゴルフスブルクの名前さながら、ゴルフは一大帝国を築くようになったのである。
ゴルフ5でとくに注目されたのは、FSI/TSIエンジンの投入でだ。いわゆる「ダウンサイジングエンジン」を他メーカーに先駆けて展開したのだった。また、合わせてツインクラッチのDSG(DCT)を、広く採用したことも評価された。
クルマ好きに訴えるニュースとしては、GTIが再び存在感を取り戻したことがある。GTI以外のGTと名のつく高出力モデルも存在感を増しており、ラインアップにスポーティさやダイナミックさが目立つようになった。
ボディサイズは大きくなり、デザインも変化した
ボディに関しても、先代で飛躍した高品質感をいっそう進化させていた。ボディ剛性は先代比でさらに80%(ねじれ剛性)向上。高剛性を支えるひとつとして、先代モデルではスポットではなく線で溶接するレーザー溶接が話題になったが、その総距離が先代では5mだったのが、今回は70mにまで延びた。
ボディサイズは、大きすぎると批判されたゴルフ4よりも、さらに大きくなった。ただ今回は、しっかり乗員スペースも拡充された。ちなみに、ゴルフ1以来の全長の変遷は、ゴルフ1(3705mm)→ゴルフ2(3985mm)→ゴルフ3(4020mm)→ゴルフ4(4155mm)→ゴルフ5(4205mm)、という具合だ。
ボディについては大きさ以上に目に見える変化があった。デザインである。ゴルフ5は、四角かったゴルフ4から一転、丸くなった。とくにリアエンド付近などは見事に丸みを帯びていた。ただ、ゴルフ5は丸くなっても、ゴルフ4と断絶した感はなかった。Cピラー付近の「く」の字の意匠などは継続されていたし、ゴルフ4と同じようにプレスラインはほとんど入れられなかった。その背景としては、ゴルフ4の大きな立役者であるハルトムート・ヴァルクスが、引き続きデザインのトップとして管轄していたこともある。
はっきり変わった点も、いくつかあった。ボディサイドのドアが、パネルドアからサッシュドアに変わった。今までは一枚の金属パネルをくり抜く形でドア窓が開いていたのが、窓枠が別体式になったのである。またテールランプも変わった。今までは、ボディ側にランプがあったのが、ゴルフ5ではテールゲート側にもランプユニットがはみ出た。また、テールランプもヘッドランプも丸が目立つようになったが、これは当時フォルクスワーゲン ブランド全体で展開されていたデザインだった。
ゴルフ5から採用された「ワッペングリル」
もうひとつ特筆すべきが、高出力系モデルや高価格モデルに、ベースモデルとは別のフロントマスクが与えられたことである。ベースモデルが従来同様に横基調のグリルだったのに対し、上位モデルではバンパー下にあるアンダーグリルまでをつなげて、縦長に見えるグリルデザインを採用した。これは、フォルクスワーゲン ブランド強化の動きから出てきたもので、ちょうど同じ頃、上級ブランドのアウディでも、シングルフレームグリルと呼ぶ主張の強い縦長のグリルが新しく導入されようとしていた。
「ブランドの顔」をつくる動きはこのころ業界で目立っており、フォルクスワーゲンも元来が大衆車でありながらブランド志向を強めたのだ。このデザインは、ビートルのオマージュである。ボンネット左右にまで伸びるプレスラインと合わせて、正面から見てU字型を描いているが(メーカーではV字と言った)、これはビートルのフロントフードに範をとったものだった。
ゴルフ4ではゴルフ1のオマージュだったのが、新たにフォルクスワーゲン ブランドでビートルを尊重するデザインになったので、ゴルフもそれに従ったわけである。このグリルは「ワッペングリル」と呼ばれた。ワッペンとは、ドイツでは伝統ある盾型の紋章のことを言う。
だが、このワッペングリルは、ゴルフでは一世代かぎりで終わってしまう。それはデザイン上の問題だけでなく、ゴルフ4以来の高級化志向が仇となり高価格傾向になるなどして、業績が悪化したことが背景にある。これについては、ゴルフ6の回で詳しくふりかえりたい。(文:武田 隆)
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