SRエンジンながら800psを発揮する強心臓を搭載!
昨年よりも重量軽減&パワーアップしてポテンシャル向上!
「日本勢陥落! ロシアのゴーチャがFIA IDCで2連覇!」世界一の走りを支えたS15シルビア最強ドリフトスペックに迫る!
11月30日(土)・12月1日(日)に筑波サーキットで開催された、FIAインターコンチネンタルドリフティングカップ2019(略称:FIA IDC 2019)。世界各国から名だたる達人たちが集結し、世界一のドリフトドライバーの座を賭けて争うこのイベントも今年で3年目となる。舞台はこれまでの“お台場特設コース”から、常設のサーキットへと変更。よりハイスピードレンジのドリフトバトルを求めての策だ。
競技区間等はD1グランプリシリーズとほぼ同じ。11月30日(土)はドライバーがひとりずつ走行するソロランと、2名でどれだけ合わせられるかが競われる敗者復活トーナメントが行われ、翌12月1日(日)にはひと組みずつ対戦し、最後まで勝ち上がったドライバーが優勝者となるバトルトーナメントが実施された。
そんな世界各地の強豪選手がひしめく世界一のドリフト大会で優勝を飾ったのは、運も味方につけたロシアの“ゴーチャ”ことゲオルギィ・チフチャン選手だ。
優勝したゲオルギィ・チフチャン選手。ロシアはクラスノヤルスク出身の33才で、ロシア独自のドリフト競技会であるロシアドリフトシリーズにて、2017年、2018年、2019年と、3年連続チャンピオンを獲得。昨年のFIAインターコンチネンタルドリフティングカップ2018でも優勝して世界一の座に輝いた実績を持つ。
エンジンは昨年の仕様と比べて100ps近くパワーアップ。昨年は2.2L仕様だったSRエンジンだが、今シーズンはマーレーのピストンにキャリロのコンロッド、東名パワードのクランクシャフトを使って2.4Lまで排気量アップ。インジェクターも8本に増やしており、E85のエタノール燃料を使っている。
タービンも昨年のFIA IDC時より大型化し、ボルグワーナーのEFR8474が装着される。SRエンジンながら800psを発揮しており、2JZ全盛時代のドリフト界においてもトップレベルのポテンシャルを発揮している。
エンジンはドライサンプ化されているため、ユニットが左上に見えている。クラッチはOS技研のトリプルプレートで、オランダのギヤボックスメーカーであるドレンスの5速シーケンシャルミッションを装着している。
マシンの隅々までキッチリと作り込まれているチフチャンのS15シルビア。競技マシンではポイしてしまうことが多いボンネットを支持するバーもボールジョイントでフレキシブルに動くワンオフ物に交換されていた。
トップカテゴリーで活躍するドリフトマシンでは珍しくラジエターをリヤマウント化していないため、トランク内にはコレクタータンクや燃料タンクが設置されている。なお、トランク床面のパネルは作り直されていて、軽量化を意識してか、トランクのキャッチ部分を残して余分な部分は全てカット。昨年のFIA IDC 2018から30kgシェイプし、車重は1180kgとのこと。
車高調はDG-5のゴーチャスペックで、バネレートはフロント9kg/mmのリヤ5kg/mmの設定。切れ角アップナックルはワンオフ物で、アーム類は台湾のメーカーのN1製だ。なお、ボディにステッカーが貼られているKYBは、現在開発中で来シーズンから使うための車高調をアピールするためだとか。ブレーキはMKカシヤマの対向4ポットキャリパーに変更されている。
サイドブレーキ用に純正の対向2ポットキャリパーを追加。タイヤは前後ともトーヨータイヤのプロクセスR888RDで、サイズはフロントが255/35-18、リヤは275/35-18を履いている。
リヤの足回りは思っていたよりも特殊なことはしていないという印象で、補強プレートなどで強化したメンバーをリジットマウントしており、N1製の各種アーム類を装着。
近年のD1グランプリシリーズではもはや常識といってもいいクイックチェンジに関しては「アイ ドント ライク! GT-Rデファレンシャル イズ ストロング!」と、GT-R純正のR200デファレンシャルを愛用し、ファイナルギヤは4.1を使用している。
11月30日(土)に実施されたソロランは、ライン(40%)、角度(30%)、スタイル(20%)、スピード(10%)の要素で採点され、数値計測されるスピード以外は人間の審判員が採点する。またソロランの上位15名が翌日のバトルトーナメントに進出できる。
注意すべき要素がたくさんあり、リズムが崩れて得点を伸ばせない選手が多かったが、チフチャン選手は高い平均速度と深い角度を両立させた素晴らしい走りで89点を獲得。後から走った松井有紀夫選手やチャールズ・カーキー・エン選手には抜かれてしまったものの、最終的に3位でバトルトーナメント進出を決めた。
翌12月1日(日)に行われたバトルトーナメント。ソロランで通過を決めた15名に、敗者復活トーナメントで最後まで勝ち上がった選手1名を加え、全16名で最終勝者をかけて争われる。ここでもチフチャン選手は好調で、相手のトラブルもあってベスト4まであっさりと進出。
ベスト4では松井有紀夫選手と今大会のベストバウトともいえる戦いを繰り広げ、再戦の末に勝利。2年連続となる決勝進出を決めた。
藤野秀之選手との組み合わせとなった決勝戦の1本目。先行のチフチャン選手が快調に走るなか、後追いの藤野選手はスタート直後にファイナルギヤのリングギヤが破損して走行不能になってしまう。
結局、トラブルが発生した藤野選手は2本目を走ることができず、チフチャン選手のウイニングランとともに2連覇が決定。しかし、実はこの時チフチャン選手のマシンにもクラッチトラブルが発生しており「もし藤野選手が壊れていなかったらこちらはレースを続けることをできない状況だった」とレース後の記者会見で語っている。
表彰台のセンターでトロフィーをかかげるゲオルギィ・チフチャン選手。2位は日本の藤野秀之選手で、3位はイギリスのアンドリュー・グレイ選手という結果になった。
開催初年度の2017年こそ、日本代表の川畑真人が世界王者となったFIAインターコンチネンタルドリフティングカップだが、2018年と2019年はロシアのゲオルギィ・チフチャンが連覇。近年はチフチャンだけでなく、アルカーシャやロセフといった選手の活躍も目立ってきているため、ロシアのドリフトは今後注目を集めることとなるだろう。
来年のFIAインターコンチネンタルドリフティングカップの開催地や時期は未定なものの、世界王者奪還に賭ける日本人選手たちのリベンジに期待したいところだ。
PHOTO&TEXT:Daisuke YAMAMOTO
【関連サイト】
▶︎FIA IDC 公式ウェブサイト◀︎
▶︎D1公式ウェブサイト – IDCレポート◀︎
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