2019年1月のデトロイトショー2019で豊田章男社長が、『SUPRA is Back』と宣言し、日本では同年5月から販売を開始したスープラ。
日本ではスポーツカーが苦戦するなか、BMWとの共同開発によってスープラが復活したことにユーザーも鋭く反応し、特にトップグレードのRZに人気が集中したことで、輸入車ということで納期は1年以上にまでなっている。
しかし、長い納車待ちが続いているにも関わらず、発売後9カ月でRZの大幅なパワーアップを含めた改良が施された。
スポーツカーは進化が命とはわかっているが、スープラRZの早期パワーアップについて、橋本洋平氏が考察する。
文:橋本洋平/写真:TOYOTA、HONDA、LEXUS、NISSAN、MAZDA、SUBARU、SUZUKI、DAIHATSU
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発売開始後9カ月で47psパワーアップ
デビューしてからわずか9カ月後の2020年2月にRZに搭載する3L、直6ターボエンジンのパワーアップをはじめ改良することを正式発表
発売以降も進化し続けること、これはスポーツカーにとっての生命線のひとつだ。タイムや走りの質感で常にライバルと比較されがちなスポーツカーは、成長を止めてしまえば時代に取り残されるといっても過言ではないからだ。
2020年2月13日(米国東部時間)、トヨタはスープラの一部改良を行い、秋ごろから日本で発売すると発表をした(4月28日に10月頃から販売を開始すると発表)。
日本登場からわずか9カ月でのアナウンスには驚くばかりだ。17年ぶりに復活を果たしたスープラということもあり、気合十分といったところか!?
BMW製の3L、直6DOHCツインスクロールターボの型式はB58で、パワーアップ版も排気量をはじめ型式も同じ
改良を受けたエンジンは従来型に比べて高回転型となっているのがスペックからもわかる。トルクは同じながら41psのパワーアップは大きい
3L直列6気筒ターボエンジンを搭載するトップグレードのRZでは、エキゾーストマニホールドの構造変更や新ピストンの圧縮比変更により、最高出力を従来比の14%アップとなる387psを達成。実に47psもアップしたことになる。これにより0-100km/h加速は4.3秒から4.1秒へと短縮された。
また、フロント周りにはブレースが追加され剛性を見直したほか、サスペンションセッティングも改めることで安定性を向上させたという。
思い返せば初期型はパワフルな印象は薄く、コーナーリングにおいてもスナップオーバーステアが出るなど、やや未完成だと思える部分があったことも事実。
アクティブLSDのロック率が極端に変化するところが気になったが、そこも改められているという情報もある。隅々まで走りに対して真摯に向き合った姿勢は嬉しく思える。
フロント周りにブレースを追加して剛性アップ。同時にフロントサスペンションのセッティングを変更してスタビリティを高めているという(写真は従来型)
納車待ちユーザーの半数がキャンセル
しかし、それをポジティブに感じられるのは外野だからなのかもしれない。実際にオーナーになった方々からすれば残念なのは言うまでもない。
登場したてのスポーツカーに乗れたというメリットがあれば、その進化は甘んじて受け入れるしかない。初期型にお金を投じてくれたユーザーがいたからこそ、スポーツカーは進化できるのだから……。
RZ“Horizon blue edition”はホライズンブルーのボディカラーとマッドブラックのアルミを装着する特別仕様車で100台先着販売(741万3000円)
ただし、問題なのは初期型をオーダーしながらも、そのクルマが手元に届く前に進化するという情報を耳にしてしまったオーナー予備軍が、少なからずいらっしゃったことだ。
某ディーラーでは2~4月までに納車予定だったユーザーが、このニュースを聞いて10台近くキャンセルするという事態が発生。
そのうち半数のユーザーは新型を再び予約し直したが、もう半分は「もうスープラはいらない」とそっぽを向いてしまったそうだ。
マッドストームグレーメタリックのボディカラーの2020年の日本割り当てぶんは27台で、すでに完売状態となっている
ディーラーマンは、「次に繋がったお客様は嬉しいが、キャンセルだけで終わってしまったお客様は本当に申し訳なく思います」と語っていた。
気になるのはキャンセルが出た初期型スープラの行方だが、即納状態の車両だったために、あっさりと次の買い手が見つかったとのこと。
捨てる神あれば拾う神ありということか? いずれにせよ、せっかくの新車が無駄にならずによかった……。
RZはパワーアップほか改良されたことで、価格はデビュー時の690万円から731万3000円に値上げとなった(写真は改良前)
1月から3月までデリバリーを中止した弊害
初期型でもまったく気にしないと感じているのは、いち早くスープラを購入し、すでに500ps仕様を完成させたチューニングショップ・レボリューションの青木社長だ。
「ウチではコンピュータとカーボンインダクションボックス、スポーツ触媒、パイピングを変更するくらいの仕様で、すでに最高出力500ps、最大トルク80kgmの仕様を完成させていますから、初期型でも十分だと考えています。カッコも変わりませんしね」とのこと。
スープラRZの早期パワーアップはすでに購入した人やオーダー中の人にとっては厳しい現実で賛否あるが、進化したことは素直に喜びたい
「お客様で12月納車のクルマと4月納車のクルマがありましたが、車体番号がかなり近かったんです。聞けばスープラは輸入してトヨタで完成検査をやり直してからデリバリーという流れでユーザーに納車されるらしいんですが、コロナ騒ぎもあって、1月から3月まではデリバリーが中止されていたみたいですね。だから今回のようなゴタゴタが起きたのかもしれませんね」と青木社長は語っていた。
このように、今回のキャンセル騒ぎはかなりのイレギュラーがあったのかもしれない。また、共同開発を行うBMWの都合もあっただろう。
改良後のインテリアデザインはシート形状などを含めてデビュー時から変更されていない。写真はRZのインテリア
だが、例え何があろうとも、オーダーしてくれた方の手元に届く前に進化してしまう、もしくは進化を発表してしまうのは、ちょっと問題があるように感じる。
スープラと同様、少量生産のスポーツカーであるNSXでも、実は同じような事態が発生していたと聞く。ひょっとしたら、ともに帰国子女であるが故の問題なのかもしれない。納期と進化、これは課題として考え直してほしい。
NSXは北米から輸入して日本で販売。日本割り当てぶんが少なく、納期が長いため、納車待ちが続いている間に改良、ボディカラー追加などが行われてしまう
初期ユーザーに対するフォローが必要
かつてベストカーWebで86の進化を綴ったことがあった。スープラ同様、86もまたスポーツカーであることを忘れず、毎年のように地道な進化を行っていた。
だが、それは初期型ユーザーであっても、パーツをちょっと買い足すだけでマネできるレベルに留めていた。それはいま考えてみればそれは絶妙であり、そこでユーザー達が盛り上がることもできた。
2012年にデビューして8年が経過した86は細かく手が入れられ進化し続けてきた。既存のユーザーを大事にしながら進化させた姿勢がすばらしい
極端に変化をするのは、小さな進化が熟してから。その姿勢がファンを生み、86文化を作り上げたひとつの要因だったように思える。
そこでスープラにいま求めるのは、初期型ユーザーに対するフォローだ。
変更箇所は多岐に渡るため、かなり難しい部分もあるだろうが、エンジン、ボディ、サスペンションといったパートごとに、アップデートが可能なプログラムを構築してみてはどうかと考えた。
キット販売してどこでも取り付け可能な体制にすれば、ユーザーは、「新型を真似してみようか」とポジティブに受け止められるような気がする。
「もうスープラはいらない」というユーザーを一人も生み出さないために、そして進化し続けるスポーツカーが敬遠されないためにも、次なる対策を待ち望んでいたい。
スープラが復活したことは日本のクルマ界で大きなトピック。多田哲哉CEはスープラも進化させ続けることを明言している
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