フェラーリとワゴンRの右直事故
AUTOCAR JAPANが2022年7月に報じたフェラーリ(F8トリブート)とワゴンR(初代スティングレー)の右直事故において、2024年6月、広島地裁福山支所で行われた裁判ではフェラーリを運転していた30代医師に対して、禁固3年執行猶予5年の判決を出した。
【画像】フェラーリF8トリブートってどんなクルマ? 全42枚
なお、これに先駆けて今年3月にはワゴンRを運転していた60代祖父も過失致死傷罪の疑いで書類送検していたが、情状酌量を考慮して不起訴になっている。
事故が起きたのは2022年6月18日午後8時半頃。場所は福山市内の交差点「まなびの丘ローズコム西」。現場は2キロ以上にわたってほぼ直線が続く片側3車線(信号のある交差点には右折車線あり)の広くて見通しの良い道路である。交通量も少なめでついついスピードが出てしまいそうな場所だ。
事故は直進するフェラーリと右折してくるワゴンRの衝突によって起きたいわゆる「右直事故」である。
フェラーリを運転していたのは30代の精神科医で衝突の際には時速100km以上のスピードを出していたことが確認されている。ワゴンRは60代男性が運転しており、後部座席でシートベルトを着用せず乗っていた小学生(9歳女児)が衝撃を受けて車外に投げ出され、全身を強く打って事故から2時間後に死亡が確認されている。
ワゴンRの60代男性と歩道を歩いていた男性も約4週間入院するほどの重傷を負ったがフェラーリを運転していた30代医師にけがはなかった。
この事故ではフェラーリが120km/hという一般道ではありえない速度で交差点に接近していたことで多大な非難を浴びた。フェラーリは交差点の38.5m手前でワゴンRの存在に気づいて急ブレーキをかけたが間に合わなかった。
側面衝突からの車外放出事故は40~50km/hでも発生する
ワゴンRも接近していたフェラーリには気づいていたはずだが、「右折できる」と思って無理に右折した可能性がある。
車高の低いクルマは実際の距離よりも遠い場所にいるように見える。それが120km/hという速度で向かってきているとは夢にも思わなかっただろう。
「まだまだ遠くに見えるから右に曲がれる」という判断をして右折しようとしたが、遠くにいると思っていたクルマはアッという間に近づき衝突を回避することができなかった。
120km/hといえば秒速33.33mである。たとえ100m先にいたとしても3秒もしないうちにこの場所に進んでくる。フェラーリ側も38.5m手前で気づいたがブレーキを踏むまでの時間(約0.75秒とされる)を考慮すると気づいて1秒もしないうちに衝突していたと考えられる。当然こちらも回避することはできなかった。
このような状況で起きてしまった事故であるが、ワゴンRの後部座席に乗っていた小学生女児だけが死亡という痛ましい結果となってしまった。なぜ死亡したのか?
メディアの報道や世間一般の非難は120km/hで運転していたフェラーリ医師に集中しているが、9歳女児だけが亡くなったのはベルトをせずに乗車していたことが原因だ。
側面衝突で車外に投げ出されるほどの衝撃は一般道の制限速度である40~50km/hでも発生する。フェラーリが現場道路の制限速度50km/hで走っていたとしてもベルトで拘束されていない体は簡単にクルマの外に投げ出されていただろう。
フェラーリ特有のブレーキ問題とは
この事故に関してはテレビ、新聞、雑誌、ウェブメディアなど数多くのメディアが報道した。筆者もこれまで5本の記事を書いているが、どのメディアも触れてこなかった問題がある。
それは特有のブレーキ問題である。取材を続ける中でレース関係者A氏よりフェラーリ特有のブレーキについての話を伺った。
この事象が今回の事故とどう関係しているかは不明であるが、30代医師はF8トリブートを事故が起きる直前となる2022年5月に購入している。スピードを出して走ることを好んでおり、これまで速度違反で検挙されたこともあるというが、F8トリブートの扱いに不慣れであった可能性も否定できない。
「フェラーリのブレーキはカーボンセラミック製で、冷えている状態では全然効きません。当然、市街地を走っている程度でブレーキは温まりません。さらに言えば、このフェラーリF8が出荷時に履いているCUP2というタイヤは、雨の日に走れないほどの極端なサーキット指向タイヤで、こちらもグリップしません。
以前、CUP2を履いたスポーツカーとエコタイヤを履いたプリウスの制動距離テストを実施したことがありますが、冷間時では前者のほうが1.5倍近い制動距離となりました。カーボンセラミックブレーキもCUP2も、本当に冷えてると効きません……。
ですので、この一件は一般的なブレーキ試算では結論が出せない内容だと思っており、空走距離を加味してブレーキを掛け始めたのが30m程度手前だったとして、ほとんど速度は落ちていないでしょう。破損状況から見て、100km/hを切れていたかも怪しいと思います。
事故で大破したF8トリブートの写真を見ましたが、一見したところ、60~70km/hの破損状態ではありません。
また、一般道路で120km/hは確かに異常な速度といえるでしょう。医師を擁護する気は全くありませんが、F8トリブートだと、トヨタ・ヴィッツで30km/hまで加速した感覚で120km/h出ています。購入して間もないということで、スピード感がよく分かってなかった可能性もあります。」
2022年10月にフェラーリジャパンからブレーキ問題でリコールが出ていた!
フェラーリのブレーキといえば、もうひとつ気になることがある。事故が発生した直前の2022年6月13日に、フェラーリジャパンから制動装置(ブレーキ)に関しての不具合が公表され、リコールが行われている(リコール届出番号外-3480)。
日本市場で販売されてきた合計26型式 計24車種の合計7286台が対象で、この中には1193台のF8トリブート/F8スパイダー(型式7BA-F142CE)も含まれている。
不具合の原因として以下が記されている。
「制動装置において、マスターシリンダーのブレーキブースター側に装着されている油圧シール部からブレーキフルードがブレーキブースター内に漏れ、ブレーキの一次回路のブレーキフルードがなくなった場合、制動力は二次回路のみで作動する状態となることがある。その状態でブレーキリザーバータンクのキャップを強く締めすぎていると、ブレーキリザーバータンクの換気が減少してタンク内に負圧が発生し、ブレーキの二次回路のブレーキフルードがブレーキリザーバータンクに戻る可能性があり、最悪の場合、ブレーキが効かなくなるおそれがある」
こちらに関しても前述のレース関係者A氏は話す。
「このブレーキの不具合と今回の事故は関係ないと思っていただいて大丈夫です。リコール対象のフェラーリにも乗ってましたが、致命的なトラブルになるような内容ではありませんでした。実際、これが原因の事故も把握していません」
確かに、不具合件数は5件と国交省に届け出されているが、事故発生の有無に関しては「無し」と報告されている。なお、国交省に確認したところ、これらの数字はリコール届出時(令和4年10月13日時点)での数字でそれ以降については把握していないとのこと。
祖父母のクルマにわが子を乗せる時は要注意!
事故を扱った広島県警に女児の車外放出による死亡含めて、このような事故が今後起きないようにするにはどうしたらよいか? という質問をしてみた。
返ってきた答えは以下となる。
「2022年6月18日に福山市内で発生したこの事故に限らず、日常発生している悲惨な事故はたくさんありますが、歩行者を含めて道路を利用するすべての人が各種法令や交通ルールを順守するとともに、安全確認を徹底するなど交通事故防止に努める必要があります。
広島県警としては、あらためてすべての座席でのシートベルト着用と交通安全教育、悪質な交通違反の取り締まりを強化していきます」
高齢者は特に乗車中の子どもに対する危機意識が薄く、孫が嫌がれば点数稼ぎのためか? 「ベルトしなくていいよ」などと言ってしまう傾向がある。知人家族の話だが、祖父運転の軽自動車で自損事故を起こした際、後ろにはジュニアシートもシートベルトもしていない小学生(8歳)と幼稚園生(5歳)の孫二人が乗っていた。
30km/h程度でガードレールへの衝突だったが、孫二人はシートから転げ落ち前のシートの背もたれと窓ガラスで頭を強打するなどのけがを負った。命に別状はなかったものの、もう少し速い速度なら車外放出で死亡した可能性もあった。
夏休みに入り、実家へ帰省したり、祖父母にわが子を預けたりする機会も増えるだろう。祖父母運転のクルマにわが子を乗せる機会があるなら親自身がチャイルドシート(身長100~150cmまではハイバック型ジュニアシート)を用意してしっかり装着させて欲しい。
年間1万人以上の小学生が自動車乗車中にベルト(ジュニアシート)を正しく着用せず事故で死傷している。祖父母や子どものいない親類はチャイルドシートの重要性などほとんど理解していない。一般道路でも後部座席でも年齢を問わずシートベルト着用の義務があることも知らないケースが多い。
楽しい夏休みが悲劇の時間とならないよう、乗車中の子どもは確実に守ってあげて欲しい。
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みんなのコメント
そもそもフェラーリがありえない速度で
市街地の道路を走ってるのが問題。
あと、カーボンブレーキ効かないのなら、公道では使用禁止にして欲しい。
但し、貰い事故もあるのでシートベルトはしましょう。