車格を超えた大型化
text:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
【画像】小型で扱いやすいシティカー【ライバル比較】 全12枚
自宅の狭いガレージに駐車するときやホイールに傷をつけないように慎重に機械式駐車場のパレットに収めるときなど、最近のクルマが大柄になっていることに気づかされる場面は多いだろう。
クルマのサイズはクルマ好きやAUTOCARの読者のみなさんにとって大きな関心事だろう。最近のクルマたちは、それを走らせる道路の幅や駐車場のスペースに対して大きくなりすぎではないだろうか。
例えばレンジローバーは1970年に登場した初代に比べ、現行モデルでは標準仕様でも200mm広く、550mm長い。フォルクスワーゲン・ポロは初代ゴルフよりも明らかに大きい。そして現行BMW5シリーズは2003年のロールス・ロイス・ファントムをミラーを含めた全幅で上回るのだ。
しかし、クルマの巨大化を促進する要因となった事柄は、この50年間で変わっておらず、今後もこの傾向は続くと見られている。そこで今回、クルマの大型化を止める方法を10個ご紹介しよう。
アクティブ・セーフティのさらなる進化
ここ25年間にわたるクルマの大型化、重量化の最大のカギとなっているのが安全性だ。ユーロNCAPをはじめとした評価制度により、パッシブ・セーフティが重要なセールスポイントとなったのだ。
当然のことながら、安全なクルマがより良いということは議論の余地がないだろう。クルマの構造強度が高められるとともに、クラッシャブルゾーンを設けることにより乗員や歩行者を事故の衝撃から守るようになっている。
しかしこれからの20年の技術進歩によりアクティブ・セーフティが充実すれば、パッシブ・セーフティはそれを補う形になるだろう。
多くの新型車にセンサーや危険を検出する装置が取りつけられることにより、事故を防いだりその被害を軽減することができるようになっている。クラウドを用いた通信技術により、ドライバーの疲労や体調不良を検出し自動的に停車させることも可能になっているのだ。
半自動運転や車両間ネットワークの発達により、「事故」が過去のものとなるのはいつだろうか。10年後か20年後、その先になるかもしれないが、その時がくればパッシブ・セーフティに求められる水準はいくらか緩和されるのではないだろうか。
クロスオーバーやSUVを減らす
大きく背の高いクルマがより安全であることは疑いの余地がないが、クロスオーバーやSUVの人気が高まっていることも重要な理由の1つだろう。
これは次の「大きな流行」が来れば解決されるものだと考える。必要以上に大きく重く複雑なクルマを選ばなくなる時期がいつか訪れるだろう。
これは従来型のサルーンやハッチバックに戻るということに限らず、それとは異なる新たな選択肢が登場するかもしれない。
バッテリー技術を向上させる
電気自動車の航続距離や、バッテリーパックの重量を気にしなくて良くなるまでには少なくとも10年は必要だろう。とはいえ、その時は確実に来るのだ。
リチウムイオンバッテリーの容量は陰極の構造を変化させることによりここ10年間でおよそ2倍に向上しており、エネルギー密度で考えても1kWh/kgに近づいている。そしてその価格はおよそ1万円/kWhの水準になりそうだ。
次の焦点となっているのは陽極だ。これを現在のグラファイトから、グラファイトとシリコンの混合物に置き換えることが検討されている。これが成功すれば、バッテリーのエネルギー密度は再び2倍、もしくは3倍にまで増えるかもしれない。
この時点からバッテリーパックの大きさや重量が小さくなり、クルマ自体の大きさも小さくできるようになるだろう。
クルマの設計思想を変化
われわれは欲望に支配されすぎているのかもしれない。公道からSUVが減ればより走りやすくなると考えるひとがいるのと同様、皆がクルマ好きというわけではないのだ。
クルマに興味がないひとが自分のクルマを決めるのはより実用的な理由に基づいていることが多い。とはいえ、そんなクルマが市場に多く出ていないのであれば、選びようがないだろう。
デザイナーはクルマがファッションや家電製品とは異なることを認識すべきだ。ダイナミックな外装よりも、広い車内空間や機能性を重視するひとも多いのである。
このような変化はマーケット主導で起こるべきだが、そんな適切な優先順位を持った選択肢が存在しなければ起こりえないだろう。簡単に言えば、大径ホイールや複雑な造形、それに流麗なルーフラインなどといった外観のために犠牲になるインテリアスペースが大きすぎるのだ。
エンジンをモーターに
これはわれわれのコミュニティにおいてもしばしば炎上の元となるテーマだ。クルマ好きは往往にしてレシプロエンジンが大好きなのである。
とはいえ電動モーターの方が小さく軽く、車両への搭載が容易なのだ。そして出来が良く環境にも優しい電気自動車が市場に続々と投入されているではないか。
実際にこれらは内燃機関搭載モデルよりも小さいだろう。ただし、現時点では車重に関してはそうとは言えない。
シンプルさを再評価
われわれがプレミアムブランドに求めているものは多い。中でも先進技術を満載するためにクルマは肥大化せざるを得なくなっている。
しかし、クルマの本質に立ち返って、われわれが買うべきクルマ像を再認識することも必要なのではないだろうか。
新興ブランドの多くは従来のプレミアムブランドやラグジュアリーブランドがここ30年間に付加してきたコストや複雑さを廃してきている。これによるサイズの縮小や軽量化はエネルギー効率の向上にも役立つのだ。
しかしこれは古参ブランドにとっても市場におけるシェアを取り戻す良いチャンスだと言えるだろう。
誤った理想を捨てる
これはロードカーのエンジン開発やパフォーマンスの追求を担当するひとには耳の痛い話かもしれない。しかし市場がファミリーハッチバックの速さやダイナミックさの追求、またインフォテインメントシステムの機能充実を追い求めることを諦めれば良いのである。
これによりデザイナー、エンジニアそれに経営陣は本当に必要なものに集中することができる。それはユーザービリティ、ドライバビリティ、そして効率性と合目的性だ。
こんな誤った理想への固執は、製品マーケティング部門が主導しているのだろう。ライバル車よりも優れた点を打ち出そうとして、誤った方向に進んでいるのではあるまいか。
真の才能、創造性、それに先見性があるひとなら、この方向性を変えることができるだろう。
若年層に目を向ける
自動車業界の最大の失敗の1つとして、20代や30代の顧客を取り込むことができていないという点が挙げられる。
もちろんこれには高額な保険料や車両本体の購入に関する経済的な障壁から中古車に流れているという原因も存在する。
しかしより小型で都市向けの電気自動車が格安の走行コストでカーシェアリングもできるとなれば、若者を取り込むこともできるだろう。
これを実現するためには、燃料や電池の問題を解決するのが先決だ。
税制改革を推進する
大半のクルマが電動となり、それに対応するインフラも整えば、この話は簡単だ。CO2排出量に対応する課税に加え、燃料への課税も行われることになる。
電気に対する課税も検討されてはいるが、これはクルマによる道路やその他環境に対する負荷に見合わなくなるのではないか。例えば洗濯機もクルマも一律にkWhあたりの税金が課せられるようになるのだろうか。
そうでないとしたら、多くのEVオーナーが家庭で充電するという実態において、どのように課税するべきなのだろうか。ましてや自宅のソーラーパネルで発電した電気に課税するのはおかしいだろう。
これが英国において現行の税制を道路の使用に対する課金で置き換えようとする理由だ。これはプライバシーや整備にかかるコストという問題を抱えている。しかし車両の大きさによって道路の占有量が違うことや、車重による道路へのダメージの差を理由に使用料を差別化することができるだろう。
小型車のランニングコストが低下すれば、必然的に需要と供給のバランスから車両の小型化が進むだろう。
世界のエネルギー市場を公正に
環境保護論者がいうように地球温暖化が進んでいる理由の1つとして、化石燃料の価格がその消費によるコストに見合っていないことがあげられる。
ガソリンの価格が採掘、精製、輸送のコストだけでなく、その使用により排出されたCO2を取り除くのに必要なコストまで含むとしたら、その価格は現在の何倍にもなるだろう。
そうなったら個人のドライバーや運送業界、それにエアラインなどは代替燃料の使用を検討するようになるはずだ。
もちろん現在の世界経済は利益や税収を元に成り立っているのは事実だ。しかし、化石燃料の価格が今の数倍になるようなことがあれば、内燃機関を搭載するクルマはより小型軽量で効率性の高いものになるのではないか。
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