日産サンタナ以来!海外ブランドの国内生産
日本では1920年代からGMやフォードなど海外ブランドのクルマがKD(=ノックダウン)生産されており、1950年代にはヒルマン・ミンクス(いすゞ)やルノー・4CV(日野)など数々の名車が日本で生産されていた。
【画像】月額9800円のお手軽EV【福島発小型EVの内外装デザインを詳しく見る】 全46枚
しかし、国内自動車産業の急激な進化と発展によって海外 ブランド車を日本で生産するケースは徐々に姿を消し、1984年から1990年まで日産自動車座間工場にてライセンス生産されていた日産サンタナ(フォルクスワーゲン・サンタナ)が最後となった。
それとは逆に、海外で日本車が現地生産されるケースは日本車の海外販売拡大とともに急増。
2021年現在、世界約40か国で生産がおこなわれており、2021年の四輪車海外現地生産台数は1646万台、二輪車は2375万台にも達している。
そして、このたび日産サンタナ以来、30数年ぶりに海外ブランド車が日本国内で生産されることが明らかになった。
その名も「大熊Car」。アパテックモーターズ(本社 東京都品川区/代表取締役 孫峰)が日本で販売を予定している2車種(五菱Air ev/宝駿 KiWi)とともに、3月12日福島県大熊町で開催された「おおくま学園祭」にて初めてお披露目された。
テストコースを含めた工場用地も大熊町内に申請済みで、大熊町在住者を中心に雇用し組み立てがおこなわれるという。
なお、工場が稼働するまでは中国から輸入した車両を大熊Car仕様に仕立てて販売するかたちになる。
孫峰社長は「日本の道路規格にあわせた仕様変更も必要です。また、入門用EVとして使う人の目線にあわせて迷いがなく、使いやすい仕様にして販売する予定です」と話した。
たとえば、ボタンでおこなうシフトチェンジなどもその1つだ。
D/N/Rの大きな3つのボタンを押すことでシフトを切り替えるため、誤使用が起きにくい。
大熊Carの商用車バージョンはAZ-COMネット(中小のトラック運送事業者を中心とする会員制のネットワーク)でもすでに予約が開始されており、1か月9800円という安価なリース料も話題を集め3月上旬から1週間で約500台を受注している。
なぜ大熊町? 中国メーカー「日本生産」のワケ
大熊町は廃炉作業が進む福島第一原発を有する町である。
東日本大震災による原発事故の影響で、長い間全域にわたって避難指示が続いていたが、2019年4月から大熊町の一部エリアで避難指示が解除されはじめ、徐々に町民たちも大熊町に戻りつつある。
とはいえ、2023年3月現在、大熊町に居住する人々は約1000人。震災前1万1000人を超えていた人口の約1割にも満たない。
筆者は昨年11月、アパテックモーターズ孫社長に中国製小型EVの輸入・販売・(近い将来)日本での生産について話を聞いていた。
最後に「将来は福島県内に工場を建てて、中国メーカーを誘致して日本人の丁寧で高品質な作業によって日本の事情に合致した使いやすく安価な小型EVを生産できる体制を整えたい。津波や原発事故の被害を受けた地域の雇用にもつながる」
「仕事があれば若い人たちも大熊町に戻ってくるでしょう。福島の皆さんに役に立つEVを作りたい……」という壮大な話を聞いており、「中国メーカーを日本に誘致? 日本人による作業でEVを生産」という前代未聞のアイデアにただ驚くばかりであった。
それから4か月。2月の終わりに孫社長から大熊Carを生産するための工場用地の申請を始めたという連絡を頂いた。
昨年秋に話を伺ったときには、まだ遠い未来のことだと思っていたのでこんなに早く動き出していたという事には驚いた。と同時に、孫社長の気合と本気を感じたのである。
工場を建設し、稼働するまでは中国からの輸入モデルを日本仕様にして販売するとのことだが、いったい「大熊Car」とはどんなクルマなのだろうか? サイズは? 価格は? 気になるところを孫社長に聞いた。
軽規格にあわせて設計変更 月額なんと9800円!
――「大熊Car」とはどんなクルマですか?
「『大熊Car』は5ドアで乗車定員は4名。中の座席を外して配送など商用用途にも使えます。全長3880mm、全高1610mmでベース車両は全幅1499mmですが日本で販売する仕様は全長と全幅を軽自動車枠内に収めます」
「最高速度は100km/hでバッテリー容量は16.5kWhなので、長い距離を早い速度で走るためのEVではなく、近距離移動用に設計されています。家庭のコンセントで普通充電できるので、特別な充電ステーションは不要。この気軽さがEV普及率の向上につながると考えています」
――日本国内向けに販売されるのですか?
「はい。大熊Carは日本および東南アジア市場で販売される予定です。ただ、通常の販売形式ではなく、サブスクスタイルを導入する予定です」
「月額9800円と安価な価格設定でEVを普及させ、低所得者でも環境にやさしい社会を目指します。わたし達のターゲット顧客はレンタカー企業、企業営業用車、リース企業に加えてZ世代(18歳~20代前半の若者)の方にもぜひ使っていただきたいと考えています」
「そのために学校などでEV展示会をおこない、EV普及の啓もう活動をおこなっていきたいですね。中国の低コストサプライチェーンを導入することで、日本のEV普及率を2030年に30-40%に引き上げることに貢献できると思います」
――他の2台も気になりますが、なぜ今、これら小型EVの日本導入が検討されているのでしょうか?
「自動車市場において、EV(電気自動車)の需要が急速に拡大しています。とりわけ、気候変動や環境問題に対する意識の高まりでEVへの関心は世界的に急速に高くなっています」
「弊社のEVは入門用と考えていただけるとよいかと思います。LCCの廉価版EVですから日本や欧米メーカーのEVとは競争関係にありません。まずは、入門EVを体験することで、EVに対する国民の関心を喚起し、EVの普及を容易にします」
――日本国内で中国メーカーのクルマを生産する計画があるとは驚きました。
「1980年代から自動車メーカーを含む多くの日本企業が中国に進出し工場を建設していますが、逆のバージョンは極めて少ないです、中国企業が日本に投資し、工場を建設することはほとんどありませんでした」
「アパテックは、このようなかたちで中国有力企業を誘致して日本への企業投資をおこなうことで、新しい日中友好関係のステージが作られると考えています」
Z世代に響く? 五菱Air evと宝駿KiWi EVとは
アパテックがマーケティング調査をはじめ日本での販売準備に入った他の2台について紹介しておこう。
2台とは「Air ev」(インドネシアで生産)と「KiWi EV」(中国国内で生産)で、いずれも上汽通用五菱が製造・販売する小型EVである。
上汽通用五菱は2020年8月に発売され日本でも話題になった「45万円EV」こと宏光MINI EVを世に送り出したことで知られる自動車メーカーだ。
宏光MINI EVは発売直後から意外な高品質と無駄を省いた機能重視の仕様、リーズナブルな価格設定によって、年間40万台前後を販売する爆発的な人気となっており、中国国内では日産シルフィと1、2位を争う販売台数を誇る。
同社は小型ミニバンでも高い支持を得ており小型車の生産ノウハウに長けたメーカーなのである。
2022年6月に発表された「Air ev」は全長2974mmx全幅1505mmx全高1631mmと宏光MINI EVとほぼ同じボディサイズとなる。
生産はインドネシアでおこなわれており、2022年11月に同国で開催されたG20で公式車両として採用されたことでも大きな話題を集めた。
航続距離(CLTC方式)は宏光MINI EVが120km(容量9.3kWh)と170km(容量13.8kWh)なのに対し、Air evでは大きく上まわる200kmと300kmのモデルを設定。ホイールベースの違いによって2名乗り、4名乗りの設定がある。
いっぽう、BAOJUN KiWi EVは上汽通用五菱が展開するブランドの1つ「宝駿」(BAOJUN)下の超小型EVである。
2020年1月に発売された当初の「宝駿E300」から2021年8月のマイナーチェンジで「宝駿KiWi EV」へと改称している。
Air evよりもさらに近未来的かつ有機的なスタイルはZ世代からの人気を集めそうだ。
全長2894mmx全幅1655mmx全高1595mmのコンパクトなワイドボディは大人4人が乗車しても意外なほどゆったりしており、内外装も洗練されている印象だ。
福島から世界へ 高齢者にも「わかりやすい」
筆者はいま、「おおくま学園祭」が開催されている大熊町インキュベーションセンターでこの原稿を書いている。
3月12日、復興が進む大熊町でおこなわれた「おおくま学園祭」は、避難している住民の皆さんも各地から集まってにぎやかに開催されている。
「大熊Car」をはじめとした3台の小型EVへの注目も高い。
特に高齢の町民の皆さんから「中国の電気自動車がいいねえ」「ボタンがわかりやすく使いやすい」「小さく見えるが乗ってみたけど意外と広い」などの声があちこちから聞こえてくる。
町が完全に震災前に戻るにはまだ時間がかかるのだろうけれど、小さなEVに集まる人々の笑顔を見ているとこの町の将来が明るいものになると確信できる。
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