現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > カロッツエリアも苦悶 ジャガーEタイプ・フルア・クーペ 崩せない完璧な美しさ 後編

ここから本文です

カロッツエリアも苦悶 ジャガーEタイプ・フルア・クーペ 崩せない完璧な美しさ 後編

掲載 2
カロッツエリアも苦悶 ジャガーEタイプ・フルア・クーペ 崩せない完璧な美しさ 後編

生産へ移されなかったフルアのボディ

デザイナーのピエトロ・フルア氏から届けられたシルバーのジャガーEタイプ 4.2へ、依頼主のジョン・クームズ氏は落胆した。1966年に開かれたジュネーブ・モーターショーの前夜に。

【画像】カロッツエリアも苦悶 ジャガーEタイプ オリジナルとレストモッド版 現行Fタイプも 全102枚

フルアが営むコーチビルダーのイタルスイスには、改造を受ける予定のEタイプ・クーペが既に送られていた。しかし、追加生産の依頼はなかった。

1965年11月初旬、カルメン・レッドのボディにブラック・レザーのインテリアというコーディネートで、1台のEタイプがジャガーの工場をラインオフ。ジュネーブ・モーターショーに向けて前後が作り変えられ、控えめなシルバーへ塗り直された。

このショーではBMW 1600にフェラーリ330GTC、プロトタイプのランボルギーニ・ミウラなど、花形モデルが目白押しだった。KPH 4Cのナンバーを取得したフルア・ボディのEタイプの反応は、肯定的なものだけとは限らなかった。

数台の注文もその場で入った。しかしクームズは、仲介に要する手間や生産コストを考慮し、生産へ移すことはなかったという。

その後のEタイプは、一節によるとレイ・マカロック氏に売却されたということだが、ガイ・サーモン氏が1750ポンドで購入したという別の記録もある。ちなみにこれは、オリジナルのEタイプ 4.2より300ポンドも安価だった。

とにかく、マカロックが1972年に所有していたことは間違いない。走行距離を6万8000kmまで重ね、1980年代初めにこの世を去るまで手放すことはなかった。それ以降は、多くのオーナーの元を転々としている。

量産されすぎたジャガーEタイプ

この例のように特殊なクラシックカーの場合、長期的に放置されたり、次のオーナーが見つからない場合もある。しかしKPH 4CのEタイプは見放されることなく、現在まで状態が維持されている。

1990年代半ばには、ベルギー在住のカーコレクターの元へも渡った。その後はネザーランド(オランダ)などを経て、2008年に英国へ復帰。Eタイプ・マニアのアンソニー・ブラッゾ氏が献身的なレストアをボディとメカニズムへ施している。

もしEタイプで至らなかった点を挙げるとすれば、ジャガーが量産しすぎ、見慣れた存在になってしまったことかもしれない。フルア・ボディが生まれた理由でもある。人とは違うEタイプが求められていた。

クームズのアイデアは、的外れとはいえなかった。とはいえ、遠く離れた英国とイタリアで意思疎通しながら、デザイナーがイメージ通りのスタイリングを仕上げることは難題ともいえた。インターネットが登場する遥か以前の話だ。

ピニンファリーナやベルトーネなら、違う結果を導いただろう。よりプロフェッショナルな組織体制も整えられていた。だがそのぶん、着手費用も高額だった。

英国で1954年に創業したオグル・デザインなど、新しい才能と手を結んだ方が賢明だったかもしれない。ボディやパーツの金型を作り、精巧に仕上げることが容易ではなかったとしても。

180km/hのクルージングを悠々とこなせる

スタイリングの仕上がりは別として、レストア後のKPH 4Cは状態が素晴らしい。クームズとフルアとの共同製作といえる当時の姿に忠実で、シャシーやエンジンの番号も完全に一致している。

内装は、基本的にシリーズ1のEタイプ 4.2 クーペから変更されていない。ブラックのレザーシートは運転席側でヒビが目立つものの、オリジナルのまま。外観ではわからないが、当初塗装されていたカルメン・レッドがボディの随所に残っているそうだ。

直列6気筒エンジンは丁寧に磨き込まれ、ポート加工され、ハイレシオのリアデフが組まれている。クームズは、ワイヤーホイールとコニ社のショックアブソーバーも指定している。180km/hでのクルージングを、4000rpm程度で悠々とこなせるらしい。

ステアリングホイールを実際に握ってみると、通常のEタイプ 4.2より明らかにたくましい。メカニズムには締まりがあり、回転数を問わず太いトルクが湧出する。短い直線でも、あっという間に160km/hまで加速してみせる。

適度に小柄で洗練されたEタイプは、生まれた時から優秀だった。現在でも、その印象は変わらないということを再確認する。

今から60年前は、価格帯を3倍まで広げても、これに匹敵する能力を持つ競合モデルは存在しなかった。クラシックカーとして、高い評価を保ち続けてきた理由でもある。

少々行き過ぎだった前後の処理

フルアが手掛けたEタイプ 4.2も魅力を欠いているわけではない。とはいえ、フロントノーズとテールエンドの処理は少々行き過ぎだったかもしれない。一方でインテリアには、もう少し手が加えられても良かったように思う。

ミニ・クーパーには高級な仕様が数多く生まれてきた。パワーウインドウにエアコン、豪華な内装素材が組み合わされていれば、ラグジュアリーで一層特別なEタイプが完成したことだろう。ジュネーブ・モーターショーでの反応も、違ったかもしれない。

協力:ペンディン社

ジャガーEタイプ 4.2 フルア・クーペ(1966年/英国仕様)のスペック

英国価格:1992ポンド(新車時)/9万ポンド(約1494万円/現在)
販売台数:1台
全長:4445mm
全幅:1676mm
全高:1220mm
最高速度:241km/h
0-97km/h加速:7.0秒
燃費:6.4-7.8km/L
CO2排出量:−
車両重量:1192kg
パワートレイン:直列6気筒4235cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:268ps/5400rpm
最大トルク:39.0kg-m/4000rpm
ギアボックス:4速マニュアル

こんな記事も読まれています

ウォームアップでトヨタと接触した78号車レクサスはピットスタートへ。2分追加のペナルティも
ウォームアップでトヨタと接触した78号車レクサスはピットスタートへ。2分追加のペナルティも
AUTOSPORT web
軽自動車にスーパーカー並みの装備[AZ-1]!! [高性能スペック]を誇った絶版スポーツ
軽自動車にスーパーカー並みの装備[AZ-1]!! [高性能スペック]を誇った絶版スポーツ
ベストカーWeb
真逆のマシン特性でレッドブルに挑んだメルセデス。サインツ、ペレスがハマった難関ターン6【中野信治のF1分析/第9戦】
真逆のマシン特性でレッドブルに挑んだメルセデス。サインツ、ペレスがハマった難関ターン6【中野信治のF1分析/第9戦】
AUTOSPORT web
あと1歩届かなかった……トヨタ小林可夢偉、前途多難のル・マン24時間レース惜敗に「めちゃめちゃ悔しい」
あと1歩届かなかった……トヨタ小林可夢偉、前途多難のル・マン24時間レース惜敗に「めちゃめちゃ悔しい」
motorsport.com 日本版
フォルクスワーゲン・トゥアレグ 詳細データテスト 実直な大型SUV PHEVの経済性はそこそこ
フォルクスワーゲン・トゥアレグ 詳細データテスト 実直な大型SUV PHEVの経済性はそこそこ
AUTOCAR JAPAN
雨に翻弄された101年目のル・マン。燃料ギリギリ! 50号車フェラーリが優勝。トヨタ7号車は最後尾から追い上げも届かず2位|ル・マン24時間:フィニッシュ
雨に翻弄された101年目のル・マン。燃料ギリギリ! 50号車フェラーリが優勝。トヨタ7号車は最後尾から追い上げも届かず2位|ル・マン24時間:フィニッシュ
motorsport.com 日本版
正式発売前のプロトタイプ先行試乗をプレイバック! 3代目レクサスISはBMW3シリーズを超えられたのか?
正式発売前のプロトタイプ先行試乗をプレイバック! 3代目レクサスISはBMW3シリーズを超えられたのか?
ベストカーWeb
ガソリンがリッター263円なら安い!? 給油するならドイツ、フランスを避けてルクセンブルクがオススメです【みどり独乙通信】
ガソリンがリッター263円なら安い!? 給油するならドイツ、フランスを避けてルクセンブルクがオススメです【みどり独乙通信】
Auto Messe Web
ル・マン24時間レース決勝速報|フェラーリ、逃げ切り2連覇達成! トヨタとの近年稀に見る大接戦を制す
ル・マン24時間レース決勝速報|フェラーリ、逃げ切り2連覇達成! トヨタとの近年稀に見る大接戦を制す
motorsport.com 日本版
7号車トヨタがレクサスとの接触でマシン破損/2024年WEC第4戦ル・マン24時間 ウォームアップ
7号車トヨタがレクサスとの接触でマシン破損/2024年WEC第4戦ル・マン24時間 ウォームアップ
AUTOSPORT web
マイチェンで「歴代最強」 フォルクスワーゲン・ゴルフ R 試作車へ試乗 最高水準の魅力に揺るぎナシ!
マイチェンで「歴代最強」 フォルクスワーゲン・ゴルフ R 試作車へ試乗 最高水準の魅力に揺るぎナシ!
AUTOCAR JAPAN
初心者でも安心! 自分のレベルに合わせてサーキットを楽しめる「GR Garage」主催の走行会に人気集中。ゲストドライバーに松井孝允選手も
初心者でも安心! 自分のレベルに合わせてサーキットを楽しめる「GR Garage」主催の走行会に人気集中。ゲストドライバーに松井孝允選手も
Auto Messe Web
“直線番長”プジョー9X8、劣勢も決勝に自信「正しいアプローチかどうかは、レースで分かる」/ル・マン24時間
“直線番長”プジョー9X8、劣勢も決勝に自信「正しいアプローチかどうかは、レースで分かる」/ル・マン24時間
AUTOSPORT web
前年から運用方法が一部変更。2024年のル・マン24時間セーフティカールールをおさらい
前年から運用方法が一部変更。2024年のル・マン24時間セーフティカールールをおさらい
AUTOSPORT web
伝説の「6輪F1マシン」を生んだ小屋 70年前のティレル工場が移転保存 英国
伝説の「6輪F1マシン」を生んだ小屋 70年前のティレル工場が移転保存 英国
AUTOCAR JAPAN
JAFが義務化しているユニバーサルロゴの意味は? 実際にラリー車両に貼ってモータースポーツ参戦している人の声を聞いてきました
JAFが義務化しているユニバーサルロゴの意味は? 実際にラリー車両に貼ってモータースポーツ参戦している人の声を聞いてきました
Auto Messe Web
余裕と安心の「サイレント」スポーツ ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(2) 創業者も認めた1台
余裕と安心の「サイレント」スポーツ ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(2) 創業者も認めた1台
AUTOCAR JAPAN
ロールス・ロイス傘下の「ダービー」世代 ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1) 端正なコーチビルド
ロールス・ロイス傘下の「ダービー」世代 ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1) 端正なコーチビルド
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

2件
  • なんだかおてぃむてぃむみたいなデザインやの
  • フルアは、自身のデザインしたマセラティ・ミストラスに、透明なヘッドランプカバーを付けた様なスタイルにしてしまいましたね。

    他にも、Eタイプの着せ替えとしては、ベルトーネ在籍中にミウラやエスパーダもデザインしたガンディーニによるジャガー・ピラーナというのもありましたね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

149.5189.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

30.030.0万円

中古車を検索
クーの車買取相場を調べる

ダイハツ クーの中古車

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

149.5189.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

30.030.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村