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第6回:ボンド・カーになったアストン・マーティン

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第6回:ボンド・カーになったアストン・マーティン

21世紀に突入して以来の大躍進で、今やブリティッシュ・スーパーカーの雄として君臨するアストンマーティン。百年を超えるその歴史においては数多くの傑作が作られてきたが、なかでも特別な存在として敬愛されているのは「DB5」である。

このクルマこそ、アストンマーティンとその愛好家にとっては忘れえぬ「マイルストーン」あるいは「アイコン」と言うべき名作。さらに言うなら単にアストンに留まらず、1960年代のスーパースポーツを代表すべきモデルのひとつなのだ。

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1963年夏にデビューしたDB5は、デーヴィッド・ブラウン時代のアストンマーティンを代表する偉大な3部作であるDB4、DB5、DB6のなかでも、総合的なバランスや完成度の面で「最高傑作」といわれている。DB5の前身は、1958年に発表されたDB4。完全なハンドメイドによる美しいアルミニウム合金製ボディに、こちらも総アルミ軽合金の直列6気筒DOHC・3670ccユニットを搭載、1960年代初頭における世界最速車のうちのひとつとなったモデルである。

満を持して登場したDB5は、DB4の最終型のシリーズ5と比較すると、排気量は3995ccにまで拡大され、独ZF社製の5速トランスミッションを採用(最初期型のみはデーヴィッド・ブラウン自社製4速が組み合わされる)、後席のヘッドルームを拡大するために若干変更されたルーフラインなどが目立つ変更点だが、そのほかにも細かい仕様変更は多岐に亘るものであった。

またDB4時代には、トリプルキャブレターは高性能版の「ヴァンテージ」の特権だったが、DB5からは標準モデルにも3連装SUキャブが与えられ、DB4ヴァンテージから16psアップの282psを発揮した。また、純粋なレーシングモデル「DB4GT」以来の3連装ウェーバーキャブと、専用のシリンダーヘッドの採用により、314psまでパワーアップされた「DB5ヴァンテージ」も設定されたが、こちらのほうはわずか65台の生産に終わっている。

DB5のボディは、基本デザインをイタリア・ミラノの名門、カロッツェリア・トゥーリングの社主兼チーフスタイリストであったカルロ・フェリーチェ・ビアンキ・アンデルローニが手掛けた。ボディの製作もトゥーリング特許の軽量工法「スーペルレッジェーラ」のライセンス供与を受け、ニューポート・パグネルの旧アストン本社ファクトリーで行われた。

ちなみにスーペルレッジェーラとは「超軽量」を意味するイタリア語である。ほぼボディ形状を成す極細鋼管製の骨格に電蝕を防ぐためのフェルトを巻いて、ボディ外皮となるアルミパネルを張り付けるという、極めて凝った工法であった。

一方、DB4シリーズ5のヴァンテージから継承された「カウルドヘッドライト」、すなわち流線型のカバーが取り付けられたスポーティなノーズ形状は、先代DB4時代のレーシングモデル、DB4GTで初採用されたスタイルであった。

バリエーションは伝統的に「サルーン」と呼ばれる2+2クーペ、そして2シーターの「ドロップヘッドクーペ(コンバーティブル)」の2本立てだが、そのほかにも英国の有名なコーチビルダー「ハロルド・ラドフォード」の架装による極めて贅沢なエステートワゴン「シューティングブレーク」も12台だけ製作されている。

ところで、DB5に代表されるデーヴィッド・ブラウン時代のアストンマーティンは、フェラーリへの対抗意識を明らかにしていたことでも知られている。デーヴィッド・ブラウンの買収によるブランド復活とフェラーリの創業は時期的にもごく近い上に、どちらもそれぞれの国を代表する高級グラントゥリズモであったこと、しかもル・マンなどの長距離レースでしのぎを削っていたことからも、お互いライバル視するのは当然のことだった。
DB5が販売されていたのと同じ時期、フェラーリの主力機種は250GTE2+2だったが、この両車の比較では動力性能、シャシー性能(特にブレーキ)、そして商品クオリティにおいて、若干とはいえアストンがリードしていたというのが、当時の識者の共通見解だった。



もうひとつ忘れてならないのは、映画007シリーズ史上初の「ボンドカー」となったことである。

1964年に公開された「007ゴールドフィンガー」に、ショーン・コネリー扮する主人公、ジェームズ・ボンドの愛車(業務用のカンパニー・カー)として登場したアストンマーティンDB5サルーンは、アストンマーティン社の旧ニューポート・パグネル工場内のスペシャルコーチワーク部門にて特別に改装された文字どおりのワークスカーであった。

実は「007ゴールドフィンガー」の企画段階で、シリーズのプロデューサーであるアルバート・R・ブロッコリは当初ジャガー社に接触し、劇中で使用するEタイプの提供を依頼していたという。ところが理由は定かではないのだが、ジャガー首脳陣はこれを断ってしまったと言われている。この、今となってはもったいない決定がなければ、ジャガーEタイプが初代ボンドカーになっていたはず、とする見方もある。

裏話をもうひとつ。アストンマーティンが撮影用に製作した3台のうち1台は、当時デビュー間もないDB5が間に合わなかったために、外観がほぼ同一のDB4シリーズ5のヴァンテージをもとにしたものだった、というのである。

この作品でジェームズ・ボンドが使用したDB5には、MI6の秘密開発部門「Q」が開発した……、という設定の機関銃や可変式ナンバープレート、現在のナビシステムに相当するレーダー・システム、さらにはリアウインドウの防弾装甲、携帯発信器、煙幕/オイル散布装置、そして助手席射出シートなど、当時としては夢のような秘密兵器の数々が装備として与えられ、ファンを大いに楽しませた。加えて、このDB5は翌65年公開の「007サンダーボール作戦」でも再びボンドカーとして登板、前作同様の大活躍を見せた。

さらに、約30年の時を経てピアーズ・ブロスナンがボンドを演じた「ゴールデン・アイ(1995年)」や「トゥモロー・ネバー・ダイ(1997年)」、あるいは現行ボンド、ダニエル・クレイグ主演の「カジノ・ロワイヤル(2006年)」や「スカイフォール(2012年)」、そして現時点における最新作「スペクター(2015年)」にも、ボンドのプライベートカーとしてカメオ的に再三登場するなど、時代を超えた「ボンドカー」の象徴的存在として、現在もなお「The Most Famous Car in the World(世界一有名なクルマ)」という、栄誉ある称号で呼ばれているのである。

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