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「親の名は有利にならない」現代F1で求められる才能と運。フェルスタッペンに感じる本物さ【ベルガーインタビューその2】

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「親の名は有利にならない」現代F1で求められる才能と運。フェルスタッペンに感じる本物さ【ベルガーインタビューその2】

 DTMドイツ・ツーリングカー選手権を主催していたITRの代表を降りた後は、家業の運送業に専念し、小学校低学年である愛息のカート研鑽に帯同し、プライベートでは親友のジャン・アレジとスキーを楽しむなど、和やかな日々を送るゲルハルト・ベルガーに、現代モータースポーツのよもやま話を聞いた。

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2025年F1は4強の優勝争い、ルーキー参戦で勢力図変化を予想。ホンダの新挑戦も応援【ベルガーインタビュー】

──あなたが幼少の頃からよく知るミック・シューマッハーは、今年も残念ながらF1へのカムバックが叶いませんでした。その望みは失っていないものの、今年は数多くのルーキーが参戦したことで非常に厳しい状態です。

ゲルハルト・ベルガー(以下ベルガー):もちろん誰だってF1ドライバーでいたいし、彼がF1に戻りたい気持ちも非常に分かるが、彼はシートを失った。それもポテンシャルを見せてのシート喪失ではないだけに、カムバックすることはとても難しい。厳しく、冷酷かも知れないがそれが現実だ。もちろん彼が這い上がって、ふたたびF1でシートを得られるに越したことはない。

──ミックはF1復帰の望みを捨てず、次のF1レギュラーシート獲得までWEC世界耐久選手権に参戦するアルピーヌのドライバーとしてハイパーカーを駆り活躍しています。

ベルガー:ミックがF1のシートを得たときには、ハイパーカーやそれ以外のカテゴリーには一切の興味もなかったし、F1のシートを失うまでハイパーカーをドライブするなんて微塵も思っていなかっただろう。だが、そのハイパーカーのシートの存在がどれだけ重要なことなのか理解しているはずだ。

──2026年はキャデラックの参入でシートがふたつ増えるとはいえ、F1のシート数は限られています。速いのは当たり前で、それ以上のものが求められる世界ですね。

ベルガー:F1のシートを争うレベルのドライバーは、速いことは当たり前であり、ドライバーのポテンシャル差は非常に僅差だ。そこに控えているドライバーだって同じこと。高い才能に加え、タイミング、誰とどこで出会うのか……。わずかな運を味方につけることさえ、F1ドライバーやトップドライバーになるための才能のひとつだ。F1ドライバーになることができる確率は限りなく低いが、チャンスはゼロではない。

 私の甥であるルーカス・アウアーだってF1ドライバーになりたかったし、私の長男のヨハンはまだ小学校低学年のカートドライバーであるが、彼の夢も当然のようにF1ドライバーだ。レーシングドライバーを目指す者の全員がそうではないだろうか。私の時もF1ドライバーになることは非常に難しかったが、今はさらに、もっともっと難しい。二世ドライバーも増えているが、親の名前などまったく有利にならない時代だ。

──あなたのご親友で、フェラーリとベネトン時代にチームメイトだったジャン・アレジの長男、ジュリアーノも二世ドライバーとして注目され、FIA F2まで上り詰めたもののチームに恵まれなかったり、お金の問題などで苦しんだようですね。

ベルガー:ジャンからはいろいろなことも相談されたし、私も長男のカートの件で相談にのってもらっている。私たち親世代はさまざまな幸運も重なってF1へ行けたが、息子世代の今はさらに難しくなっている。

 私もジャンも仕事をしているが、息子のためにFIA F2やF1へのスポンサーや持参金を用意することは、はっきり言って難しい。ジュリアーノは母クミコ(後藤久美子さん)の母国である日本へ行く道を選んだ。チャンスを与えてくれたトヨタやトムス、ファンに支えられて充実した日々を送っているとジャンからいつも聞いている。

 私の長男のときはどうなるか分からないが、私や家族がその厳しさを十分理解しているだけに、まずはカートを通して数多くのことを学び、つねに安定した速さを出せるように研鑽中だ。

──ミックは、F1では恐らく叶えることが難しいであろうワールドチャンピオンを、WECでは勝ち取れる可能性がありますね。

ベルガー:確かに。彼がその座に立つ可能性はある。WECでシリーズチャンピオンになることも非常に栄誉なことで、難しいことに違いない。しかし、F1のそれとは違う。

──昨年、私がミックにインタビューを行ったとき、あなたがいつも後輩ドライバーに強く勧める挑戦、すなわち『さまざまなカテゴリーにおいて研鑽を積み、可能な限り自分の引き出しをどんどんと増やすべきだ』という考えを伝えてみました。F1しか見ていなかったミックがハイパーカーをドライブして、その意味がよく理解でき、あなたのおっしゃっている意味が分かったと言っていました。

ベルガー:ミックは本当にF1しか見ていなかったし、その他を見ようとしていなかったからな。ある意味(アイルトン)セナもそうだったが、セナとミックでは大きく違う。セナは与えられたチャンスであったDTMやグループCをドライブしていた。

 もちろん、現代の電子制御され尽くしたF1マシンは私やセナの時代とは大きく違うし、ドライブフィーリングも異なる。だが、ドライバーとしての素質や才能、そして才能の上に、さらに努力や失敗をしながら切磋琢磨することは、今も昔も違うとは思わない。

──あなたもBMWモータースポーツディレクター時代にプロトタイプを率いてWECやル・マンに参戦していましたね。今のWECはふたたび数多くの自動車メーカーが参戦して非常に賑わいを見せていますし、今季から新たにBMWに加わったケビン・マグヌッセンのほかにも、ジェンソン・バトン、セバスチャン・ブエミ、ポール・ディ・レスタ、ロバート・クビサ、小林可夢偉、セバスチャン・ブルデーなど、元F1ドライバーも数多く参戦しています。

ベルガー:まるでF1ドライバーの老人ホームのようだな(笑)。それはさておき、F1を降りてもドライバーとしての引退を選ばず、キャリアを続けたい者には最適なクラスで彼らが活躍し続けているのは良いことだ。彼らがハイパーカーで活躍することによって、WECやル・マンをさらに盛り上げてくれていると思う。

──元F1ドライバーというビッグネームがある人にとって、ハイパーカーのシートを得ることは他のドライバーに比べて比較的容易と想像しますが、その他のドライバーにとってはハイパーカーのシートを得ることはとても難しくなりますね。

ベルガー:若く才能があってもF1のチャンスを掴むことができなかったドライバーが次に希望するのはハイパーカーだろうし、ベテラン域の優秀なドライバーも数多くいる。一方で『プロ』になりたいドライバーは毎年どんどんと上がってくるわけだから、ハイパーカーやF1まで辿り着くのは非常に困難なことに間違いない。しかし、そんな非常に厳しいシート争いのなかでも、しっかりとチャンスを掴むドライバーはいるのだから、それまでのプロセスが重要だ。

──そのWECでは、2024年から『LMGTE』に代わり、FIA-GT3マシンによる『LMGT3』クラスが新設されました。かつてあなたが代表を務めていたDTMではクラス1の継続を断念し、GT3を採用されていましたね。

ベルガー:私はクラス1のマシンをとても愛していたし、継続したかった。そしてスーパーGTとDTMの発展を強く望んでいたが、経済やさまざまな課題でクラス1の継続は不可能となり、苦渋の決断でGT3マシンを採用した。

 一方で、今ではル・マンやIMSA(ウェザーテック・スポーツカー選手権)でもGT3マシンが活躍している時代で、ほかにもGTワールドチャレンジやスパ24時間、スーパーGT GT300クラスなど、世界のGTトップドライバーが活躍できるマシンであることは誰もが承知で、DTMファンにも認められていると思っている。GT3マシンは、GTカテゴリのトップクラスとして世界のレースでスタンダードになっている今、DTMにGT3を採用したことの後悔はまったくしていない。

──GT3マシンといえば、F1ドライバーのマックス・フェルスタッペンはGT3のチームを持ち、オーナー業だけに留まらず、自身でも精力的にGT3マシンを走り込み理解に努めているようですね。ドライバーによってはGT3をかなり格下に見ている人もいますが、フェルスタッペンはまったくそうではないようです。『Verstappen.com Racing』に所属しているドライバーによると、フェルスタッペンはスケジュールの許す限りテストに帯同し、自身でもGT3マシンのステアリングを握り、所属ドライバーの弱点克服やスキルアップへのアドバイスをしてくれるそうです。

ベルガー:彼は稀代の『本物のレーサー』だ。寝ても覚めてもレースのことを考えているような、彼のような逸材は近年では唯一無二の存在だ。だから、フェルスタッペンがプライベートの時間にGT3マシンで走り込むのは、彼だからだと納得する。

 チームオーナーとして利益と成功だけを追求するのなら、ある意味で資本さえあれば何とかなる。しかしフェルスタッペンの場合は、ひとりのレーシングドライバーとして、マシンの性能をとことん理解したいのだろう。本当に彼は本物だ。

[オートスポーツweb 2025年03月22日]

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みんなのコメント

2件
  • tsu********
    「まるでF1ドライバーの老人ホームのようだな(笑)。」

    ベルガー(笑)。。。
  • mas********
    本物が語ってくれるとタッペンのこと益々ファンになりますね
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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