日産アリア、リーフとは段違いに重要
text:Kenji Momota(桃田健史)
【画像】クーペ調のSUV 新EV「アリア」の内外装【ディテール】 全42枚
一般の方に対して、日産の思いがどれだけ届いているのだろうか?
今年(2020年)に発売予定の新型EV「アリア」は「たんなるEV」ではない。
はっきり言えば、「リーフ」とは比べ物にならないくらい、日産にとって極めて重要なモデルである。
第46回東京モーターショー(一般公開2019年10月24日から11月4日)でワールドプレミアされた、アリア・コンセプト。
公開されたスペックは、ボディサイズが全長4600mm×全幅1920mm×全高1630mm。
動力系は、車体の前後それぞれに1基の高出力電動モーターを搭載する、ツインモーター四輪制御システムを搭載する。
「GT-R」搭載のATTESA E-TSや、「エクストレイル」搭載のインテリジェント4×4による知見から開発した、と日産は説明した。
モーターショーと並行して、日産の実験施設「グランドライブ」(神奈川県横須賀市)で行われた先進技術説明会には、新規EVシステムを搭載したリーフベースの実験車両がメディアに公開された。
EM57と呼ぶモーターを2基搭載。最大出力227kw、最大トルク680Nmは、リーフのベースモデルの約2倍に当たる。
その走りは、ワインディング路やウエット路面でもとても安定していた。
2020年に入り、このツインモーターシステムは「e-4ORCE(イー・フォース)」と命名された。
こうした流れを見ると、アリアにはe-4ORCE搭載が確実な情勢だ。
経営面、日産は厳しい状況にある
一方、経営面では、日産は厳しい状況にある。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響だけではなく、企業として本質的な課題を抱えている。
直近では、2020年2月に開いた、第3四半期の決算発表で、内田誠CEOはゴーン体質の日産を企業文化を含めて根本から改革することを宣言した。
世界各市場における事業の「選択と集中」を進めるとも言った。
そうした中で、新技術を搭載する日産インテリジェントモビリティは、日産が着実に成長するための「将来を左右する事業改革の柱」だと強調した。
日産インテリジェントモビリティとは、
・電動化
・自動運転技術
・コネクティビティ
など新技術を高い次元で連動させる次世代車を指す。
その筆頭が、アリアである。
「これまでにない魅力ある走りを体験できる新型の電気自動車(アリア)を今年、(世界市場の中でまず)日本から投入からする」と内田CEOは言い切っている。
2月時点では、新型コロナウイルス拡大の影響は中国が主体だったが、3月以降は欧州、アメリカ、そして日本での感染拡大が広がり、他メーカー同様に日産の経営を圧迫している。
結果的に、日産にとってアリアの重要性はさらに大きくなったと言える。
こうしてアリアが登場できる背景には、当然、リーフの功績がある。
リーフ、歩んできた進化と電池対応
リーフが誕生したのは、いま(2020年)から10年前の2010年。
同じ頃、三菱自動車は「i-MiEV」を発売した。
この2モデルが、日本に限らず世界を含めて大手自動車メーカーが始めて大量生産したEVである。
EVの歴史は長く、古くはガソリン車が普及していなかった1900年代初頭、米ニューヨークでは数多くのEVタクシーが走っていた。
それから約100年間、何度かEVブームが来たが、ガソリン車と同等に利活用するための技術的なハードルを超えることができなかった。
リーフとi-MiEVが、それまでの少量生産EVと大きく違ったのは、駆動用の蓄電池を自社資本で賄うことだった。
EVの技術的なハードルとは、電池のコスト、航続距離、充電インフラと言われるが、どれも電池の性能に直結する。
日産の場合、リーフに対応するため、材料技術を持つNECトーキン等とリチウムイオン二次電池を専門に企画/製造するオートモーティブエナジーサプライ(AESC)を、日産座間工場内に設立した。
AESCによってEV向け電池の性能は安定的に向上し、量産効果によって価格も下がっていった。
ただ、2010年代中盤以降、中国でのEV向け電池生産が一気に増え、中国向けでは日産は中国製電池を購入することになった。
こうした流れと並行するかのように2019年4月、AESCは中国の環境関連企業のエンビジョンに売却された……。
アリア、日産EV戦略第2世代の大黒柱
リーフ誕生の後、2014年にはテスラ「モデルS」そして「X」、BMW「i3」など欧米メーカーがEVに本格参入。
これを受けてリーフは電池容量を拡大。さらに、2017年には第2世代となり電池容量はさらに大きくなった。
過去10年間で、リーフはEVとして段階的に熟成されていった。
そして迎えた2020年、アリアが登場する。
前述のように四輪制御システム「e-4ORCE」が実装できるのも、リーフで培われたEV技術の基盤があるからだ。
そのうえで、自動運転技術を活用した高度運転支援システム・プロパイロット2.0や、20年代半ばには本格普及が予想される第五世代通信5Gを念頭にしたコネクティビティ技術が搭載される。
日産関係者が言うように、アリアは人とクルマの関係を変える礎になるのかもしれない。アリアはリーフ後継でも、リーフの兄貴分でもない。
日産EV戦略第2世代の大黒柱である。
一見、無機質なイメージがあるアリアだが、そこには人とクルマ、クルマと社会、さらに人と社会との関係が大きく変わる可能性を秘めているように思える。
日本の自動車各メディアでは、2020年夏頃登場と予測しているアリア。
その動向を今後もしっかりとフォローしていきたい。
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