昨年2022年12月、欧州トヨタから、英国政府支援で燃料電池(FC)の試作車を製造することが発表された。なんとベース車は、「ハイラックス」だという。
本稿では、ハイラックスFC試作車がどのような経緯で決まったか、解説していく。また、欧州のカーボンニュートラル政策に一石を投じるのか、考察していく。
水素ハイラックス発進!! 欧州はEVだけでどこまでいく? 英国政府とトヨタが見るヴィジョンとは
文/鈴木直也、写真/TOYOTA、Adobe Stock
■英国政府支援でハイラックスをFCに!? どのような経緯で決まったのか?
欧州トヨタは、英国政府支援で「ハイラックス」燃料電池(FC)試作車の開発を開始した
地味なネタだけれど、欧州トヨタから燃料電池(FC)を搭載したハイラックスの試作車開発が始まったというニュースが届いた。
具体的には、英国トヨタ製造が先進推進センター (APC) を通じて英国政府からゼロ エミッション車開発のための資金提供を受け、水素燃料電池を動力源とするプロトタイプのトヨタ ハイラックスを開発するというもの。
要するに、英国政府のカーボンニュートラル政策の一環として、トヨタが水素燃料社の開発に協力するという建てつけだ。
このニュース、地味だけれどなかなか興味深い。大手新聞の報道などを見ていると、EUと英国政府は2035年までに内燃機関禁止を打ち出していて、基本的にはバッテリーEV(BEV)イチ押しで強行突破する構え、そんなイメージが強い。
しかし、昨今のエネルギー価格上昇やバッテリー関連の資材高騰を鑑みると、その計画がシナリオどおりに進む可能性はかなり低下したといえる。
2022年12月、100万円以上値上げを発表した日産リーフ(車体価格:408万1000円~)
日本ではつい最近リーフの60kWhバージョンが100万円オーバーの値上げをして話題になっているが、これは日本だけの問題ではなく、北米ではフォードF150ライトニングが発売半年で220万円、ベストセラーのテスラ・モデル3がこの3年で180万円も値上がりしている。
これはインフレの影響もあるがリチウムやニッケルなどの資源価格の高騰が大きく響いていて、メーカーのコスト削減努力だけではどうしようもないのが実情。しかも、そのバッテリー材料の多くを中国に依存しているわけで、エネルギー安全保障上のリスクも無視できない。
ウクライナ戦争を受けて、CO2削減を最優先していたヨーロッパでも権威主義国家に資源とエネルギーを依存するリスクに目覚めた。そういう水面下での葛藤が小さな泡となって浮かび上がってきたのが、今回の英国政府支援によるFCV開発につながっているように見える。
もちろん、トヨタとしてもBEVの牙城ともいえるヨーロッパで、政府の関与する水素エネルギー開発に協力するのはメリットがある。
■ヨーロッパにおけるエネルギー政策における問題とは?
バッテリーEVを推進しつづける欧州のエネルギー対策はどうなっていくのか(写真:New Africa – stock.adobe.comr)
ヨーロッパにおけるエネルギー政策は、ある種のイデオロギー対決みたいな様相を呈している。CO2を排出するものはとにかくすべてが悪で、化石燃料はもってのほか。
水素にもグリーン水素とブルー水素があり、Eフューエル(合成炭化水素燃料)にも精製時のCO2排出量が考慮されるなど、経済的な合理性を犠牲にしても、CO2削減を優先すべきと考える人が少なくない。
こういうイデオロギーに凝り固まった人には、「CO2削減は適材適所。BEVがすべてに万能ではなく、地域や使い方によってベストソリューションはさまざま」と説明しても、すべて「CO2削減に後ろ向き」扱いされてしまう。これが、環境リベラル派にトヨタの評判があまりよろしくない原因だ。
しかし、現実問題としてBEV価格がどんどん上昇してしまえばCO2削減も遠のくわけで、そういう状況の中で、BEVを補完できるほどクリーンでしかも実用性の高い自動車用エネルギーといえば、こりゃもうFCVしかないというのが現実。
じっさい、ヨーロッパでもトヨタ・ミライやヒョンデ・ネッソなど少ないながらFCVは市販されているし、EU主導で主要高速道路150kmごとの水素ステーション設置を目指す計画も進行しているわけで、いくらガチガチのBEV派としても、それは認めざるを得ないところがある。
英国政府としては、ここでトヨタと組んでまずは実績を積み、BEVと同レベルにクリーンなゼロエミッション車が存在することを実証しておく。それがこのプロジェクトの目的といっていいのではないだろうか。
■トヨタの強みを発揮!! なぜハイラックスをFCのベース車にしたのか?
今回、FCの試作車のベースとなったのがトヨタハイラックスである。2017年、13年ぶりに日本市場に導入された
ハイラックスがベースとなっているのは、研究開発用のプロトタイプから少量生産へ発展させるうえで、セダンやSUVより低コストで使い勝手がいいから。
配布されたオフィシャル写真を見ると、ボンネット内にFCスタック、パワーコントローラ、駆動モーターを集中して納め、スペースを食う高圧水素タンクは車体中央の荷台下に3本を配置、客室後部にエネルギー回生用の電池を置くというパッケージレイアウト。
ちょっと興味深いのは、リアにe-アクスルらしきものが装備されていて、どうやらFFベースの4WDという構想らしい。
こうして見ると、FC関連の部品については、ミライやbZ4Xなどすでに量産されているトヨタ車からの流用で行けそうで、それが「最初のプロトタイプ車は 2023年中にバーナストンの TMUK サイトで生産される予定です」というスピード感ある開発スケジュールを可能にしているわけだ。
トヨタの燃料電池スタック(FCスタック)は、本社工場敷地内に建設した専用建屋で生産されている。工場というと巨大な平屋をイメージするが、このFC専用棟は8階建て延べ床面積は約7万m2のビルディング。外観もまるでオフィスビルのようで、クルマの心臓部を生産する工場というイメージとはだいぶ違う。
ここにはFCスタック関連の研究施設も同居していて、まさにトヨタの水素戦略にとってのヘッドクォーター。トヨタはこの施設への総投資額は明らかにしていないが、巨額の開発費が投じられていることは間違いない。水素戦略にトヨタがいかに「本気」であるか。それを象徴するシンボルと言っていい。
燃料電池車であるトヨタ現行型MIRAI。トヨタ本社にあるFC専用建屋で開発された燃料電池スタック(FCスタック)が搭載されている
そこで開発されたFCスタックは、まず新型ミライに搭載されて世に出たわけだが、現状では乗用車タイプのFCVだけでは巨額の投資に見合うほどの需要がない。そこで、さまざまな業種とコラボレーションして、水素エネルギーの輪を広げてゆこうというのがトヨタの戦略だ。
ミライを手始めに、燃料電池バスのSORA、FCトラックをセブンイレブンの配送に使う実証実験、日野の大型トラックへの応用、中国メーカーとの共同研、JR東日本や日立製作所と共同開発したFC鉄道車両など、これまでさまざまなFCプロジェクトが実施されてきた。
そんな一連のトヨタFCファミリーに、今回は英国政府肝いりでハイラックスFCVが加わったということ。こういう粘り強い普及活動を持続できるのが、やはりトヨタの強み。それを改めて感じさせてくれるニュースでございました。
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みんなのコメント
それまでにBEVが何処まで進化するのかに掛かってる
どんな過疎地にも電気が来てる世界中でBEVの便利さが逆に際立って来てる
その辺り水素は精製から補給まで一貫した整備にはもっと時間が掛かるし
じゃなきゃ単に値上げする為の言い訳になっちゃうよ。