ワークスマシンの外観だが年式相応の劣化もある
2025年9月に英国グッドウッドで開催された「リバイバル2025」の公式オークションに、ランチア「デルタHFインテグラーレ16V」が出品されました。1989年の登場以来、WRC6連覇を支えた名車として知られるモデルです。今回の個体はワンオーナーで整備履歴も明確な個体でした。エヴォモデルが高騰するなか、16Vの市場価格がどう動くか注目を集めています。
魔改造ランチア「デルタHFインテグラーレ16V」が約1070万円で落札!名門チューニングアイテムの価値は!?
ファミリーハッチバックから史上最強のラリーウェポンへ
1979年に登場し、1980年には「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたランチアデルタは、ジウジアーロ・スタイルのファミリーハッチバックであった。ところがデルタは、その後一足飛びに史上もっとも称賛されたラリーカーのひとつへと進化を遂げたのである。
デルタHFインテグラーレは、ターボチャージャーつきエンジンを搭載した4輪駆動「ホットハッチ」の開祖的存在である。最大の目的であったWRC(世界ラリー選手権)では、グループA時代初年度の1987年シーズンから1992年シーズンにかけて計46勝を挙げた。これにより、6年連続のコンストラクターズタイトルを獲得した。この実績は、ユハ・カンクネンとミキ・ビアシオンにドライバーズチャンピオンシップタイトルをもたらし、ランチアのモータースポーツ史における地位を決定的なものとした。
16V化に伴いタービンや燃料系をアップデート
デルタHFインテグラーレとしては初の改良版となったHFインテグラーレ16Vは、1989年ジュネーヴ・モーターショーで発表された。同年、WRC最終戦にあたる「サンレモ・ラリー」に実戦投入され、順当なデビューウィンを獲得した。
ファーストモデルである通称「8V」から発展したターボチャージャー付き2L直4 16バルブエンジンを搭載し、15psアップに相当する200psをマークした。0-100km/h加速は5.7秒、最高速度は220km/hに達する。これは現代のホットハッチにも劣らない速さである。
前年の8Vからの技術的改良点としては、燃料インジェクターの大容量化やギャレットT3ターボチャージャーのアップデートが施された。前後トルク配分は8V時代の前後50%ずつから、フロント47%:リア53%へと変更されている。またインタークーラーの強化に加え、無鉛ガソリンにも対応することになった。
ヘッドが大型化したエンジンを収容するため、ボンネットは隆起している。よりワイドなホイールとタイヤが組み合わされている一方で、車名を記すエンブレム類の変更は最小限に抑えられた。いかにも名門ランチアらしい上品な仕立てである。このHFインテグラーレ16Vは、デルタの系譜において最も魅力的な進化形のひとつとする見方もある。
完全ワンオーナーの16Vがリザーブなしで出品
ボナムズのオークションに出品されたランチア デルタHFインテグラーレ16Vは、シャシーNo. ZLA831AB000491725を持つ個体だ。デビューイヤーの1989年内に生産された、16Vとしては比較的初期の個体である。モータースポーツの伝統に敬意を表し、「マルティーニ(Martini)」にインスピレーションを得たカラーリングが施されており、WRCレプリカ仕様となっている。
ボナムズ社の公式WEBカタログ作成時点で、オドメーターに刻まれていた走行距離は7万7218kmである。年式を考慮すれば、かなり少ない走行距離だ。新車時から現在に至るまで唯一のオーナーである今回の出品者は
「2024年8月に大規模なメンテナンスサービスを受け、広範囲で新品パーツが交換された」
と申告している。
公式カタログでは
「ラリー史におけるマイルストーンであると同時に、『ラリーカーのカラーリングで乗り出せる』というドライバーの夢でもあります。なかでもこの保存状態の良好な、完全ワンオーナーのランチアは、次のオーナーがすぐに楽しめる状態になっています」
とPRされた。
さらに、4万ポンド~5万ポンド(邦貨換算約800万円~1000万円)というエスティメート(推定落札価格)が設定された。「エヴォ」以外のデルタHFとしては、かなり強気な価格設定であったといえる。このロットは「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で競売を行うこととされた。
予想価格を大幅に下まわった金額で落札
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、入札価格の多寡を問わず確実に落札されるため、競売会場の購買意欲が盛り上がり、エスティメートを超える勢いで入札が進むメリットがある。しかし、売り主の意にそぐわない安値であっても落札されてしまうという、出品者サイドからすれば不可避的なデメリットも伴う。
オークション当日、グッドウッドの特設会場で開催された競売では、リザーヴなしのデメリットが露呈するかたちとなった。落札価格は2万700英ポンド、現在の為替レートで日本円に換算すれば約411万円というリーズナブルな価格に留まった。
たしかに外観は正しい16V仕様のマルティーニ・リバリーに仕立てられているが、好みが分かれる要素ともなり得る。メカニカルコンディションには自信があったようだが、エンジンのカムカバーなどのシュリンクペイントは盛大に剥げている。
シートも、アルカンターラ部分に毛玉やほつれは見られないものの、「ミッソーニ(Missoni)」社製の座面とシートバックには色落ちが見られるなど、年式相応の「ヤレ」があるのも事実である。上記の点を考慮すれば、このハンマープライスは至極適切なものであったと判断できる。
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