レザーシートもタイヤもオリジナル
シェルビー・「リンダウアー」・コブラ 289 MkIIのドアを開く。ステアリングホイールは3スポークでカッコいい。古びたレザーシートが、趣きある風合いを漂わせる。
【画像】走行2万4890km シェルビー・コブラ 289 MkII ACエース 復刻/最新版のコブラたち 全114枚
ダッシュボードには、文字盤が黄ばんだスチュワート・ワーナー社製のメーター。運転する筆者にはうれしくないが、グッドイヤーのタイヤもオリジナルだという。それが1964年製なのか2010年製なのか、刻印で確かめるのは忘れてしまったが。
スターターを回すと、4バレルのホーリーキャブレターが載ったスモールブロック・エンジンは難なく始動。2017年のオークション以来、走行距離は殆ど伸びていない。今回の取材が、最も長く走らせることになるそうだ。
タペットが、メカニカルなノイズを放つ。バンクからバンクへ、爆発が次々に推移する様子がわかる。右足を軽く傾けると、即座にクロスプレーン・クランクらしい轟音。ボディが軽く震える。
頼もしくトルクフルな4.7L V8エンジン
新しくないタイヤを考え、優しく発進して様子を探る。クラッチペダルは重い。交差点を曲がると、リミテッドスリップ・デフがロックしガタガタとリアアクスルが鳴る。MkIIだから、リジッドにリーフスプリングの組み合わせだ。
ステアリングラックは、現代的なラック&ピニオン式。シャシー剛性は高いが、タイヤがアスファルトの穴へ落ちると、クラシックカーらしくボディは揺れる。グレートブリテン島の傷んだ路面では、しなやかなコイルスプリングが欲しくなるだろう。
とはいえ、このコブラ 289 MkIIで気になる点はその程度。シフトレバーの動きは、唸るほど正確で短い。変速時にギアの回転数を調整するシンクロも、しっかり機能する。
補機ベルトやウォーターポンプまで当時のままだという4.7L V8エンジンは、頼もしくトルクフル。タイトなカーブを除いて、3速以下を選ぶ必要性は低い。ロケットダッシュがご希望なら、積極的なギアの選択もいとわない。
ACエースが秘めた俊敏性は失わず
最高出力は274ps。現代の水準では驚く数字ではないものの、車重は953kgと軽い。現役時代は、0-100km/h加速を5.5秒で処理した。最高速度は、同時期のジャガーEタイプやイタリア製スポーツに届かなかったとしても。
1965年のAUTOCARは、0-400mタイムを計測し、13.9秒を記録した。「殆どの道で問題になるのは、対向車の隙間を縫って追い越すことではありません。自分の速さを把握して、再び車線へ戻ることです」。と動力性能の高さへ触れてもいる。
パワー感は、一般道で理想的。免許が剥奪されない範囲で、存分に振り回せる。古いタイヤの影響か、ヘアピンではテールが簡単に流れ出すが、挙動は予想しやすい。前後の重量配分は48.7:51.3と、FRの2シーターとしては偉業と呼べるバランスにある。
ポルシェ911と違い、リアにカウンターウエイトは載っていない。穏やかなパワー・オーバーステアを楽しめる。ベースのACエースが秘めた、俊敏な個性を失っていない。
シェルビーの工場を旅立った姿がそのまま
後期のコブラは、遥かに獰猛だった。多くのレプリカも。リンダウアー・コブラは、洗練度は高くなくても、繊細で手懐けやすい。ACカーズの優れたシャシー能力を発揮できる、フォード由来のV8エンジンを獲得した、英米の合作スポーツカーだ。
度を過ぎたレストアを受けていたり、長期間保管されてきただけのクラシックカーを、ミュージアム・ピースと呼ぶことがある。やや軽蔑的に。しかし、オリジナル度の高いこのコブラ 289 MkIIは、博物館に飾られていてもまったく異なる。
シェルビーの工場を旅立った当時の姿が、まさに、そのまま残されている。ロバート・リンダウアー氏が嗜んだであろう運転体験を、半世紀以上の時を経て確かめさせていただいた。エアコンの効いたガレージへ移した彼へ、心から感謝したい。
協力:ナショナル・オートミュージアム、ザ・ロー・コレクション
シェルビー・コブラ 289 MkII(1962~1964年/北米仕様)のスペック
英国価格:5195ドル(新車時)/120万ポンド(約2億3760万円/現在)以下
生産数:654台
全長:3912mm
全幅:1549mm
全高:1143mm
最高速度:217km/h
0-97km/h加速:5.6秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:953kg
パワートレイン:V型8気筒4735cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:274ps/5800rpm
最大トルク:37.1kg-m/4800rpm
ギアボックス:4速マニュアル/後輪駆動
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