絵の具の特性を生かした作品に仕上げる／柏崎義明さんの好きな作品・代表作

絵の具の特性を生かした作品に仕上げる

バイクを題材とした作品を手がけるイラストレーターの柏崎義明さん。最近は、アクリル絵の具から油絵の具まで、それぞれの絵の具の特性を研究しながら、手描きにこだわった作品を発表しています。柏崎さんのもうひとつのライフワーク、「3Dで恐竜を描く」取り組みは、動画配信に発展中です。

ボクは、バイクの佇まい、金属類の質感、エンジンの造形などを描き分けるのが好きです。今回ご紹介する作品は、第11回AAF作品展で展示した2作品です。筑波サーキットで取材・撮影した画像をもとに制作しました。旧車レーサーは余分な装備を外してある車体が多く、それぞれのパーツの造形が剝き出しになっています。エンジンや足回りなど、「金属の塊感」をどう表現するかがテーマです。

作品（1）『MOTOBI RACER』は、デジタルとアナログの併用技法で仕上げた作品です。デジタルで下絵を描き、Photoshopで着色して、デジタルプリントでA1キャンバスに印刷。その上からアクリル絵の具と油絵の具で描き込みをしています。

MOTOBIで使ったデジタル＋アナログの併用技法は、９年前の作品展用に2点仕上げたことが始まりです。このときの経験がきっかけで手描きの面白さが再認識でき、その後、手描きのみの作品作りに移行しました。

今回、デジタル＋アナログの併用技法に再トライしたのは、偶然見かけた記事で油絵の具の彩度や色の深みに興味をひかれ、油絵の具を試してみたかったからです。近ごろ、リキテックス（アクリル絵の具）の独特の色味に少し違和感を持ち、絵の具の力が感じられないと思っていたため、油彩の力を試してみたくなりました。

新たに油絵の具、筆、溶き油も購入しました。使ってみると、乾きが早いリキテックスでは苦労する筆タッチによるボカシ表現が、油絵の具は乾きが遅いので簡単にできる。油なので絵の具の伸びも段違いにいいのです。油絵の具の不便さは、乾きが遅いため作品の上に手を置いて描けない、油彩独特の匂いなどありますが、のんびり描くスタイルに合っている気がします。今回、油彩を試したので、次は油の頻度を上げて描きたいです。

完成までの2カ月以上、油絵の具の匂いの中でキャンバスに向かいながら、すべて油彩で描いていた高校生のころを思い出しました。自分でも意外でしたが、体の感覚が覚えていたんですね。

作品（2）の『HONDA CB72 RACER』は、すべて手描き（アナログ）です。木製パネルにアルシュ紙を水張りして、ジェッソ（下地剤）で荒い下地を作り、アクリル絵の具で描きました。アクリル絵の具は乾きが早いのが利点ですが、この作品は、筆ボカシの手法を多用するため、あえて乾きを遅くするメディウム（溶剤）を使用しました。

2年前にP25号キャンバス（803×606mm）にアクリル絵の具で手描き作品を仕上げたので、今回も簡単だろうとたかをくくっていたら大苦戦しました。ふだんはデジタルで3D作品を作っているので、「手描きのスタミナ」が落ちていました。絵の具を出し、皿に溶いて、色を合わせて描き出すという一連のリズムがつかめない。手順がしっくりくるまで時間がかかりました。

細部を描くのも苦労しました。下地を堅牢に作りすぎたせいで、下絵の線がかすれてどの線がつながっているのか分からない。

さまざまな点で苦労しましたが、自分が意図していない効果が、筆のタッチで表現できたときは無上の喜びを感じました。完成まで3カ月近くかかりましたが、やっぱり手描きは達成感がけた違いに楽しいです。だから続けられるのだと思います。

YouTubeで恐竜関係のチャンネルを開設して３年が経ちました。2024年8月にようやくチャンネル登録者1000人を達成しました。「登録者数1000人」は開設時からの目標でしたが、世界中でYouTuberは1億2000万人いて、登録者数1000人以上の達成者は9%以下という高い壁。登録数はそう簡単には増えず、けっこうたいへん！

絶えず新しい話題を考え、次から次に動画をアップしました。視聴者の反応がダイレクトにわかるので楽しい半面、息切れしたこともありました。でも根気よく続けると何とかなるものですね。

いまは、地方の博物館に行って、取材動画を上げる企画を進行中です。日本中に恐竜や古生物の博物館があり、趣味の車中泊を兼ねて長野や群馬に出かけています。あまり視聴回数には繋がりませんが、楽しいので続けていきます。

かしわざきよしあき／兵庫県出身。雑誌の表紙や企業のカタログ、 広告などを手がける。近年はプラモデルパッケージのイラストのほか、科学雑誌や図鑑で恐竜の生体復元（3D）を制作中。『恐竜えほん』シリーズ『ティラノサウルス』『スピノサウルス』『トリケラトプス』も好評(３冊とも金の星社)。AAF(オートモビル・アート連盟)会員。川崎市在住

インタビュー／山内トモコ