自動運転にまつわる連載企画、第6回となる本編は、「自動運転はなんのためにあるのか」ということを考え直す企画です。いよいよ「レベル3」の自動運転技術が公道で走り始めましたが、この技術が広まるとどのような課題がどうやって解決するのでしょうか? あらためて考えてみます。
文/西村直人 写真/AdobeStock、国土交通省、奥隅圭之
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自動運転技術での「日本」の現在地 【自律自動運転の未来 第1回】
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■自動運転技術の第一の目的は「事故削減」
過去数回にわたり自動化レベル3技術を含む「Honda SENSING Elite」を搭載した「レジェンド」を採り上げました。最先端技術の紹介はいったんここで中断し、今回はこれまで実用化されてきた先進安全技術や、自動運転技術がどのように誕生し、そして日本の課題に対応しているのか、現実的な側面を捉えます。
2021年3月5日に発売された新型レジェンド(マイナーチェンジ)に、「ホンダセンシングエリート」というレベル3技術が搭載された。公道走行可能なレベル3技術(事故が起こった場合はドライバーではなくシステム側の責任になる)量産搭載車が発売されたのは世界初
手段が目的化することは各方面で見られる現象です。これを先進安全技術や自動運転技術の分野で考えてみると、いわゆる「ステアリングから手を放すこと」にはじまり、「運転操作からドライバーを解放すること」にあったように思います。
しかし、これら二つの技術には確固たる目的があります。
「事故を減らし、誰もが快適な移動の自由を得ること」です。
日本にはかつて交通戦争と呼ばれた時期がありました。1960年代に入ると年間の交通事故による死者数が1万人を越え、1970年には最多の16,765人を記録。この戦争に終止符を打ち死者数を減らすため、1980年代に入り電子デバイスを用いた先進安全技術の実用化が始まりました。
1991年からは、先進安全自動車(ASV/Advanced Safety Vehicle)がスタート。ここでは新たな車両制御技術を元にした、そもそも危険な領域に近づかないクルマづくりの研究開発が活発化します。ASVは5年を1期として数え、2020年度末をもって第6期であるASV6が終了、2021年度からはASV7へと続くものと思われます。
■日本では国策として自動運転を推進
ASVを主導してきたのは旧運輸省(現国土交通省)であり、いわゆる国策です。「ABS」や「HIDヘッドライト」、さらには「衝突被害軽減ブレーキ」などは、過去、ASVによって広められ、実用化に至っています。
乗用車だけでなく、大型トラックやバスなどの商用車、二輪車などASVの守備範囲は公道を走る乗り物の大部分に及びます。また、各国各地域の国際基準とも調和して、ガラパゴス化ではない真のグローバル戦略が採られてきました。
そして、このASVが掲げた安全の哲学は2014年度よりスタートした内閣府SIP(戦略的創造イノベーションプログラム)「自動走行システム」にも受け継がれています。
SIP自動走行システムは、自動運転社会の構築に向けた旗振り役となり、社会的受容性の向上に注力。発展させるべき分野を「協調領域」と「競争領域」に切り分け、無駄をなくし、効率良く開発を進めてきました。
具体的には、自動運転車両の走行に不可欠な高精度情報のひとつ「ダイナミックマップ」を協調領域として、自動車メーカー各社での技術開発は競争領域として、意見のとりまとめや法整備の面から実用化の後押しを行なってきました。
自動運転領域に関しては、競い合うところは競い合い、協調するところは協調して技術が進歩してきている
高精度地図である「HDマップ」は自動運転車両の羅針盤となり自動走行を支え、先進安全技術の分野では、例えば車線中央維持機能などの精度を高めます。
また、社会インフラ整備を促進する「3次元点群データ」には道路区域と民有地の境界、車道と歩道の境界などが含まれ、災害時には避難経路の構築にも使われます。
■自動運転で超高齢社会をより過ごしやすくする
現在、日本が抱える課題のひとつに、高齢化社会、その先の超高齢社会があります。
この課題に対し、先進安全技術や自動運転技術がどんな貢献ができるのでしょうか? 高齢者(65歳以上)や後期高齢者(75歳以上)のドライバーが運転する車両が第一当事者となる交通事故を例に考えます。
公益財団法人・交通事故総合分析センター発表の「年齢層別・当事者別死亡事故件数(第1当事者)2018年」によると、25~64歳までの死亡事故件数は二輪/原付/自動車の3つ合わせて1816件。この1816件を運転免許証保有数(25~64歳まで)で割ると0.3件です。
これが65~69歳になると同じく3つ合わせて251件で0.3件/件、70~74歳になると同249件で0.4件、75~79歳になると同208件で0.6件と推移します。
75歳以上の後期高齢者となると、運転免許証保有者あたりの事故件数は25~64歳の2倍(0.6)となりますが、件数そのものは40~44歳の約81%、45~49歳の約77%、50~54歳の約75%といずれも低い傾向です。「高齢ドライバー=事故が多い」というイメージがありますが、統計上はこのように表われます。
また、運転免許証の保有率からみると、日本の高齢化が一層浮き彫りになります。75歳以上が5,638,309人で全保有者の約6.8%であるのに対して、40~44歳が8,524,016人で約10%、45~49歳が9,147,989人(最多保有者層)で約11%、50~54歳が7,842,227人で約9.5%です。
国土交通省自動車局が警察庁資料をもとに作製したグラフ。高齢者が「第1当事者」となった事故の割合は増加傾向にある。ただしそれは「高齢者の免許保有数の割合」や「全体の割合との比較」も見る必要がある(クリックで拡大)
そして、団塊ジュニア世代と重なる45~49歳の層(筆者はまさにココ)が高齢者となる際には、現在よりも保有者数だけでなく、クルマ好きが多い世代であることから、保有率も高止まりの傾向が続くと予想できます。
改めて数字はタテ・ヨコ・ナナメから読み込まないと真実は見えてこないと思う一方で、65歳以上の高齢ドライバーに対しては、国が中心となって行なっているサポカー(セーフティ・サポートカー)制度が事故数低減につながっていることが推察できます。
■踏み間違い事故にも自動運転技術で
サポカー制度は「サポカー補助金」がその財源(総予算は約 1,127 億円)です。サポカー補助金は一定の条件を満たした場合、衝突被害軽減ブレーキなどをはじめとした先進安全技術を搭載した車両購入時に補助金(現在は最大10万円)が支給(申請者へ振り込み)されます。
なお、使用者名義の変更は認められず、購入した新車は1年間使用することが義務づけられ、1年未満の手放し(使用者変更など)の場合は、補助金は返納することが定められています。
また、2021年11月以降、日本で発売される新型車には衝突被害軽減ブレーキの義務化が適応されます(継続生産車は2025年12月~)。まずは国産車から義務化され、2024年7月1日からは輸入車にもその適応範囲が拡げられます(輸入車の継続生産車は2026年7月~)。
アクセルとブレーキのペダル踏み間違い……。これが引き金となる事故の削減も喫緊の課題です。統計上は、75歳以上で踏み間違いによる事故件数が増えていますが、昨今では駐車場やその付近でもっとも多く発生していることがわかってきました。
走行速度が遅く、頻繁なシフトレバー操作が重なり、目視による安全確認のため上半身を捻転させるなど、油断/不注意/不安定な姿勢が重なって踏み間違い事故が誘発されています。
こうした実状に対し、先進安全技術の分野では超音波ソナーや光学式カメラを使い、自車前方や後方に認識できる物体がある場合はアクセル操作をキャンセル、もしくはペダルを全開にしたとしても微速に留め、場合によってはブレーキ制御を用いて事故を抑制します。
意図しない加速を抑制することから、これらの先進安全技術は「加速抑制システム」などと呼ばれます。同システムの効果は高く装着率も高まっているものの、車載センサーが対象を認識していることが作動の第一条件であり、何もない場合には稼働しません。ここが一番の課題でした。
「アクセル見守り隊」は、後付けの踏み間違い防止装置のひとつ。停車中または徐行(10km/h以下での前進・後退)中にアクセルペダルが急激に踏み込まれた際、急発進を防止(クリープ現象により車両はゆっくり前進または後退)
そこでトヨタでは、新車に対する「プラスサポート」、販売済み車に対しては「踏み間違い加速抑制システムII」として、自車前方や後方に何もない場合でも稼働する新たな技術を開発し2020年7月から実装しています。
これまでのシステムでは作動しなかった対象物が直近にない場合であっても、過去の走行データをもとにした「踏み間違い推定アルゴリズム」によって不要な急アクセルを検知し、可能な限り事故を抑制します。
ここでは自動運転技術の開発で培われたビッグデータとの照合フローが効果を発揮し、ドライバーが本当に踏み間違いをしている状況を正確に判断して制御に活かしています。
■運転免許と自動運転
運転免許制度と自動運転の関係、ここはどう考えるべきでしょうか?
MT免許からAT限定免許が派生したように、「自動化レベルに応じた限定免許なるものが有効ではないか……」、そんな意見も出始め、すでに政府では、自動運転技術の普及に合わせた運転免許証のあり方が検討されています。
ソニー損害保険が2021年1月5日に発表した「2021年新成人のカーライフ意識調査」によると、2021年の新成人の運転免許保有率は51.3%で、マイカー所有率は14.4%だった。まだまだ半数以上の若者が運転技術を取得する。自動運転技術はその免許制度にも影響を与える
筆者の意見としては、1.自動化レベル3以上の車両であれば、2.制限速度の低い一般道路を、3.日の出から日没までの間だけ運転できる、そんな制度が第一段階として有効ではないかと考えています。
ただし、自動運転車両向けの免許制度が確立されたとしても、自らステアリングを握って運転操作を行なう可能性がある場合には(例/自動化レベル3のTOR)、飲酒運転や居眠り運転は絶対にNGです。
また、これから交通社会にデビューする、いうなれば自動運転社会に生きる未来のドライバーさんたちのためにも、現行の教習制度には改革が必要でしょう。
まずは、自動運転の前段にあたる先進安全技術、とりわけ普及率が高まっている衝突被害軽減ブレーキを教習項目に追加すべきと考えています。この場合、学科だけでなく、技能も含めた追加が重要です。
■自動運転技術は「確実に停まるブレーキ」ではない
衝突被害軽減ブレーキでは、最終的なシステムによるブレーキ制御の前段階に必ず危険を知らせる警報とディスプレイ表示がなされることが法規に織り込まれています。よって、その警報の意味を周知すると共に、システムから危険が知らされたら、ドライバー自身がブレーキ操作やステアリング操作で回避動作をとることが求められます。
しかし、残念ながら正しい理解が進みません。
筆者は以前、とある公安委員会からの委託を受け、指定自動車教習所で働かれている指導員の方々に向けた法定講習の講師を拝命したことがありました。
ここでは、先進安全技術と自動運転技術の普及と課題について講義を行なったのですが、多くの指導員の方々から先進安全技術の教習を行なう必要性をご意見としていただきました。
また、教習所に通われる生徒さんの多くが、衝突被害軽減ブレーキさえ備わっていればどんな状況でも確実に自動で止まってくれると思い違いをされている、そんな意見も伺いました。
先進安全技術や自動運転技術の目的は、「事故を減らし、誰もが快適な移動の自由を得ること」です。日本が抱えるの高齢化対策、事故の削減、そして移動手段の確保に対し、二つの技術はこの先も多いに役立ちます。
自動運転技術は日本の危機を救う、大きな可能性を秘めています。技術革新が進み、同時に社会的受容性が高まってくれば、自らがステアリングを握り運転そのものを楽しむ世界との共存も見えてくるのではないか……、これが筆者の意見です。
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「国外でのG自動車製造」を問題視され、日本メーカー及び日本国の姿勢が問われる事です。