愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第43回。俳優の勝地涼さんが登場する。前編は過去から現在までの愛車について語る!
クルマに興味をきっかけは“父”
いかにもドイツ車らしい──フォルクスワーゲン・ゴルフIIGTI試乗記
「子どもが生まれるときにこれを選んで、それからずっと乗り続けているんです」
ホワイトのメルセデス・ベンツ「GLC 220d」を運転して撮影現場にあらわれた俳優の勝地涼さんは、そう言いながら目を細めて愛車を見つめた。そして、「いろいろな思い出が詰まっているから愛着があるし、子どもの年齢とおなじだけ乗ってきたかと思うと感慨深いですね」と、続けた。
東京オートサロンや、ホンダ主催の「Honda Racing THANKS DAY」に足を運ぶ勝地さんであるけれど、意外や自身で購入したクルマはこのGLCが2台目という。気に入った1台を、大切に乗り続けるタイプなのだ。
勝地さんに、まずはクルマに興味を持ったきっかけや、運転免許を取得した頃を振り返ってもらった。
「クルマに興味を持つきっかけは、父ですね。ベンツが好きで、最新型が出ると結構な頻度で乗り換えていました。ディーラーの方とも仲がよかったみたいで、家のカレンダーもベンツ関連のものばかり。父が運転する姿を助手席から見て、クルマを好きになった感じです。だから18歳になってすぐ免許を取るのは自然な流れでした」
中学生でデビューした勝地さんは、18歳のときに撮影した映画『亡国のイージス』で日本アカデミー賞新人賞を受賞している。だから免許を取得した頃は、すでに忙しかったのだろうと推察する。
「でも、まだクルマを買えるような身分ではありませんでした。実家には父のベンツのほかに母用のフォルクスワーゲン『ゴルフ』があったので、それに乗っていました。両親が、兄弟で乗っていい、と言ってくれて。ありがたかったです」
勝地さんが18歳というと2004年、第4世代のゴルフIVの時代だ。パソコンでゴルフIVの写真を見せると、「そう、まさにこの型のゴルフで、うちのは紺色、ネイビーでした」と、大きく頷く。
ゴルフIVは、1997年から2006年まで製造されたモデル。先代にあたるゴルフIIIまでは質実剛健な実用車のイメージであったけれど、ゴルフIVに移行する際に、インテリアや塗装などの質感が一気に向上した記憶がある。
「当時、クルマ好きの友だちがいて、車内に青いネオン管を光らせるようなヤツだったんですけど(笑)、ちょっと不安だから付き合ってくれと言って、ふたりで山下公園のほうにドライブしたことを覚えています。道を覚えたり首都高の走り方をマスターしたり、ゴルフIVも思い出深いです。ただ、自分のクルマを持つ前に、まずはひとり暮らしだろうということで、クルマより部屋を探すことが先決でした」
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「あれは19歳のときかな? まだ20歳にはなっていなかったと思うんですけど、TBSの緑山スタジオで撮影をしていたときに、事務所の社長が見学に来たんです。真っ赤なBMWの『3シリーズ』のカブリオレで現れて、帰りに運転させてもらったんですけど、自分で買うならこれかも! と、ピンときました」
社長の愛車に感銘を受けたこととは別に、BMWを選んだことには「父へのライバル心のようなものもあったかもしれません」と、勝地さんは認める。
「父はベンツのディーラーにたくさん知り合いがいたので、そのツテを頼ったほうがクルマ選びは楽だったかもしれません。でも、いつかは親を超えたいという気持ちってあるじゃないですか? 親と関係のないところでビーエムの中古を探してもらった……という流れです。今になって思えば、そんな親に対する思いもあったのかもしれませんね」
勝地さんが買ったのは、BMW330iカブリオレで、色は白。1998年から2006年にかけて製造された、E46のコードネームで呼ばれる第4世代の3シリーズで、勝地さんの愛車はマイナーチェンジを経た後期型だった。ちなみに、E46のカブリオレは幌のソフトトップであったけれど、後継モデルにあたる第5世代のE90型のカブリオレは、格納式のハードトップになっている。
「すごく気に入っていたんですけど、意外と写真が残っていないんですよね……」と、いいながら、勝地さんはスマートフォンのフォルダを探す。そして、「あった、あった! 見てください、この写真」と、表情をくしゃくしゃにした。
勝地さんが差し出すスマートフォンの画面には、オープンにした愛車の後席に窮屈そうに収まりながら大笑いをしている鈴木亮平さんの姿があった。所属事務所のプロフィールによると、鈴木さんの身長は186cmある。
「これ、駒沢公園のあたりかな。友だちからも“カッコいい”と、評判がよかったんですよ。いい感じにハンドルが重くて、いかにも運転しているという実感が湧くクルマでした。仕事の移動は事務所のクルマだったので、ビーエムに乗るのは完全にプライベートです。新潟とか福島とか、いろいろなところに行ったなぁ。どんなにぶっ通しで運転しても休憩はいらないし、眠くもならないんですよ。ホントは少し休んだほうがいいんでしょうけれど、遠出をするのは全然苦じゃないです。その代わり、めちゃくちゃ時間がかかります。なぜなら、超安全運転だから(笑)」
カブリオレの屋根は開けていたんですか? と、尋ねると、「買ってすぐの頃はいつも開けていたんですけれど……」と、苦笑する。
「自由が丘のすごく狭い道で屋根を開けて信号待ちをしていたら、女子高生に『勝地涼がオープンにしてて超ウケるんだけど』と、言われて、それ以来、控えるようになりました」
2003年型だったというBMW330iカブリオレに、勝地さんは2019年まで乗り続けた。それだけ気に入っていた愛車を乗り換えることにしたきっかけは、子どもが生まれることだった。
「チャイルドシートを付けるにはどのクルマがいいかな、と、考えたんです。一瞬、ポルシェの『カイエン』も考えたんですけど、あれだとちょっと大きすぎて、駐車場の問題がありました。都内を走ることを考えるとGLCぐらいのサイズがちょうどいいかな、ということでこのクルマに決めました。BMWは走った感じも音もヤンチャな感じがしましたが、GLCは静かで子どもを乗せても信頼できる感じです。燃費のいいディーゼルエンジンを選んだことも含めて、大人の階段を登ったというか」
父を超えたいという思いもあってBMWを選んだ勝地さんが、父とおなじようにメルセデス・ベンツで子育てをしているというのが興味深い。
「そうなんですよね。自分が父の運転する姿を見て育ったのとおなじで、最近、子どもは、GLCとすれ違うと、『パパとおなじクルマだ!』と、わかるようになりました。だからGLCはモデルチェンジをしたけれど、思い出がありすぎて、買い替えたいという気持ちにならないんです」
いまはこのGLCに乗り続けたいという勝地さんであるけれど、もう少し子どもが大きくなったら、古いクルマに乗ってみたいという。後編では、将来乗りたい、勝地さんの夢のクルマを紹介したい。
勝地涼(かつぢりょう)1986年生まれ、東京都出身。2000年にドラマ『千晶、もう一度笑って』で俳優デビュー。2005年には映画『亡国のイージス』で日本アカデミー賞新人賞を受賞するなど、俳優としての基盤を固める。テレビドラマや映画にコンスタントに出演し続けながら、舞台でも活躍。今後は、ウーマンリブvol.16「主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本」の上演が控える。
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文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・小口あづさ スタイリング・梶原浩敬 編集・稲垣邦康(GQ) 撮影協力・メルセデス ミー 東京
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