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メルセデス・ベンツ280GE レプリカ(2) ジャッキー・イクスの感じた風 1983年のダブル優勝

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メルセデス・ベンツ280GE レプリカ(2) ジャッキー・イクスの感じた風 1983年のダブル優勝

素晴らしい露出効果に繋がったダブル優勝

1983年1月1日、フランス・パリのコンコルド広場を、110台のオフロードバイクと209台のラリーカーが出発。容赦ないアフリカ大陸を目指す、20日間の大冒険が始まった。

【画像】1983年のダブル優勝 メルセデス・ベンツ280GE レプリカ 現行Gクラス 911 ダカールとプロドライブ・ハンターも 全121枚

ドライバーがジャッキー・イクス氏、コドライバーがクロード・ブラッスール氏のペアは、好調にルートをこなし、6日目のサハラ砂漠ではトップへ躍進。メルセデス・ベンツ280GEは速かった。ステージによっては、バイク・カテゴリーとの差を縮めるほど。

サハラ砂漠中央、危険なテネレ地域では砂嵐が起き、多くの選手を苦しめた。同じ280GEを駆る、ジャン・ピエール・ジョソー/ジャン・ダ・シルバと、アンドレ・トロサ/エリック・ブリアヴォワンヌ・ラダのペアが、追走を続けた。

しかし、ニジェールでイクス/ブラッスール・ペアの駆る280GEはパワーダウン。ゴールが迫るマリでは、亀裂が入ったフロントアクスルの交換へ迫られる。だが、後続との差は1時間ほどあり、追いつかれる前にサービスカーが対応。エンジンも新しくされた。

最終的に、イクス/ブラッスールのペアが1983年のカー・カテゴリーで優勝。トラック・カテゴリーでも、メルセデス・ベンツ1936 AKが優勝を果たしたことで、ドイツブランドの強さを証明しただけでなく、素晴らしい露出効果にも繋がった。

1982年式280GEをベースにレプリカ製作

かくしてパリ・ダカール・ラリーの注目度は高まり、1984年は3.2Lエンジンに四輪駆動を組み合わせたポルシェ911が優勝。1985年には959を投入するも、三菱がパジェロで1・2フィニッシュを遂げた。プジョーも、ワークス態勢で1990年代を戦っている。

以降、パリダカの競争は一層激しくなり、勝つには特注のラリーレイド・マシンが必要になっていった。ゲレンデヴァーゲンは、上位へ食い込むことすら難しくなった。

1983年に優勝した280GEは売却され、1985年と1986年のパリダカには、プライベート・チームから参戦している。V8エンジンへスワップされて。しかし、その後の消息はわかっていない。

失われた伝説的なゲレンデヴァーゲンへ、2007年に注目したのが、カーマニアのヨルグ・サンド氏。メルセデス・ベンツ側も優勝マシンのシャシー番号を記録していなかったものの、1982年式280GEをベースにした、レプリカの製作が始まった。

その年式の生産数は200台程度と少なく、状態の良い1台を選出。1年間をかけて、細かい部分まで再現されていった。また、メルセデス・ベンツも積極的に協力。アーカイブ資料を共有したほか、燃料タンクの設計や搭載位置など、技術的な支援も行った。

オリジナルのマシンに載っていた唯一の部品、ステアリングホイールも提供。同社の博物館やカーイベントへ出展できる、本物へ限りなく近い水準が目指された。

発進してすぐワイルドな性格が顕に

見た目だけでなく、パワートレインのアップグレードも再現された。「エンジンをチューニングするためAMGへ送ったほか、5速ドッグレッグ・パターンのトランスミッションと、1:528のギア比のデフも組まれています」。とサンドが説明する。

「唯一、オリジナルと違う部分はサスペンションです。本来の仕様では扱いにくいとわかったので、硬くしました」

2022年に開かれたイベント、ダカール・クラシックで、サンドはサウジアラビアに広がる砂漠、7500kmの走破へこのレプリカで挑んだ。その時を、彼が振り返る。「クルマの仕上がりは素晴らしいものでした」

「しかし、川を横断中にパンク。当時のタイヤには、スチールバンドが用いられていましたからね」

2023年に開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにも、この280GEは姿を見せている。会場のオフロード・アリーナなど、意に介するような悪路ではないだろう。筆者はこれに先駆けて、ステアリングホイールを握らせていただいた。

発進してすぐ、ワイルドな性格が顕になる。AMGがチューニングした直列6気筒エンジンは、極めて鋭く回る。専用カムとショートレシオのデフが組み合わさり、非常にエネルギッシュ。リミッターへ迫るほど、排気音と吸気音が不協和音のように高まる。

目線は高いが、サスペンションは適度に引き締まり、積極的に速さを求めていける。シフトアップしても、突進するペースは衰えない。

地平線の先を見つめ、疾走し続けてみたい

興奮を冷ますため速度を落とすと、エンジン音も静まる。トランスミッションの唸りはほぼなく、タイヤが蹴り上げる小石の音が聞こえてくる。かなり生々しいマシンだが、予想したほど疲労感は大きくないようだ。

ストレートでは貪欲にギアを選び、一心不乱に加速。ツインカム直6エンジンのサウンドを、周囲へ充満させながら。カーブでは荷重移動に合わせて、ボディがロールする。ダート路面から鋭く脱出できる、不満ないパワーが放たれる。

主要な操縦系は扱いやすく、ノーマルのゲレンデヴァーゲンと同じくらい運転しやすい。サイドウインドウは、小さく一部がスライドするポリカーボネイト製だが、通気口から気持ち良い外気が流れ込んでくる。イクスも、この風を感じていたのだろうか。

数1000kmに及ぶ冒険へ相応しい、頼もしさと親しみやすさがある。グッドウッド・サーキットの外れには、少し荒れたオフロードが広がっている。乾いた土の上でも、トラクションは高いまま。脱出加速でもたつく様子は微塵もない。

フカフカの砂の上では、280GEはもう少し手を焼いたのかもしれないが、大きくは違わないだろう。地平線の先を見つめ、右足を倒し、疾走し続けてみたいと筆者も思った。

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