2021年12月に現行型ゴルフにGTIが加わり、22年6月にはポロのマイナーチェンジで ポロGTIも新型に切り替わった。これでフォルクスワーゲン伝統のスポーツモデルが出揃った。ゴルフとポロ、2台のGTIはどのように進化し、どんな違いがあるのか、その走りを確かめた。(Motor Magazine 2023年3月号より)
同じプラットフォームとエンジンを持つポロGTIとゴルフGTI
「ゴルフGTIにそっくり!」 ポロGTIに試乗してそう感じたのは、たしか先代のエンジンが1.8Lに置き換わったときのこと。
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192psの最高出力は同時期のゴルフGTIの220psに匹敵するものだったし、DCT(DSG)が選べたのもゴルフGTIと共通。スポーティなのに恐ろしくスタビリティの高いハンドリングのおかげで、まったく不安を感じさせないまま高速コーナーを駆け抜けていくさまも、ゴルフGTIを彷彿とさせた。それどころか、「日本の狭いワインディングロードだったら、コンパクトなポロGTIのほうがむしろ有利かもしれない」とさえ感じたことを、昨日のことのように思い起こす。
あれから8年が過ぎて、ポロGTIとゴルフGTIを直接比較するチャンスが巡ってきた。まずは、2台の概要を紹介しよう。
最新のポロGTIはプラットフォームにMQBを採用する6代目ポロがベース。搭載されるエンジンはEA888と呼ばれる排気量2Lだが、先ごろ実施されたマイナーチェンジで最高出力は200psから207psへと引き上げられた。これにあわせてギアボックスは6速から7速のDCTに進化している。
一方のゴルフGTIはいうまでもなくゴルフ8がベース。したがってプラットフォームはMQBとなるので、この点はポロGTIと同じ。しかも、エンジンはEA888で、ギアボックスは7速DCTと、2台の成り立ちはどこまでもよく似ている。
ポロGTIとのスペック上の違いは、最高出力が245ps、最大トルクが370Nmと一段とパワフルになっている点がひとつ。その影響か、WLTCC燃費はポロGTIの15.6km/Lに対して、ゴルフGTIは12.8km/Lと、意外なほど大きな開きがある。
もうひとつの目立った違いは、リアサスペンションの形式である。ポロGTIは、ゴルフの1Lモデルと同じトレーリングアーム式となるのに対して、ゴルフGTIはより手の込んだ4リンク式を採用。この違いが乗り心地やハンドリングにどんな影響を与えるのかも注目したいところだ。
路面の様子が伝わりやすく鋭いレスポンスが魅力のポロ
先に試乗したのはポロGTI。正直に言って、乗り始めて1分と経たないうちに「ああ、フォルクスワーゲンは道を誤ったか」と思った。とにかく路面からの細かなショックが始終、伝わってくるのだ。
こういった無粋な振動を洗いざらい吸収し、どっしりと落ち着いた乗り味に仕上げるのがフォルクスワーゲンの流儀だったはずなのに、これはいったいどうしたことだろう? これまで歴代のポロGTIには何台も試乗したが、ここまで乗り心地が荒いGTIIは経験したことがない。ブランドの一大方針転換とも思えるこの変化に、私は深い戸惑いを覚えた。
ただし、足まわりのしなやかさが失われても、路面の不整によってハンドルがチョロチョロと振られることなく、しっかりと直進を保ってくれることには、ほっと胸をなで下ろした。同様にして、ステアリングインフォメーションが豊富で、路面の様子が克明に伝わってくる点も嬉しいところだ。
まるで、知らぬ間に風貌が激変していた旧友が、話してみれば昔とまったく変わってないことに気づいたときのような安堵感を、このときの私は味わったのである。
パワートレーンのレスポンスがシャープなこともポロGTIの美点。エンジンは全般的にトルクが豊富で、中回転域から高回転域にかけては、とりわけ吹き上がりが鋭くなる。しかも、エンジンが生み出したトルクをDCTが余すところなく前輪に伝達するうえ、ギアチェンジの速さがスーパースポーツカー並みに素早い。こうした魅力は新型にもしっかりと受け継がれていた。
ポロと比べると全体的に洗練されているゴルフGTI
続いてゴルフGTIに乗り換える。その乗り心地は期待どおりで、荒れた路面でも滑らかに走りすぎるしなやかな感触。どっしりと路面に張り付くようにして走る姿も、昔からすっかり変わっていないように思える。
そのせいで、ブレーキングに伴うノーズダイブの量はポロGTIよりも明らかに大きな印象。かといって、不安を抱くほど沈み込む量が大きいわけではなく、むしろ荷重移動の度合いを確認するにはちょうどいい頃合い。こうした、「ほどよいスポーティさ」こそ、ゴルフGTIの伝統的な味わいといっていい。
ハンドリングもポロGTIより洗練されていて、ドライバーの両手には純度の高いロードインフォメーションだけが伝わってくる。そしてポロGTI同様、ブレーキのコントロール性が優れている点もスポーツ派ドライバーから歓迎されることだろう。
唯一、快適性でポロGTIにかなわないと思ったのがボディの振動減衰。足まわりは固めでも、路面から受けたショックが尾を引かないポロGTIに対し、ゴルフGTIはかすかに微振動が残る。もっとも、これはGTIだけでなく、ゴルフ8に共通する弱点だ。
パワートレーンの印象はポロGTIと近いが、ゴルフGTIは低速域でのトルク感がすさまじく、発進時に深めにアクセルペダルを踏み込むと、もう少しでトラクションコントロールが効きそうになるくらい鋭い動き出しを見せる。一方、エンジン音がボーボーとこもり気味で、音量もやや大きめな点はいただけなかった。
つまり、全般的にゴルフGTIのほうが洗練されていて快適だったことになる。この点は「車格の差」といってしまえばそれまでだが、一方で、あえて「GTIの文法」に背き、快適性を犠牲にしたポロGTIの足まわりに納得しきれない思いがつきまとったのも事実である。
ところが、ワインディングロードに舞台を移したとき、私の疑念はきれいさっぱり消え去った。ポロGTIのややソリッドな足まわりが、思いどおりのコーナリングを可能にしてくれたからだ。
なによりもハンドリングのレスポンスがいい。それも、明確なフロント荷重を作らなくても、軽いブレーキングに続いてハンドルを切り込めば、すっと無理なくノーズがインを向いてくれるのだ。しかも、ロードホールディングが素晴らしいので、波打った路面でも安定したグリップを生み出してくれる。この軽快感と安心感のバランスは、最近試乗したコンパクトスポーツのなかでもトップクラスに位置するほどだ。
ワインディングロードでの楽しさはポロが一枚上手
一方のゴルフGTIも、市街地での快適性を考えれば素晴らしく軽快なハンドリングだが、それでも、ポロGTIに比べるとブレーキングしてからターンインを始めるまでにワンテンポ待つ必要がある。いや、もしもポロGTIの走りを知らなければ、これはこれで納得のいくハンドリングだが、比べてしまえば差は歴然。
したがって、市街地や高速道路での快適性を重視するならゴルフGTI、ワインディングロードでの小気味よさを最優先するならポロGTIがお勧めという結論になる。
考えてみれば、ゴルフGTIとポロGTIのキャラクターを同じにするほうがもったいないともいえるし、どちらかをスポーツ方向に振るならポロGTIのほうがそれに相応しいことも明らか。リアサスペンションの違いから、ポロGTIに乗り心地まで追求するのは難しかった可能性もなきしにもあらずだ。その意味でいえば、ポロGTIのキャラクターを大きく見直したフォルクスワーゲンの戦略は的を射ているといえる。
一方、ゴルフRとゴルフGTIを比較すると、Rはさらに乗り心地が洗練されていて上質。それでいながらパフォーマンスは驚異的に高いので、GTIとはまさに別格のスポーツモデルといえる。
もっとも、ゴルフRの価格はゴルフGTIよりおよそ150万円高い639万800円。さらにいえば、ゴルフGTIとポロGTIの価格差はたったの75万円なので、コストパフォーマンスがもっとも高いのは意外にもゴルフGTI、という結論になりそうだ。(文:大谷達也/写真:永元秀和)
フォルクスワーゲン ポロ GTI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4085×1750×1430mm
●ホイールベース:2550mm
●車両重量:1310kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1984cc
●最高出力:152kW(207ps)/4600-6000rpm
●最大トルク:320Nm/1500-4500rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・40L
●WLTCモード燃費:15.6km/L
●タイヤサイズ:215/40R18
●車両価格(税込):411万3000円
フォルクスワーゲン ゴルフ GTI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4295×17950×1455mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1430kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1984cc
●最高出力:180kW(245ps)/5000-6500rpm
●最大トルク:370Nm/1600-4300rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・51L
●WLTCモード燃費:12.8km/L
●タイヤサイズ:235/35R19
●車両価格(税込):486万2000円
[ アルバム : フォルクスワーゲン ポロ GTI x ゴルフ GTI はオリジナルサイトでご覧ください ]
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