自動車業界も新型コロナ感染症対策に取り組んでいる。自社や関連メーカーでマスクやフェイスシールドを製造するだけでなく、人口呼吸器などの生産をバックアップすることも表明。持てる技術を使って未曾有の事態に対処している。これらは本業以外の取り組みだが、本業のパーソナルモビリティとしてのクルマでの対策も相次いで打ち出されている。
■ホンダが移送用車両を提供
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2020年4月14日にホンダは、新型コロナウイルス感染防止にむけた支援活動として、港区と渋谷区へ「感染者を搬送するための車両(仕立て車)」を提供した。車両はオデッセイとステップワゴンなどのミニバンで、搬送時の感染リスクを削減するため運転席と後部座席の間にボードによる仕切りを設置。Bピラーのすぐ後ろにボードが付けられ、スライドドアによる乗降性も考慮されている。ルーフのRの形状にピッタリと合わせて作られているのは、さすがメーカー製だ。さらに後方や後席の人を運転席から見ることができるように、ボードの一部がサンルーフほどの面積で透明になっていて、使いやすさにも配慮されている。こうした仕様を短期間で開発できるのは、自動車メーカーならではだ。
またホンダはボードで仕切ることで、前後席間の圧力差を利用して、飛沫感染を抑制する構造に仕立てていると解説している。これは病院の感染隔離の病室と同じ考え方で、前席はエアコンで外気を導入して気圧が少し高い状態を作り出し、後席は後部に排気口があるため前席より気圧を低く設定。結果として後席での飛沫が前席に入り込むことがなくなり、運転者が飛沫感染しないというものだ。この感染者搬送車両は埼玉製作所(狭山工場)を皮切りに国内事業所で生産予定。今後は都内など感染者の多いエリアから納車する予定だという。
■トヨタの移送用車両は「JPN TAXI」がベース
トヨタは4月21日に感染症搬送車両を千葉県に納入したことを発表した。ホンダと違うのはミニバンではなく、タクシーに使われているジャパンタクシー(JPN TAXI)をベースに架装している点。この仕様は、感染した軽症者を移送用するための車両で、トヨタ自動車東日本 東富士総合センターが開発と架装を行ったという。ジャパンタクシーもホンダと同様に前席のすぐ後ろに透明のビニールシートを設置して前後席を隔離。シートはBピラーとルーフにそって貼られていて、下側もフロアマットまできっちりと届いている。ホンダの仕様より簡易的だが、この仕様なら都内を数多く走るジャパンタクシーに応用可能だろう。
7月から開催予定だった東京オリンピック2020にあわせて、都内のタクシーはトヨタのジャパンタクシー一色になりつつあるから、この簡易的なシートならタクシーの事業所でも架装ができそうだ。ジャパンタクシーの考え方もホンダと同様で、前席を陽圧にして後席を陰圧とすることによって、後方の空気が前方に循環しないようにコントロールした「飛沫循環抑制車両」。千葉だけでなく東京都内の病院などにも同様の仕様を5台提供しているという。
■自車で移送する場合の注意点とは?
家族が発熱した場合、新型コロナ感染症かわからない状態でも公共交通機関で移動するのはダメだ。となると、基本的には自車で移送する手段を取らなければならなくなるが、家族内感染にも注意したい。ホンダやトヨタのような車両があればいいが、やはり台数が限られている。器用な人なら透明なビニールを愛車に貼るだけでもある程度の効果は期待できるはずだ。
(1)人と人の距離を長めに取る
そこで考えたいのが、マイカーをそのまま使って移動させるときの操作ポイントや着座位置。まず発熱した家族が座る位置だが、ドライバーと対角線になる後席がいい。右ハンドルのミニバンだったら最後部の左側に座ってもらえば、運転席との距離が長くなり、それだけ感染リスクが少なくなる。もちろん車両に乗る人全員が必ずマスクをし、付き添いも運転者だけにしたほうがいい。
(2)エアコンの設定を外気導入に
次にドライバーが行わなくてはならないのがエアコンの設定だ。ホンダやトヨタの架装車を紹介したが、どちらもエアコンによって車内の空気をコントロールしている。自分のクルマでもエアコンの内外気切り替えモードを外気導入することによって、飛沫汚染されていない空気を外部から取り込むことができる。さらにエアアウトレットの吹き出し口をドライバーの顔側に向けることで、エアによるシールド効果が期待できるため感染しにくくなる。オートエアコンの場合は、車種によって冷暖房の効きをよくするため自動的に内気循環になるものがあるから注意が必要だ。この場合はマニュアル操作に切り替えて、外気導入とダッシュボードの吹き出し口を選べばいい。また、トンネル内など外気が汚れていると自動で内気循環になるタイプもあるが、これもマニュアルで外気導入にしたい。
(3)密を避けるための「窓開け」にもポイントが
さらに密閉空間を防ぐために窓を開けることも必要だ。この場合も空気の流れを考えて運転席側の窓と後席左側の窓を開ける。運転席側から後方の窓に空気が流れるようにすることが大切。窓を全開にしたまま高速道路に乗ると入り込む風が強くなり過ぎてしまうため、スピードに応じて窓の開け具合を変化させることも必要だ。
(4)HVなどのエコカーは外気導入できていないことも
これらが基本的なエアコン操作と着座位置だが、注意しなければいけないのはハイブリッドなどのエコカーだ。燃費がいいということは、熱効率がよくエンジンの排熱が少ないためヒーターが効きにくい。夏でもエアコンのコンプレッサーの可動を少なくして燃費を稼ぐために、じつはエアコンを外気導入にしても、100%外気を取り入れる構造になっていないクルマがあるのだ。そうしたエアコンは50%ほどしか外気を取り入れず、残りは車内の空気を循環させて効率化している。燃費のいい最新ディーゼルでもこういった制御を採用している可能性があるから、エコカーで移動する場合は、エアコンの外気導入だけでなく窓による空気の流れも意識したい。乗車後には全ドアを全開にして空気を入れ替え、各部の消毒も心掛けたい。
感染を広めないためにもパーソナルモビリティであるクルマをうまく使っていきたい。最後に最前線で戦っておられる医療関係すべてのスタッフに敬意を表したい。
〈文=丸山 誠〉
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