ホットハッチに代わって流行したFFクーペ
1990年代の欧州で、1つの流行を生み出したのが前輪駆動のクーペだ。1980年代の交通事故増加に伴い、ホットハッチに対する任意保険の金額が上昇。1クラス上のクーペへ、各メーカーが若者向けの路線を変更したのがきっかけといえた。
【画像】流行りはFFクーペに! トヨタ・セリカ マツダMX-6 ローバー220 同時期にはこんなモデルも 全138枚
比較的コンパクトなシャシーに、余裕あるパワーを発揮するエンジンを搭載。スタイリッシュなフォルムをまとい、活動的なドライバーへ訴求した。
ハッチバックより車重は増え、プジョー205 GTiに載っていたような、8バルブの直列4気筒エンジンでは充分な興奮を誘えなかった。市民的なブランドだったローバーにトヨタ、マツダは、ターボ化やツインカム化、V型6気筒などの手段で魅力を追い求めた。
ただし、今回取り上げるR8型の220 ターボ・クーペは、実は本当の意味でのローバーではない。開発を進めたのは、当時協力関係にあったホンダ。産業ロボットも日本から輸入され、グレートブリテン島で生産されている。
それでも220 クーペは、R8型の中では最も英国車に近い。4気筒エンジンはローバーが開発し、クーペ・ボディも独自にデザインされている。日英合作ではあったものの、英国寄りのモデルだといっていい。
4年周期でモデルチェンジを続けたトヨタ
220 クーペのスタイリングは、2台の純日本製クーペに並ぶと、直線的で面構成が複雑。リアピラーは緩くカーブし、リアスポイラーも肉付きがいいが、フロントマスクやサイドまわりは直線基調にある。少し調和していないように見える。
R8型サルーンの発表は1989年だったが、クーペの追加は1992年。上下で時代が違っているようだ。ローバーもそれを理解しており、1994年にはフェイスリフトを受け、サルーンと同時にやや丸みを帯びたフロントグリルが与えられた。
対するトヨタは、1980年代に世界クラスの自動車メーカーへ躍進。4年周期でモデルチェンジを施す短期サイクルを確立し、スタイリングのトレンドを追い続けていた。
5代目、T180型セリカが発売されたのは1989年。その数か月後には、6代目となるT200型の開発が着手されたという。
短いモデルサイクルを叶えた背後にあったのが、ボディパネルの内側で進められた合理化。1993年に発売されたT200型セリカでも、シャシー設計に関しては前輪駆動化された4代目、T160型のアップデート版といって良かった。
先代以上に個性的なスタイリングを求めて、6代目ではリトラクタブルから独立した4灯ヘッドライトへ変更。少し煩雑なフロントマスクになった。後席や荷室の空間が優先されたことで、リア回りはボリューミーでもあるが、斜め後ろの姿はカッコいい。
有機的にパネルがカーブし、ボディキットも抑揚が強い。その頃は、最先端の見た目のクーペだったことは事実だ。
前衛的だった曲面ボディに2.5L V6エンジン
セリカ以上に曲面が多用された姿だったのが、マツダMX-6。特に曲線美が追求されたデザインの1台といえ、220 クーペより発売が1年先だという事実に驚かされる。同時期のフォルクスワーゲンやBMWと比べても、前衛的だった。
プロポーションはロー&ロング。フロントノーズは滑らかに仕上げられ、今回の3台では最も大きいエンジンが収まることを感じさせないほど、低く伸びやかだ。
同時期のこのクラスのクーペには、フォルクスワーゲン・コラード VR6という強者が存在するが、マツダが採用したのもV6エンジン。ちなみにMX-6だけでなく、323F(ファミリア)やMX-3(AZ-3)などにも、1.8Lや2.0Lユニットが搭載されている。
MX-6に載ったのは、バンク角60度で2.5LのKL型ユニット。オールアルミ製で、ツインカム24バルブヘッドが与えられ、その頃の最新技術が投入されていた。
シリンダーはオーバースクエアで、エンジン高を抑制。前輪駆動のプラットフォームへ横向きに押し込むと、エンジンルームの前後長は伸びたが、スポーティな雰囲気を求めるクーペではロングノーズも悪くなかった。
チューニング度は高くなく、最高出力175psのセリカより排気量が499ccも大きいにも関わらず、167ps。サウンドの特徴は薄く、アルファ・ロメオのブッソ・ユニットのような音響体験は得られない。
しかし、排気量に代わるものはないという格言通り、最大トルクは22.4kg-mと太い。柔軟で滑らかに回り、パワーデリバリーはリニア。高回転域まで引っ張ると、遠くから勇ましい唸りが聞こえてくる。
MX-6やセリカより断然速い220 クーペ
ローバーの220 クーペに載るのは、2.0L直列4気筒ターボ。最高出力は199psとハイチューニングで、ターボラグは小さくない。ブースト圧が高まると、突如猛烈な勢いで突進を始める。
最大トルクも24.0kg-mとたくましく、細いフロントタイヤでは受け止めきれないほど。旋回時にパワーを掛けると進路が乱れる、トルクステアも盛大。制御しきれないほど暴れるわけではないが、ステアリングホイールはしっかり握っている必要がある。
そのかわり、MX-6やセリカより断然速い。新車時の英国価格は、3台で1番安かったにも関わらず。目一杯気張らずとも、フルスロットルのセリカ並み。80%程度の気張り具合なら、トルクステアも目立たなくなる。
トヨタの3S-GEユニットは、技術的な完成度で秀でている。自然吸気ユニットとしては高出力型で、排気量1L当たりの馬力は86ps。内部部品は鍛造で堅牢といえ、高度なツインカム・ヘッドを載せていながら信頼性も高い。
基本的な整備だけで、24万km以上使える耐久性も自慢。ミドシップのトヨタMR-2でも、それは証明されている。
しかし、可変吸気システムが実装されていても、同時期のカローラより少し速いかなという程度。そのぶん低回転域から扱いやすく、燃費もカローラ並みに良い。
7500rpmのリミッター目掛けて引っ張れば、トルクで勝るMX-6のペースへ迫れるものの、4気筒ターボには敵わない。本当にパワーを感じられるのは、5000rpmを過ぎた辺りからだ。
この続きは、トヨタ・セリカ マツダMX-6 ローバー220 クーペ 1990年代の煌き(2)にて。
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みんなのコメント
デートカーブームの中でセリカが良かったのは3ドアハッチバックだったから。
リアシートを倒せばラゲッジスペースが大きく、スキーや旅行に使い勝手が良かった。