低く精悍なスタイリングはシロッコを思い起こさせる
■かつて所有したゴルフ2は日本で使いにくいクルマだった
【意外と知らない】VWの名車「ゴルフ」の由来はスポーツのゴルフじゃない!
私は若かりし日にゴルフに乗っていたことがあった。ちょうど30歳になったころ、駆け出しのモータージャーナリストだったけど、大先輩の徳大寺有恒先生に「君は勉強のためにゴルフを買いなさい」って言われたことがあった。当時の愛車はスバル・ジャスティ。チームスバルのラリードライバーだったので、リッターカーを所有していた。新車で買ったゴルフIIがガレージに入った。
右ハンドルで3速AT、だが、パワステが付いてなかったので、ハンドルは重かった。女房が2人目の子供を妊娠中で、あまりにハンドル重くて「子供が出ちゃうって」泣いていたのを思い出した。
正直、ゲタにも使いにくいゴルフがなぜ世界の名車なのか理解できなかった。思わず徳大寺先生に「なんでこんなクルマがいいのかわかりません」って意見したことがあった。
当時のVWジャパンの代表であったロバート・ヤンソン氏の好意で、ドイツの国際試乗会に連れて行ってもらったことがあった。その時、初めてアウトバーンを150km/hで走った。「あっ!これか、この安心感がゴルフの真髄なのか」と納得したのであった。以来、ゴルフ3、4、5、6、7とずっとゴルフの進化ぶりを、世界のファミリーカーのスタンダードとして見てきたのである。
■新型ゴルフ8はさまざまなパワーユニットを揃える
ポルトガルで開催される新型ゴルフ8の国際試乗会に参加するために、深夜便に乗り、冒頭のように昔のゴルフのことを思い浮かべていた。新型ゴルフ8は先に発表されたEVのID.3とは対局にあるモデルだ。エンジンを搭載するプラットフォームをVWはMQB(横置きエンジンのモジュール)と規定している。一方新しいEVのプラットフォームはMEB(エンジンのないEV専用のモジュール)という。つまりエンジン車のMQBとEVのMEBが二本柱となる。その意味ではゴルフ8は最後のエンジン付きゴルフとなるのか。
とはいえ、今回の新型ゴルフ8は電動化にも積極的で、マイルドハイブリッドと呼ばれる48Vのサブ電源を使うeTSIや、バッテリーだけでもある一定の距離を走れるプラグイン・ハイブリッド(PHV)も気になるところだ。さらにディーゼルゲート(問題)のみそぎも終わり、生まれ変わったディーゼルエンジンがどのようなパフォーマンスを持っているのか気になっていた。
ポルトガルの首都リスボンの北200Kmくらいの大西洋に面した古都ポルト空港に着くと、すぐにゴルフ8の試乗が始まった。スタイルはスペックを見るまでもなくスポーティ。ゴルフのスピンオフモデルであるシロッコを思い出す。全長は26mm長くなって4284mm、全幅は1789mmだが、全高が36mm低くい1456mmとなっているので、より精悍なフォルムなのだ。ホイールベースと全幅はほぼゴルフ7と同じ2635mm。これがゴルフ8のスリーサイズだ。
■先進性溢れるコクピットは驚きだが使い勝手は一考の余地あり
全長とホイールベースをEVのID.3と比べてみると面白い。ID.3は全長が4260mmでホイールベースは2765mmと長い。その比率は(ホイールベース÷全長)はゴルフ8が62%、ID.3が64%となっている。エンジンがないために、ID.3は見事なパッケージだが、エンジン車のゴルフ8も同種のライバル車と比べても、62%は立派だ。
ルーフが低いので、キャビンの居住性が気になったが、リヤシートの背もたれを少し倒しているので、問題はなかった。
びっくりしたのは、コクピットまわりのデザインだ。オールデジタル化されたのは良しとする。目の前にiPadが広がっている感じなので新鮮だ。だが、使い勝手はあまりよくない。タッチ式のスイッチは注視しないと使いにくい。安全運転を考えるなら、手探りでスイッチがわかる従来のアナログがいい。最近のVWグループは、アウディもタッチ式が増えている。見た目のデザインは歓迎するが、その使い勝手は必ずしも「イエス」とは言いにくいのだ。音声認識はAmazonのアレクサを使う。日本語対応はまだなので、その使い勝手はこれから判断する必要があるだろう。
マイルドハイブリッドのガソリン車に心酔
■ゴルフにはeTSIが必要十分
試乗できたエンジンは二種類。一つは新しく開発された48Vのマイルド・ハイブリッドeTSI。1.5リッターは48Vで駆動するBSG(ベルト・ドリブン・スターター・ジェネレーター)を装備している。二つ目は2リッターディーゼルだ。大幅に手を加えた新世代のディーゼルエンジンに、期待できる。それでは実際の乗り味はどうなのか。
まずはeTSIをテストした。1.5リッターの4気筒ターボは、48VのBSGのおかげで、発進時の駆動アシストがうれしい。さらに回生ブレーキ、エンジンのスターターと多様な機能が可能だ。DSGが苦手だった発進時のクラッチのギクシャク感は見事になくなった。さらに一定速度で走っているとき、エンジンを休止させるコースティングが可能なので、燃費も良さそう。エンジン本体は最大250N・mと十分なトルクを絞りだす。
ディーゼルはどうか。2015年に起きたディーゼルゲートは完全にみそぎを終えたかのように、新しいディーゼルを開発し、排ガス性能では尿素SCRをツインインジェクターにすることで、NOxを大幅に除去できるようになった。新世代のディーゼルエンジンは今まで以上に静かで振動も少ない。最大トルクは360N・mと十分だが、正直に言うと、ゴルフではすこし持て余してしまいそうだ。
eTSIとTDIを比較すると、今回はeTSIに軍配を挙げたい。というのはゴルフ8としてはガソリンエンジンのほうが魅力を増しているからだ。モーターが発進をアシストするので凄く自然に走れる。ディーゼルエンジンはSUVのAWDと組み合わせたほうがいいだろう。
■クルコンとレーンキープアシストが使いやすい
ハンドリングは先代よりもスポーティになった。というのは、今回試乗したのはガソリンもディーゼルも、スポーツサスDCC(電子制御可変ダンパー)を装備したハイスペックのモデルだったからだ。電子制御ダンパーはコンフォートとスポーツを切り替えることができる。このスポーツシャシーにはアルミ製のサブフレームがおごられている。スティール製のサブフレームと剛性はアルミに分があるが、コストではスティールが安い。日本にはどのモデルが導入されるか未定だが、DCCはかなりスポーティでハンドリングは楽しかった。乗り心地は先代ゴルフよりも改良され、静粛性も大幅に向上している。
個人的に感心したのは、進化したドライバー・アシストシステムだ。もちろんレベル2の自動化技術を採用しているが、ACCとLKASが使いやすい。さらにトラベルアシストと呼ばれるC2X(カートゥカー)の機能も実用化している。通信機能は各国で異なるので、日本の仕様はまだ未定だ。
予防安全技術では右折時(海外では左折時)のクルマ同士の事故を防ぐ機能も備わっている。進化したゴルフの予防安全は必見だ。
■日本への導入は2020年の末となる模様
期待する日本の市販時期であるが、どうも来年2020年の末になりそうだ。価格は現行から大幅に高くなることはなさそうだが、5ドアハッチではなく、米中で市販する4ドアセダンも魅力的だ。メルセデスのCLA(Aクラスベースの4ドア)の売れ行きを見ると、日本の年齢が高い層の人たちには、コンパクトなプレミアムセダンが似合いそうだ。
また、ゴルフには1リッター3気筒エンジンを搭載するエントリーモデルも存在するが、価格次第ではゴルフを浸透させる立役者になりそうだ。いずれにしても、勝敗はマーケティング。既存の価値感から卒業できれば、VWゴルフも日本で人気がでそうだ。ゴルフ8が市販される頃、日本ではEVのID.3もデビューする。電気かエンジンか。うれしくも悩ましい選択になりそうだ。
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