現代でもモダンでエキゾチックな見た目
SタイプにRを設定したジャガーとは異なり、イタリアのマセラティにはシリアスなサルーンというイメージが薄いだろう。4ドアのクアトロポルテは、独自の優雅さという個性で売っていた。
【画像】ネオクラV8サルーン M5 E 55 AMG Sタイプ R クアトロポルテ 現行モデルも 全133枚
4代目が登場したのは1994年。1981年のビトルボをベースにした3代目へお別れを告げ、1992年のギブリと同じ2.8L V6ツインターボ・エンジンを搭載していた。
端正なスタイリングを手掛けたのは、巨匠マルチェロ・ガンディーニ氏。クアトロポルテの登場は今回の4台では1番古いが、現代でもモダンでエキゾチックな雰囲気を放っている。
クアトロポルテの誕生当初、マセラティの経営権はフィアットが握っていたが、1997年にフェラーリへ移管。工場の生産体制が改められ、800点の主要部品のうち400点へ改良が施された。
その結果誕生したのが、3.2エボルツィオーネ。スポーツサルーンに磨きをかけ、270km/hの最高速度を実現させている。
トランスミッションは、ゲトラグ社製の6速マニュアル。リアのチューブラー・フレーム構造には、トレーリングアーム式サスペンションと、リミテッドスリップ・デフが取り付けられている。
エンジンは、技術者のジュリオ・アルフィエーリ氏がF1用に設計した32バルブのV8。それをベースに、IHI社製のターボチャージャーが2基組まれた。
最高出力は334ps、最大トルクは45.8kg-mと、ライバルを脅かすほどではなかった。それでも、マセラティの魔法が掛けられフィーリングには威圧感が漂う。0-97km/h加速は5.8秒を実現した。
4ドアの5シーターだと忘れる走りのM5
今回の4台が1つの駐車場に並ぶと、BMW M5の存在感がひときわ大きく感じられる。それは公道でも同じで、相応に意欲的に走る姿を想像ぜずにはいられない。
E39型M5のインテリアは、当時のドイツの工業製品らしいデザイン。多くのボタンが整然と並び、丁寧に1つ1つへ機能が記されている。ライトのロータリースイッチは、メーターと呼応するようにレイアウトしてある。
今回ご登場願ったM5には、ヘリテージと呼ばれるレザーシートが装備され、上質感を高めている。サイドボルスターが立ち上がり、身体は完璧なドライビングポジションに落ち着く。
日常的な速度域では、M5は静かで大人しい。2段ギアを落とし右足へ力を込めれば、V8エンジンが文化的な響きを奏でつつ、路面を蹴りながら猛進し始める。
サウンドには厚みがあるが、メルセデス・ベンツE 55 AMG程のマッスル感はない。高回転域へ迫るほど、レーシングカーのように甲高く変化していく。
スポーツモード・ボタンを押すと、ステアリングアシストが小さくなり、ストロークの長いアクセルペダルの反応が引き締まる。リニアに生成されるパワーは扱いやすく、6速MTのレバーはキビキビと操れる。筆者の背中がシートに押し付けられる。
コーナーへの侵入は、スポーツカーのようにキレキレ。感心するほどフラットで、反応は自然。連続するコーナーを流暢にこなし、一気に加速していく。4ドアの5シーターで、大きな荷室を備えた5シリーズだということを忘れてしまう。
アウトバーンを延々と高速で疾走するため
メルセデス・ベンツE 55 AMGに、そんな感覚は存在しない。明快にラグジュアリー・サルーンであり、ドスンと重厚に閉まるドアの印象から違う。静かな車内に身を置くと安心感が漂う。
レザーシートは今回の4台では最も柔らかく高級。整然としたダッシュボードと相まって、気持ちが鎮まる。右足をカーペットへ届くほど深く倒しても、大排気量のV8エンジンからは調律されたサウンドがにじむように広がる程度だ。
それでも、メルセデス・ベンツは威風堂々と一気に加速する。機敏に仕事をこなす5速ATと厚みのあるエンジン音は、当時のストレスフルな上級役員を癒やしてくれたに違いない。
バーズアイ・メープル材が用いられた、ダークカラーの落ち着いたトリムが施され、ステアリングホイールは上等なレザー巻き。シフトノブには誇らしくAMGのロゴが輝き、メーターパネルも通常のEクラスとは異なる。特別なサルーンだと静かに主張する。
走行時の安定性は高く、ギア比は長い。アウトバーンを延々と高速で疾走するために誕生したという事実を物語る。乗り心地はシルクのように滑らかで、運転は驚くほど簡単。コーナーでは4台のなかで最もボディロールが大きいものの、扱い難さはない。
ステアリングホイールへ伝わるフィードバックは多くない。少し気張ると、積極的にトラクション・コントロールが介入しドライバーをなだめる。
公道を飛ばせば、他の3台と同等のペースで目的地へ急げるはず。眼光も鋭いが、みだらなテールスライドは自制されている。
この続きは後編にて。
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