■スバル2代目「レヴォーグ」の魅力とは
筆者(山本シンヤ)は、年間数百台のモデルの試乗をおこなっており、最近の日本車の著しい進化に驚くことが多いです。
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なかでも衝撃的だったのは、2020年にフルモデルチェンジされたスバル2代目「レヴォーグ」で、試乗した際には先代モデルが一気に色褪せてしまうほどの向上性を感じました。
とくに最上級グレードの「STIスポーツ」「STIスポーツR」は、バランスよく盛り込まれた総合力の高さが魅力で、日本市場に注力したモデルではありますが、世界に通用する実力を備えているといえます。
フルインナーフレーム構造を採用した「次世代SGP」の採用など、要因はいくつかありますが、なかでも重要な役目を担うのが、減衰力を走行状態に応じて可変させることができる「電子制御連続可変ダンパー」です。
レヴォーグには、ZF製のCDC(Continuous Damping Control)が採用されており、2021年11月に発表された新型「WRX S4(STIスポーツR)」にも同じシステム(セットアップは異なる)が採用されています。
世界には数多くのサスペンションメーカーが存在しており、純正採用が多い、アフターマーケットに強い、モータースポーツに強いなど、メーカーによってもさまざまな特長がありますが、ZFはどのカテゴリーでも成功を収めるブランドのひとつとなっています。
クルマに詳しい人でもZFとダンパーが結びつかないという人もいるかもしれませんが、その起源は「ザックス(SACHS)」といわれるとピンと来るという人もいるでしょう。
ザックスは、1895年に創業し1929年に自動車用ダンパーの開発製造を本格的に開始した長い歴史があり、2001年にZFの傘下となりました。
現在は純正採用品が「ZF」、アフターマーケット品が「ザックス」とブランドが分かれています。
※ ※ ※
ここで改めてダンパー(ショックアブソーバーとも呼ばれる)について簡単に解説していきましょう。
ダンパーはサスペンションの構成部品のひとつで、スプリング(ばね)とセットで使用されます。
スプリングの弾性を用いて路面からの衝撃を抑えますが、ダンパーは元に戻ろうとする復元力による振動を吸収するのが基本的な役目です。
乗り心地の確保に加えて、車体の姿勢や操縦安定性もコントロールできることから、クルマの乗り味を決める重要な部品のひとつといわれており、そんなダンパーの性格を決めるのが「減衰特性」です。
多くのクルマに使われるコンベンショナルなダンパーは、減衰特性が基本的には固定式で、内部のバルブやシム、オイルなどを上手に活用してハンドリングと乗り心地のバランスを整えています。
ダンパーの役目はどのメーカーの商品も同じですが、ZFダンパー装着車に乗ると「足がよく動く」、「スムーズ」、「シットリ」、「雑味がない」と言った印象を強く受けます。
ダンパーの良し悪しは「精度」だという人もいますが、実際はどうなのでしょうか。
これについて、ゼット・エフ・ジャパン(以下:ZFジャパン)株式会社のダンパーのエンジニアリング担当である山崎仁氏に伺いました。
「基本的な構造や構成部品のバルブやオイルなどは、他社と変わらないと思います。
もちろん、純正装着していただくためには性能だけでなくコストも非常に重要な要件となりますので。
そのなかで、ZFの強みは何かというと、『セットアップをおこなう人のスキル』、『ユーザーの要求に正確に答える』ことだと思っています。
それはダンパーの開発・製造の長い歴史と、研究開発に掛けるコストの大きさが要因だと考えています」
といっても、そのバランスには限界があるのも事実であり、そこで開発されたのが減衰特性を可変させるダンパーです。
その最新版となるのが車両の走行速度、路面状況、クルマの動きをセンサーで検知し、電子制御で減衰特性を最適な状態に制御する「電子制御連続可変ダンパー」です。
ZFは1997年に市場に投入以降、さまざまなモデルに採用されてきましたが、2015年に世代交代。
現在は、減衰バルブが外付けとなる「CDCevo(イーボ)」と、減衰バルブ内蔵となる「CDCivo(アイボ)」を用意していますが、レヴォーグにはイーボが採用されています。
外付け式のメリットは、ストロークを多く取れることですが、サスペンション周りのレイアウトを考慮する必要もあります。このあたりはプラットフォーム刷新も後押ししたはずです。
ちなみにレヴォーグの走りの味付けは、スバルの開発チームが求める走りに対してZFのエンジニアがチューニングをおこなっています。
つまり、車両とのマッチングという意味では「レヴォーグベスト」な状態ですが、「CDC単体のポテンシャル」という意味でいえば、まだ調整幅はあるといいます。
■ZFジャパンが企画したという走行実験とは
そこでZFジャパンが企画したのが、CDCの応用性、可能性を知ってもらうためにノーマルのセットアップを拡張した特別な制御を作成、実際に体験してもらうという実験です。
試乗車のレヴォーグ STIスポーツは、タイヤ/サスペンションはデフォルトの状態で、助手席下に装着されているダンパー制御用のECUのみ専用品へと交換。
純正のダンパー制御はコンフォート/ノーマル/スポーツですが、今回の仕様はノーマル(純正スポーツ相当)、コンフォートは更にソフトな「コンフォート+」、スポーツはさらにハードな「スポーツ+」となっています。
クローズドコースはスラローム、大旋回、S字などを組み合わせたハンドリングコースとノーズダイブ/アンチスクォートを試す直線コース、そして乗り心地を試すスピードバンプを用意。
ここをノーマル/コンフォート+/スポーツ+の順でテストをおこないます。まずは基準となるノーマルで走行からです。
ワゴンらしからぬ一体感の高いハンドリングと、ワゴンらしいしなやかな足さばきによる快適性のバランスは、欧州プレミアムと比べたくなるレベルである事を再確認。
続いて、コンフォート+での走行です。快適性重視で走りは……と想像していましたが、いい意味で裏切られました。その印象は「背の低いアウトバック」です。
ステアリングを切った際の反応、コーナリングの一連の動きなどはノーマルよりも穏やかな方向ですが、だからといってダルさを感じる印象はありません。
姿勢変化は大きいですがタイトコーナーの進入などは前荷重にしやすい分、ノーズの入りはいいですが、その一方でリアの接地性はノーマルと比べると心もとないかなと。(といっても今回の速度域では十分なレベルでしたが)
快適性は、凹凸を超える際に薄皮が2枚くらい入っているかのようなまろやかなアタリと、「スッ」ではなく「ジワーッと」抑える吸収スピードで、STIスポーツであることを完全に忘れるレベルです。
最後はスポーツ+での走行です。走り重視で快適性は……と想像していましたが、コンフォート+と同じくいい意味で裏切られました。
その印象は「ワゴンのWRX S4」です。ステアリングを切った際の反応がよりダイレクトかつクルマの動きにキレがあります。
無駄な動きは抑えられているため、高速コーナーではより4つのタイヤを効果的に使えている印象で、まさにオンザレール。
ただ、前荷重にするのは少々難しく、コーナー進入のアプローチを間違えるとアンダーが顔を出します。
速度を上げて強めの荷重移動をするとその傾向は薄まりますが、今度はタイヤが音を上げてしまいます。
個人的にはもう少しグリップの高いタイヤをセレクトすればバランスは整うのかなと感じました。
快適性は正直期待していませんでしたが、想像以上に高いレベルでした。
かなり引き締められているものの、凹凸を乗り越える際に硬質な印象を与えない上に乗員を揺さぶらないショックの吸収のさせ方など、しなやかな硬さです。
そんなことからスポーツモデルと思えば乗り心地は良いと感じました。
このように、どちらのモードもわかりやすい特徴が出ましたが、筆者(山本シンヤ)が驚いたのは、単純に「●●一辺倒」ではなく、そのモードの中で性能がある程度バランスされていたことです。
その印象を前出のZFジャパンの担当者である山崎氏に聞いてみると、「振り幅は変えていますが、その範囲の中で減衰特性を連続可変させているからです」と教えてくれました。
それを確かめるために減衰力固定の状態で乗ってみましたが、コンフォート+はクルマが動き過ぎてフワフワ、逆にスポーツ+は動かなすぎで脳天突き破る硬さでした。
※ ※ ※
そろそろ結論にいきましょう。
1台のクルマに複数の走りの味を付加させることができるCDCの潜在能力の高さと、最新の制御技術の奥深さに驚く一方で、ノーマルのセットアップがレヴォーグのキャラクターや目指す方向性に合致していることもよく理解できました。
ただ個人的にはここまで振り幅を持っているなら、「走行ステージ/使用用途に合わせたカスタマイズメニューがあってもいいのでは?」と思ったのも事実です。
ここに関してはワークスチューナーであるSTIに挑戦してほしいところです。
今後はサスペンション交換ではなく制御の変更で乗り味をアジャスト、そんな時代がやって来るかもしれません。
ちなみに、ZFは次世代ダンパーの開発が進められており、そのひとつである「CDCrci(リバウンド・コンプレッション・インディペンデント)」は、伸び側/縮み側それぞれを独立した制御が可能だといいます。
つまり、今まで以上に「キャラ変」ができるわけで、今後ラグジュアリーカーとピュアスポーツを1台で実現するモデルが生まれてくるかもしれません。電子制御技術の将来に期待大です。
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