「自動運転」という表現が適切かという論議はあろうが、レベル2でのハンズオフを可能とした「運転支援」システムは、やっぱり「自動運転」と言いたくなる。
今、その最先端を行く3モデルを同時に走らせて、実際どんな場面で、どんな挙動をするのかをテストした。やっぱり、使ってみないとわからないことだらけだった!!
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※本稿は2021年7月のものです
文/鈴木 直也、ベストカー編集部 写真/ベストカー編集部 撮影/平野 学
初出:『ベストカー』2021年8月26日号
【画像ギャラリー】MIRAI レジェンド スカイラインと自動運転テストの様子をギャラリーでチェック!
■自動運転のレベルとは?
「自動運転」という表現はなかなか難しく、本来の意味で言えば、「自動運転」と言っていいのはレベル3の領域で限定された条件で実現されるもの以上を指す。
つまり、自動車に搭載されたシステムが運転の主体となって、ドライバーが運転操作に介在することなく、システムが文字どおり、自動で車両の運転制御をする状態だ。
自動運転のレベル分け
今現在、これを実現しているのはホンダレジェンドに搭載される「Honda SENSING Elite」のみ。
これとて、高速道路などの自動車専用道路上で、前後に他車がいる状態で、30km/h以下になった際(つまり渋滞中)にかぎってシステムが作動。
流れがよくなって50km/hになった時点でキャンセルされ、運転主体をドライバーにハンドオーバーする。
しかも、システムを搭載したレジェンドは100台の限定でリース販売のみ。一般的に誰もが購入できるというものではない。
今回テストに持ち出したのはそのレジェンドに加えて、あらたに「TOYOTA Advanced Drive」と名づけられたハンズオフ機能(手放し)を持った新システムを搭載したMIRAI、さらにハンズオフのパイオニアとも言える「プロパイロット2.0」を搭載するスカイラインの3台だ。いずれも高速巡行時のハンズオフが可能なシステムである。
ホンダ レジェンド
トヨタ MIRAI
日産 スカイライン
レベル2以下のシステムはあくまでも「運転支援」で、「自動運転」と呼ぶべきではない……、との声は極めて正しいのだが、ここでは高速巡行時のハンズオフ機能を持つシステムを便宜上「自動運転」と表現する。
■文京区は音羽から木更津までを往復 自動運転の使用感をチェック
テストは6月下旬の土曜日午前中。編集部のある都内文京区音羽を出発。近傍の首都高速護国寺から5号線で都心方面を目指し、都心環状線→箱崎JCT→9号線→辰巳JCT→湾岸線東行き経由で東関道へ進み、宮野木JCTで京葉道路へ転進。
渋滞の名所、穴川などを通過しつつそのまま接続する館山自動車道へ進み、木更津北インターで降りるというルート。
そして復路は木更津北インターからアクアライン経由で首都高湾岸線→レインボーブリッジを渡る11号線→浜崎橋JCTから都心環状線を少し走って汐留から八重洲線経由で都心環状線をショートカットして最終的に5号線を下って護国寺まで戻るルート。
土曜日の日中ということもあり、交通量はそこそこ多く、京葉道穴川付近では期待どおり渋滞も発生し、まさに自動運転テストにうってつけの道路環境であった。
3車ともに可能なかぎり「自動運転」機能を作動させ、ACCは制限速度に設定する、という条件。
鈴木直也氏をリーダーに、ライターの永田恵一氏、編集部ウメキが適宜3車を乗り替えながら実際の使用感をチェックした。
ハンズフリーでのトランシーバー会話で、随時各車の状態を実況中継でお届けしよう。
各モデル自動運転の使用感を実況中継!
●首都高速5号線
編集部ウメキ(以下ウメキ)「レジェンド、渋滞が始まったのにレベル3どころか、レベル2ハンズオフにもなりません」
直也「ミライもハンズオフにならないね。普通のACCにLKAが作動している状態。手を離すとすぐにアラートが出ちゃう」
永田「スカイラインも同様です。手放し不可です。しかも、ちょっと視線を外すと、前を見るようアラートが出ます」
直也「プロパイロットは、最初のハンズオフだから、ドライバー監視がシビアなんだね」
●首都高都心環状線
相変わらず渋滞が続き、ストップ&ゴーの繰り返し。
直也「おっ、ミライのハンズオフが機能開始した!」
ウメキ「レジェンドはまだダメですねー。ここでこそ、レベル3が作動してほしいのですが、微妙に渋滞中と判定してくれないのでしょうか?」
●首都高9号線
複雑な箱崎JCTは各車ともにハンズオフは作動せず。車線変更、分流、合流を繰り返して湾岸線に向かう9号線に入った。
ウメキ「レジェンド、制限速度にACCをセットしたら、すぐにブルーの表示になりました。ハンズオフOKです」
永田「スカイラインもハンズオフになりました」
直也「ミライもだねー!」
ウメキ「おおっと、木場を過ぎてタイトコーナーが連続する区間になったら、レジェンドはハンズオフがキャンセルになりました」
直也「ミライも同様!」
永田「スカイライン、まだハンズオフで行けてます!」
梅木「辰巳JCTに入る手前でステアリングのLEDが青からオレンジ点滅。ハンドル操作せよと言ってます!」
永田「スカイラインもです」
直也「ミライも同じだね。ジャンクションはドライバーにハンドル操作をさせるんだね」
●首都高速湾岸線~東関道~湾岸幕張PA
交通量はやや多いものの、渋滞はなく、この区間はACCを制限速度に設定すると、3車ともにほぼハンズオフでのクルージングを継続。
レジェンドとミライは、メータパネル内の表示で周囲に認識した車両がアイコンで表示されるのだが、ドライバーの認識どおりシステムが周囲を認識していることがわかり、非常に安心感が高い。
外環道と接続する高谷ジャンクション付近で渋滞が発生。
ミライはドライバーの感覚にマッチした減速感で渋滞追従に入る一方、レジェンドは比較的減速のタイミングが遅く、フットブレーキを踏もうかと思ったところで減速を開始。
スカイラインを運転する永田は「グイグイ行くからフットブレーキ踏みました」と。この渋滞で10km/hを切るだらだら状態になり、レジェンドはレベル3に移行した。
ウメキ「レベル3になったので、スマホ操作してもいいんですよねー」
直也「ミライ、ハンズオフに切り替わらないねー」
ウメキ「あっ、レジェンドも運転操作を求めてきました」
直也「高谷JCTの流入車線が左から合流してくるから、ハンズオフが切れるのかな?」
永田「スカイラインは先ほどからずっとハンズオフが生きたままです」
合流部分を通過すると、ミライはハンズオフが再作動、レジェンドは速やかにレベル3となった。
ミライのハンズオフが作動している時のインパネ表示。ACC設定速度と15km/h速度差が生じると、前走車追い越しを提案
こちらはスカイラインのハンズオフ時のインパネ表示。各車ともにブルーがハンズオフの合図
●湾岸幕張PA~京葉道路
PAでクルマを乗り替えて先を目指す。京葉道へ分岐する宮野木JCT手前から、穴川インター先までビッシリ渋滞。完全停車する時間も多く、レジェンドのレベル3が威力を発揮する。
永田「レジェンドなんですが、宮野木ジャンクションの分流車線に入ったところで、レベル3どころかハンズオフも終了しました」
ウメキ「こちらミライもハンズオフが切れました」
直也「スカイラインも同様。やはりジャンクション内はハンズオフさせないようだね」
ウメキ「ミライ、ジャンクション内でアドバンスドドライブモードが終了しました。ACCは再起動しましたが、追従での自動停止後の再発進はドライバーの操作が必要です」
直也「スカイライン、再発進は自動だね」
こののち、京葉道路の本線に合流するとミライ、スカイラインはともにハンズオフが作動、レジェンドはレベル3での渋滞走行となった。
この区間、貝塚インターに向けて、渋滞解消のために本線の左側に宮野木からの合流車線が、事実上の拡幅車線のように設置されており、この合流車線を本線にいるテスト車両より高速で追い抜いていくクルマが次々通過して行くのだが、このような場面でミライのハンズオフが一時的にキャンセルされることがあった。
レジェンドのレベル3やスカイラインのハンズオフは特に変化なく継続中。左側に新設されたばかりの合流車線をミライの高精細地図がフォローしていないのか?
●館山自動車道
京葉道貝塚インターを過ぎると渋滞は解消。各車、快適なハンズオフクルージングとなった。制限速度100km/hでACCを設定し、左車線を走行していると、80km/h程度で巡航する先行車に追従する場面もしばしば発生。
ウメキ「今、ミライのインパネに車線変更の提案が出ました。OKボタンを押してみます」
直也「トヨタのシステムは毎回承認を求めるんだよね」
永田「レジェンド、最初の車線変更提案にOKすると、以降は一定の条件を満たすと、自動的にウインカーが点滅して、ハンズオフのまま車線変更するんですよ!」
直也「そうそう。それってさ、渋滞時のレベル3以上に自動運転っぽさを実感するよね」
ウメキ「ミライは、OKボタンを押すとウインカーが自動で作動し、車線変更をするのですが、ハンドルに手を添えていないとダメです」
直也「そこがトヨタらしい。技術的にはできるんだけど、今の時点では徹底的にドライバーに承認を求める」
ウメキ「ミライは設定速度と前走車が10km/h程度の速度差だと車線変更の提案をしませんね。20km/hの速度差があるとバンバン提案してくる」
直也「速度差15km/hを追い越し提案の基準にしていると言っていたよ」
レジェンドは渋滞時のレベル3を実現したことで、高速巡行時のハンズオフドライブの洗練度が非常に高いのが特徴的だ
●アクアライン
木更津側から進むと、橋の部分は全車ハンズオフが作動。そのままアクアトンネルに入ると、数百m進んだ地点でスカイラインのハンズオフがキャンセルとなった。レジェンド、ミライは継続中。
これは、高精細地図とGPSでの位置情報をマッチングさせるプロパイロット2.0のシステムによるもの。
GPSを受信できないトンネル内ではハンズオフが作動しないのだ。センサーにライダーを持つレジェンドやミライとのシステムの差を感じる場面だ。
■そして結論 鈴木直也の考察
自動車評論家 鈴木直也氏
いわゆる「自動運転」について、皆さんはどんなイメージをお持ちだろう?
ここで、自動運転にわざわざカギカッコをつけたのは、それにはピンからキリまであるから。
クルマに詳しい方なら、「自動運転と言っても、クルマ側に制御の主導権が移るのはレベル3からでしょ?」と鋭い指摘が来そうだけど、実はそこにこそ自動運転技術の最重要ポイントがある。
米国SEAなどが定義した業界共通の基準によると、運転の自動化には0~5のレベルがあって、レベル2までは人間の運転を支援する機能。
つまり、最近よく聞くADAS(高度運転支援システム)のことで、これを自動運転と言っちゃうのはミスリードと言わざるを得ない。
では、「じゃぁ、レベル3からが本当の自動運転なの?」と問われると、実はそれもノー。
レベル3は所定の条件を満たした時クルマ側がすべての制御を引き受けるが、その条件から外れた時にはドライバーはいつでも運転に復帰できるようスタンバイしなければならない。あくまで「条件付きの自動運転」なのだ。
採点表
「なーんだ」と言うなかれ。
制御がクルマ側に移るということは、つまり事故などの責任もクルマ側が引き受けるわけで、自動車メーカーの立場で考えれば、巨大なリスクを背負うということになる。
だから、レジェンドのホンダセンシングエリート搭載モデルが、自動運転レベル3の機能を搭載して発売に踏み切ったのは、もの凄い快挙。
100台限定ではあるけれど、ここ最近のホンダ車のなかでは技術的に最も攻めたクルマだと思う。
こんなことを言うと、「でも、シリコンバレーでは完全自動運転の実験車を走らせてるんでしょ? 今さらレベル3程度で喜んでちゃガラパゴスなんじゃないの?」と突っ込まれそうだけど、そういう人は試作車・実験車と市販車・量産車の間にどれだけ大きなギャップがあるかを理解していない。
「市販を前提とした自動運転車」に世界でいちばんマジメに取り組んでいるのはトヨタだと思うが、彼らが熱心に取り組んでいるのは、最高速度を15km/h程度に抑えた低速モビリティ。
今まさにオリンピック選手村で実験中のe-Paletteがそれだ。
人間の生命を預かる自動車という商品はそんなに安易なものじゃないし、安全にかかわる技術は最も重要なコア部分。
「最悪の事態が起こっても死亡事故に至らないように配慮しないとレベル4以上の自動運転車を実用化するのは難しい」。おそらく、トヨタはそう考えているのだと思う。
こういうトヨタらしい慎重なスタンスは、ミライのアドバンストドライブ仕様にも反映されている。
ミライはハンズオフ時の車線変更時で必ずドライバーの承認を求める。レジェンドは1度承認すると、その後は自動で車線変更する
ミライ・アドバンストドライブ仕様ではライダー(レーザービームを使った3Dスキャナ)を搭載するとともに、AIソフトウェア処理の実行用にNVIDIAのプロセッサを載せるなど、ハード・ソフトともに最先端。
レジェンドと同様、市販車としてはかなり「攻めた」スペックと言っていい。
にもかかわらず、今回の仕様では自動運転レベル3の機能は搭載せず、制限速度+15km/hまでのハンズオフ運転支援など、いわゆるレベル2+にとどめている。
これは、事故の責任問題などを考えるとレベル3は時期尚早という判断があるのだろうが、それと同時に商品としてのコストパフォーマンスまで考慮しているところがトヨタらしいしたたかなところ。
レジェンドのホンダセンシングエリートが前後合計5個も大盤振る舞いしているライダーは、ミライ・アドバンストドライブはフロント1個のみ。
とりあえずのゴールをレベル2+に置いたことで高価なセンサー類などのコストを省き、ベース車プラス55万円のアップで購入できるよう配慮されている。
最初はレベル2+でコストを抑えた商品として普及を目指し、将来コストが下がった段階でハード/ソフトともにアップグレードによってレベル3に対応する。
エコカーの時と同じく、トヨタは自動運転技術も「数が増えないと意味がない」と考えているわけで、今の段階でそこまで配慮しているのは凄いと思う。
ぼくらは今回、レジェンド、ミライ、スカイラインの3台を集めて、日本車の自動運転技術がどこまで進んでいるのかを検証するためにこの企画を考えたのだが、やはり日本の自動車メーカーの底力は凄いと、あらためてそう実感した取材でした。
【番外コラム】教えて、直也さん!!
●「レジェンドのレベル3って、どんな場面で作動するの?」
世界で唯一市販車でレベル3を実現したのがレジェンド。このレベル3こそが、運転の主体がドライバーからシステム側に渡され「自動運転」となる。高精細地図がカバーする範囲であることが大前提。そのうえで高速道路などの自動車専用道路であること。そして走行速度が30km/hを下回った状態で、前後に他車がいる、つまり渋滞中であることが作動の条件。インパネ内の表示がグリーンからブルーになったらハンズオフ可能。50km/h以上になると、レベル3状態は解除される。
オレンジのランプの点滅はハンズオフキャンセルの合図だ
●「MIRAIは、なぜレベル3を目指さなかったのでしょう?」
そこがトヨタらしいところだとボクは思っている。実際ミライのアドバンスト・ドライブを体験すると、このままレベル3までやっちゃってもいいのでは? と思える完成度。でも、あえてトヨタは現時点では自動運転レベル3の機能は搭載せず、制限速度+15km/hまでのハンズオフ運転支援など、いわゆるレベル2+にとどめている。
これは、事故のケースなどを考えると自動運転は時期尚早という判断があるのだろうが、それと同時に55万円高という、商品としてのコストパフォーマンスまで考慮しているところがさすがトヨタらしいところなのだ。
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みんなのコメント
プロジェクトは根本から見直すと言ってるくらいだから重症みたいだなw
トヨタ信者は必死に擁護してるがトヨタは原因究明の矛先を委託業者に叩き付けてる頃だろw