未来の燃料のはずが… なぜ普及しない?
水素燃料電池電気自動車(FCEV)は、今まさに大舞台に登場するはずだ。欧州諸国を筆頭に、2030年から新車のICE車を順次禁止していくことが決まっている中、ガソリン車とディーゼル車には厳しい目が向けられている。
【画像】水素の未来はどうなる?【数少ないFCEVを写真で見る】 全100枚
2030年にICE車を禁止する英国政府は、排出量削減のため低炭素水素の製造に力を入れている(2030年までに年間5GW分の製造能力を確保する計画が昨年発表されたが、これは原子力発電所2基分の出力に相当する)。またFCEVは、ICE車からの移行に伴う航続距離や充電への不安を解消してくれる。では、FCEVは今どこにいるのだろうか?
当の英国では、主要自動車メーカーからわずか2台のFCEV(トヨタ・ミライとヒュンダイ・ネッソ)を購入することができる。昨年は、ミライが10台、ネッソが2台新車登録されただけだった。一方、バッテリー式電気自動車(BEV)は19万727台販売され、全体の12%を占めた。
水素燃料電池は数十年にわたり研究が行われているにもかかわらず、多くの自動車メーカーがこの技術から手を引いている。
ホンダは昨年、需要が少ないことを理由に、クラリティ・フューエルセルの生産終了を発表した。2020年には、メルセデス・ベンツが高コストを理由に、長年続けてきた「F-Cell」計画を中止した。
ゼネラル・モーターズは、水素燃料電池の用途を広げ、「陸・海・空」への導入を目指している。ジャガー・ランドローバーは昨年4月、排出量削減プログラムの一環として年末までにディフェンダーFCEVをテストすると発表したが、10月に燃料電池部門責任者のラルフ・クレイグ氏を失い、後任者の有無やテストの進捗については口を閉ざしたままだ。
そして、燃料電池を最も強力に推し進めてきたトヨタでさえ、この技術に対する野心を自動車から遠ざけている。欧州トヨタのマット・ハリソン社長はインタビューで、「乗用車の場合、正直なところ、燃料電池に大きなチャンスがあるとは思いません。(2030年までに)年間数千台といったところでしょう」と語っている。
では、何が問題なのだろうか。
立ちはだかる課題 大型商用車に光
FCEVは長い間、複数の問題に阻まれてきた。その最たるものが、水素補給インフラの不足である。例えば、英国には現在14基の水素ステーションがあるのみ。2000年代にトヨタがハイブリッド車に挑戦できたのは、新しいインフラを必要としなかったからだ。水素が身近な存在にならなければ、FCEVの魅力は失われる。
英国水素燃料電池協会(UK Hydrogen and Fuel Cell Association)のCEOであるセリア・グリーヴス氏は、BEVに焦点を当てすぎた英国政府にも責任があると主張する。「水素燃料電池のインフラと充電器とでは、サポートのレベルが桁違いです」
それから価格の問題もある。韓国の自動車メーカーであるヒュンダイは昨年、FCEVがBEVと同等の価格になるのは2030年と発表したが、バッテリーメーカーが今後8年間、立ち止まることはないだろう。
トヨタやホンダなども参画する水素協議会(Hydrogen Council)は、燃料電池(および最も環境に優しい水素を製造する電解槽)に必要なプラチナとイリジウムを、リチウムイオンバッテリーに必要なコバルトやニッケルと同等としている。しかし、バッテリー技術の進化によりこうした金属の必要性が徐々に減り、燃料電池に課せられたコスト目標はどんどん厳しいものになっている。
トヨタは、既存の内燃エンジンに水素を燃料として使用する研究を行っているが、ハリソン氏によると、この研究は今のところモータースポーツを対象としているという。「モータースポーツでの実験を経て、他のエンジンへの応用が可能かどうか、その判断はまだ先です」とハリソン氏。
しかし、乗用車用の燃料電池への期待が薄れる中、商用車、特にトラックでは現実のものとなりつつある。「水素燃料電池は、乗用車ではあまり期待されていない。しかし、航続距離と燃料補給の利点から、大型車は以前からこの技術の潜在的用途となってきた」と、市場調査会社IDTechExはEVの動向に関する最近の報告書に記している。
ヴォグゾールは来年、航続距離400kmの商用バン、ビバーロeハイドロゲンを発売する予定であり、ルノーは2023年に燃料電池バンを販売することを約束している。一方、水素トラックについては、ヒュンダイ、ダイムラー(ボルボと提携)などが研究を進めており、中国のハイゾンはすでに生産を開始している。
欧州トヨタはベルギーの研究開発センターで燃料電池を製造し、ポルトガルのバスメーカー、カエタノなどに供給しようとしている。英国では、ライトバスがロンドン交通局などの顧客向けに水素バスを製造している。
現在、提唱されているのは、いつの日か、今よりもずっと手間をかけずに燃料電池車を運転できるような「水素社会」の実現である。グリーヴス氏は、「今後10年間で水素がエネルギーの中心になると思います。これは、燃料電池車を再び議題に上げ、生産規模を拡大し、流通コストを削減する機会となるのです」と語る。
しかし、FCEVがBEVに奪われた勢いを取り戻すことができるかどうかは、重要な問題である。
水素は「未来のチーズ」?
水素燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて電気を作り、その副産物として水だけが発生する。しかし、水素をつくるには多くの電力が必要だ。その電力は風力などの再生可能エネルギーであることが理想的だが、そうでなければFCEVの意味がない。
BEVが主張するメリットは、クリーンな電気をそのままバッテリーに蓄えることで、多くのエネルギーを節約できるというもの。これに対するFCEVの反論は、再生可能エネルギーが多く発電されているとき(例えば、風の強い夜など)には、それを蓄電するバッテリーが足りなくなる可能性があるというものだ。
ヒュンダイの燃料電池事業部を率いるキム・セフン氏が、昨年9月の講演で「水素はチーズと同じような役割を果たすだろう」と主張したことは印象的だった。遊牧民が余った牛乳をチーズにして保存し、冬に使用したことを思い起こさせる例えである。彼は次のように述べている。
「水素は、風力や太陽光で発電した余剰電力を、大量に貯蔵できる(エネルギー密度の高い)水素に変換することができます。電気は牛乳のようなもので、水素はチーズのようなものです」
独自の観点から商業化図る企業も
FCEVの販売が進まないのは、メーカーが間違ったモデルを売ろうとしているからだと、英国の水素自動車メーカーであるリバーシンプルの創業者ヒューゴ・スパワーズ氏は考えている。
「トヨタやヒュンダイは、水素プログラムを推進していません。インフラがないからです。ミライのような都市間リムジンを作る場合、確固たる市場を形成するために300の充填ステーションが必要です。一方、ローカルなクルマを作る場合は、充填ステーションが1つあれば十分です」
リバーシンプルが開発しているFCEVのラーサは、2024年の生産開始を予定している。2人乗りのコンパクトなクーペスタイルで、航続距離は480kmと予想されているが、長距離クルーザーではない。ラーサは、顧客が住む特定の地域の水素ステーションで毎週充填することを念頭に設計されている。
同社は英国の各地方自治体、独立系燃料小売業者、水素ハブ開発業者であるエレメント2と協議し、水素ステーション設置に最適な場所、つまりラーサを最初に販売する場所を探している。「当社は、水素供給業者の強力なビジネスケースを作るために、8から10の発売場所を特定しようとしています」とスパワーズ氏。
「その市場に100台のクルマを投入すれば、100人の顧客を虜にすることができます」と自信を見せる彼は、この1か所のステーションが将来的に水素バンやバス、さらにはトラックを地元に引き寄せると期待している。
「これらの企業の需要を集中させることが、ビジネスケースを構築する鍵になります。水素自動車の早い普及を期待して、誰かが全国的なインフラを整備してくれると考えるのは、まったくの妄想です」
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みんなのコメント
ミライはチーズのように干からびてミイラになるだけだw