スタイルも走りも、そしてBEVとしても魅力的な仕上がりの日産アリア。ようやく街角でも見かけるようになったのだが、この魅力溢れるサスティナブルな存在で心地よく過ごすために考えなければいけないことが存在していた。それを探るため300キロのロングドライブに出た。
日常使いをチェックしなければBEVの本質は見えてこない
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季節柄だろうか、妖怪や幽霊にまつわる話題を耳にするようになった。日本の幽霊の話には、調べるほどに学びもあり、なかなか楽しい世界である。たとえば「幕末の三舟」の一人、山岡鉄舟が明治維新の際、国事に殉じた人々の菩提を弔うために建立した東京・谷中の全生庵と言えば、鉄舟ゆかりの品々だけでなく、数多くの幽霊図でも知られる寺院である。この幽霊図は幕末から明治にかけて活躍し、落語中興の祖と言われる大名人、三遊亭圓朝が怪談噺の参考とした集めたコレクションだ。その中には江戸時代中期に京都で活躍した天才画家、円山応挙が描いた幽霊画もある。実はその幽霊画には足が描かれていなかったのだが、これをきっかけに日本の幽霊画には、足を描かなくなった(諸説あるが)ことは、よく知られている。
それ以外にも日本の幽霊画は本来、供養のために描かれることが多く、絵師の名や印はないのが普通だったとか、幽霊が白装束なのは明治期までの喪服の色は白だったからとか、和装文化は白蛇信仰とも深く結びつくとか、色々と興味の範囲はどんどん広がっていく。そして、これまた定番の話に「幽霊は、なぜ柳の下にあらわれるのか」というものがある。ここには「万物は“陰陽”という、相反する性質に分けられる」と考える、陰陽説まで持ち出すことになる。古来、柳は神霊を降臨させる力があるといわれ、「陽」の代表木である。その木の下には当然のごとく「陰」とされる女性が、「陰」である手の甲を見せながら登場するのは、陰陽説に従えば、自然のこととなる。かりに「陽」である男性が「陽」である手のひらを見せながら登場したのでは、圓朝の落語並みの滑稽話にしかならないし、幽霊画としても成立しないだろう。この世は、なにごとも陰と陽から成り立ち、陰陽が相整うように成立していて、バランスを取っている、などと言う理を幽霊画からも学ぶことになるのである。
そんなことを思いながらドライブしていたのは、日産のバッテリーEV(以下BEV)のアリアだ。梅雨の走りを迎えたばかりの頃であり、雲の合間から時折、青空が覗くという不安定な空模様。そしてアリアでこれから向かうのは関越自動車道を中心に北上しながら新潟を目指すという320kmあまりのロングルートだ。この“東京~新潟”というルートは、ほぼ中間の約160km地点に三国峠があり、上り下りの勾配もそれほど違わす、スタート地点とゴール地点の標高もほぼ同じ。さらに高速道路と一般国道17号線が並行するように走っているため、日常的な燃費や一般道でのワインディングの走りなどをチェックするには、なんとも重宝するテストルートであり、少しばかりこじつけになるが、陰陽のバランスが取れている。今回はBEVということもあり、ロングドライブでの電費や充電頻度などに付いて知ることが出来そうである。
車として魅力を輝かせるために必要なこと
アリアと言えば日産にとって、リーフの続く第2弾のBEVモデルである。そのデビューは約2年前であり、先行受注限定車の予約受け付けを開始したのが1年前、そして最近、ようやく一般道でもわずかながらも目にするようになった。コロナ禍を始めとした半導体不足だけでなく、数多くの想定外の問題が影響してのデリバリー遅れであるが、メーカーにとっては、少々歯がゆさを感じる状況だろう。
確かに目の前にあるSUVフォルムのアリアはとてもスタイリッシュで魅力的な佇まいである。ボンネットフードの短さはエンジンを不要としたBEVならではの新鮮さを感じさせるスタイルである。もし都会派という表現を許して貰えるなら、確実に街乗りが似合うデザインである。そんなフォルムのアリアに乗り込み、いざ走りだしてみれば、低速から高速までよどみなく、実にパワフルに静かさを伴って加速する走りは、いかにもBEVならではの味わいであり、心地いい。敢えて難点を探せば「サスペンションの硬さ」を、路面の起伏や繋ぎ目を乗り越える際に感じる点だが、それとて許容の範囲内だった。なにより三国峠までを挟んでの、上り下りのワインディングでは、実に安定したスポーティなコーナリングを披露してくれた。
そんな走りを楽しみながら気が付くと新潟県の越後湯沢町に入り、すでに東京から190kmほど走行していた。スタート時点で90%だった充電量も40%を切っていた。今回のテスト車は「B6」と呼ばれるベーシックモデル。FF(前輪駆動)であり、駆動するモーターの最高出力は160kW(218PS)、最大トルクは300N・mで、リーフの大容量モデル「e+」と同じ。ただしリチウムイオンバッテリーの容量は4kWh大きく66kWhであり、WLTCモードでの一充電走行距離は470kmだ。この先は基本的に下りルートであり、計算上はゴールの新潟まで無事に走破できる。だが経験上、BEVは「充電量については、つねにゆとりを持って」が鉄則だと心得ていた。ガソリンの残量以上にバッテリー容量には、気を遣わなければいけない。
そこでBEVを始めとした電動車のテストでは必ず立ち寄る湯沢のホテルに設置された44kwの急速充電器に向かった。ここでまずは30分充電したが、80%までには届かなかった。そこで、他に充電待ちの車がいないことを確認した上で、俗に言う“お代わり”を行い、90%を越えるところまで復活させた。こうなれば確実にゴールにたどり着けるし、その後の取材もゆとりを持って行動できそうである。だがしかし、ここで1時間の充電時間を使ってしまい、このドライブのもうひとつの目的であった「クラシックカーイベント取材」への到着が遅れてしまった。最初から織り込み済みとはいえ、やはりこの充電時間はドライブプランに大きく影響する。
さらに言えば、今年の夏は火力発電量が大幅に減る予測から、強力な節電要請まで出てきた。円安は燃料費にも大きな影響を与え、一般家庭1週間分の電気を蓄えることが出来ると言われるBEVに、わずか1時間ほどで充電することが、果たしてサスティナブルなライフスタイルとして許されることなのか? 本来、再生可能エネルギーの発電が機能しづらい夜間に、火力発電を使って補うという発電システムが構築されていないと、BEVの本質的な魅力は維持できない。国は補助金を使ってBEVを普及させる前に、その予算を使って再生可能エネルギーシステムを中心とした発電インフラを創り上げることが必須だろう。さらに今後、アリアには91kWhの大容量電池を積む「B9」、そしてモーターを2基搭載する4WD仕様が両車にラインナップされる予定だ。つまり近未来の魅力溢れるBEVという「陽」の存在には、充電・発電インフラにまつわる数多くの「陰」が存在し、その陰をいかにして克服していくか? が足かせになっている。もう一度ここで冷静に議論しなければ、ひょっとするとBEVは、おぞましき亡霊のような扱いを受けるかもしれないのだ。
日産のディーラーにある急速充電機は約40~89kW出力が多く、最近では90kW以上もある。一方、コンビニや道の駅では20~40kWなど“中速充電”でさらに充電時間を要する。
東京から途中充電1回で、がんぎと呼ばれる独特の町並みが美しい新潟県の加茂市を無事に通過。
スエード風の素材とこれまたウッド風のパネルで構成された上質感ある室内。視認性や操作性も良く、快適なロングドライブをこなした。
エアコンの操作スイッチは木目風のパネルに埋め込まれ、未来的な雰囲気を醸し出している。
フロントノーズが短いSUVスタイルにもBEVならではなの未来感と、町に似合う雰囲気を醸し出している。
電動調整機能やベンチレーターなどを備えたナッパレザーのシート。セットオプションではあるが、快適なドライブには是非装備したい。
最終的なゴールは新潟県五泉市で開催されていた「クラシックカーイベント」の会場。アリアとは半世紀あまりも離れた車たちに囲まれ、「物を大切にすること」と「革新に乗ること」との陰陽についても考えてみた。
(価格)
5,390,000円~(B6/税込み)
<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,595×1,850×1,665mm
車重:1,960kg
駆動方式:FWD
トランスミッション:
モーター:交流同期電動機
最高出力:160kw(218PS)/5,950~1万3,000rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/0~4,392rpm
問い合わせ先:フォルクスワーゲンカスタマーコール 0120-315-232
TEXT : 佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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