世界の自動車メーカーがこぞってEVシフトへと進むなか、メルセデスベンツが新しい電気自動車ブランドのEQ(エレクトリック・インテリジェンス)を立ち上げ、量産EV第一弾となる「EQC」を2018年9月4日に発表した。
あのメルセデスが本気で新たなEVブランドを立ち上げ、満を持して発表したとあって、世界の自動車メーカーは戦線恐々として見ており、「EV界の勢力図を変えるかもしれない」と思われているのだ。
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はたして、メルセデスベンツの新型EVはどんなに凄いのか? 先行する(量産型EV販売台数世界一位である)日産、三菱グループのEVや、世界のEVと比べてどのように突き抜けているのか? モータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する!
文/岩尾信哉
写真/ダイムラーAG、ベストカーWeb編集部
■ベンツ初の量産EV、EQCはどこが凄いのか?
欧州での発売は2019年半ば、日本導入は早ければ2019年秋頃
2016年9月にフランスで開催されたパリ・ショーでダイムラーが立ち上げたEV専用の「EQ」ブランドは、BMWの「i」、VWの「I.D.」などの2020年代に向けたEVビジネスの核となる役割を果たすために生み出された。
さて、ダイムラーはEQブランドのEVコンセプトカー「Generation EQ」を登場させ、ほぼ1年後の2017年9月のフランクフルト・ショー(と続く東京モーターショー)ではコンパクトカーを想定した3ドアハッチバックの「コンセプトEQA」を発表。そして今年9月に他のドイツ勢に先駆けて、EV量産モデルとなるクロスオーバーSUV仕立てのEV「EQC」を発表した。
見た目からも想像されるとおり、EQCは「Generation EQ」の成り立ちを基本に、いちはやく量産モデルを作り上げた。ちなみに「EQC」は欧州では2019年半ば、日本へは2019年秋頃に発売が予想される。価格は日本円で900万円以上はするのではないだろうか。これに「EQA」がすぐに後に続くことになる。
前後車軸に1基ずつ備わる駆動用モーターなどを含む電動駆動部分のレイアウトやリチウムイオンバッテリーをプラットフォーム中央の床下への設置などに加え、「EQC」はいかにもダイムラーらしく、安全性については入念に仕立てられた。
EQCが前部にサブフレームを備えるのは、衝突時の安全性強化とともに、他のモデルへの使用を考慮して、モーターなどの電動駆動ユニットをボディに結合するためのモジュラー化の手法だろう。
■リーフや他メーカーのEVと、ベンツEQCはここが違う!
さて、これまでのEVと新世代EVの動的性能がどう違うのか。パワートレインのあらましを見てみよう。
モーターのスペックが明確にされていないとはいえ、スペックを見るとEVの性格が表れている。EQCは最大トルクで現状では最強クラスを誇り、0―100km/hの5.1秒は相当な実力といえる。
これを上回るのはこのクラスではシステムの最大トルクが967Nm(!)のテスラEV・モデルX P100Dの3.1秒だろうが、バッテリー容量が100kWhとEQCの20kWh増し。2504kgの車重がEQCと同等なのはアルミボディがバッテリーの増加を相殺しているからだろう。
バッテリー容量といえば、4WD のEQCが80kWh、e-tronが95kWh、ジャガーIーPACEが90kWh、FWDのリーフが40kWh、RWDのi3が33.2kWhということで、標準的な値が見えてくる。
航続距離について触れておくと、リーフとi3がJC08の航続距離が同等なのに、i3のNEDCの値が290~300km(タイヤサイズで変化)、WLTPが235~255kmのデータとなることを考えれば、ボディの大きいEQCやe-tronの値が“旧世代”の性能を超えていることが想像できる。
リチウムイオンバッテリーの構成は、72セル×4モジュールと48セル×2モジュールの384セル、最大電圧は408V、最大電流が210Ahとされ、バッテリー総容量は80kWhと日産リーフの倍に達する。バッテリーの重量は650kg、航続距離は約450m(NEDC値)。車重は2425kgとされる。電力消費は暫定値ながら22.2kW/100km(当然だがCO2排出量は0g/km)。
いっぽう、日産リーフのバッテリー重量は約300kg、最大電圧は約400V、航続距離はJC08モードで約400km、NEDC(欧州複合モード):235マイル(約380km)。車重は1765~1795kgとされているが、EQCでは2.5トンを超える重量をカバーするために、多くのバッテリーを積まなければならかった事情が見えてくる。
■日産/ルノー/三菱の目論見
メルセデスがEV市場で高級車ブランドとしての質の高さで勝負するとすれば、アライアンスの量的効果を利用してEV市場で戦おうとしているのがルノー/日産/三菱連合だろう。
2018年6月に日本国内で10万台を達成した、世界初の量産小型EVであるリーフだが、意外にも登場から8年ほどを経過しても、EVとしてのモデルバリエーションは限られたままだが、ルノー/日産/三菱グループは、ルノーと日産については、確実にアライアンスの効果が表れ始めている。
ルノーと日産が共同開発したCMF(Common Module Family)は前後ボディとフロア、電子機能アーキテクチャーを分割したモジュール構造を設定、A、B C/D用に組み合わせる設計が施されている。
アライアンス内では2013年に発表されたエクストレイルを手始めに、ルノーメガーヌなどのモデルにも採用され、今後はCMFの手法を採用したEV専用のプラットフォームも導入される予定。新たにアライアンスに加わった三菱もCMFを使用することになる。
現状では目立った動きは見られないとはいえ、三菱の役割が今後のEV戦略において重要になることは必然といえる。
だが、MQCやアウディが発表した量産EV「e-tron」を見ればわかるように、最近の流行にのって、売りやすくバッテリー搭載が容易なクロスオーバーモデルによって、欧米市場でのEV販売を拡大していくとすれば、EVの前後輪のモーター駆動制御のノウハウは欠かせない。
これはアライアンスの中では三菱だけがもつ“売れ筋”の技術であり、ルノーと日産に駆動力の精密な制御が可能な後輪モーターシステムを備えるモデルは存在しない。三菱が日産傘下に入って約2年、三菱のもつ電動化技術をEV開発にどう活かせるかが、アライアンスのEV市場での浮沈のカギを握ることは間違いない。
■ダイムラーのお家事情
ダイムラーはメルセデスベンツブランド用プラットフォームとしてMFA(Modular Front-wheel drive Architecture/前輪駆動、A/B/CLA/GLA)、MRA(Modular Rear-wheel drive Architecture/後輪駆動、C/E/S)、MHA (Modular High Architecture/SUV)、MSA(Modular Sports car Architecture、SLK/SL)の4種を設定、各モデルに対応している。「EQ」ブランドの基本プラットフォームとして新たに加わるMEA(Modular Electric Architecture)の使い道に微妙な要素が残されているのは、EQブランドの独立性に関わってくるからだ。
ダイムラーは2022年までに10車種のEVの投入を計画しており、大型高級セダン「EQS」を開発中であることも明らかにされている。
ただし、モデルチェンジを控えている“本家”のCクラスは「MRA2」という新プラットフォームが導入され、EV仕様はラインアップされずハイブリッド仕様のみが用意されるという話があるなど、EQブランドとして数をこなせる欧州市場のC/Dカテゴリーにどう対応するのか、思案のしどころといえるだろう。
■EQCは各メーカーがビックリするほどの突出したEVではなかった!
ルノー/日産/三菱のCMFについても、実はEVについては明確に示しておらず、リーフ用のプラットフォームをリニューアルするのか、個々のプラットフォームに対応して電動化するのか、流動的な部分がある。
今回発表されたEQCは、完成度はさすがメルセデスと思わせるが、ルノー/日産/三菱、さらにはBMW i、アウディeーtronなど量産EVメーカーがビックリするほどの突出したEVではなく、さすがにEVの世界地図を変えるほどではなかった。今後、続いて登場する3ドアハッチバックのEQAの登場が本命かもしれない。
いずれにせよ、どの自動車メーカーも2020年代の電動化推進に向けて模索中であり、「i」ブランドで先行しているBMW、追い上げを見せるVW/アウディ、アライアンスの量的効果で勝負を挑む日産/ルノー/三菱、そしてトヨタが後発として“究極の後出し”をどのように仕掛けるのか、EVを巡る生き残りをかけた勝負が今まさに始まろうとしている。
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