マツダは2018年6月の株主総会において社長交代が確定した。クリーンディーゼルなどSKYACTIVテクノロジーで復権したマツダ。それを支えた小飼雅道社長。
後任となる丸本明副社長の選出は驚くものではなく、極めて「順当」ともいえる人選だったとも言われている。マツダが新体制になり、今後どう変わっていくのか?
クルマを開発する”志”とは? 異能の開発者が選ぶ真に”志”を感じるクルマ
そしてマツダのアイデンティティであるロータリーエンジンはどうなるのか、迫ります。
文:福田俊之/写真:ベストカー編集部
ベストカー2018年8月10日号
■マツダの構造改革プランは継続される
6月末に株主総会を終えた上場企業で、今年も多くの新社長が誕生した。
「勝つか負けるか」ではなく「生きるか死ぬか」という厳しい経営環境の中で「100年に1度の大変革期」に直面する自動車メーカー。
そのなかで売り上げ規模(約3兆4000億円)もほぼ同じでお互いに独自性を追求するクルマ作りで競うマツダとスバルが、偶然にも時を同じくして社長交代を行い、新しい経営体制がスタートした。
だが、両社はスタート時点から明暗を分ける形になった。度重なる不正検査問題で揺れるスバルは、新体制発足直前にも新たな不正が発覚し、実力会長に君臨するつもりだった前任の吉永泰之氏は代表権と最高経営責任者(CEO)を返上。
吉永氏は交代前の新型フォレスターの発表会にも姿を見せず、辣腕をふるった在任7年の最後の花道を飾ることもできなかった。
いっぽう、マツダは小飼雅道社長の会長就任と丸本明副社長の社長兼CEO、それに藤原清志専務の副社長昇格などの首脳人事を発表。
その2週間後には、大幅改良したアテンザのお披露目会を瀟洒な建物の小笠原伯爵邸で華々しく催した。
在任中、独VWなどのディーゼル排ガス不正問題の逆風を受けたが、2017年度の世界販売台数は163万台を超えて過去最高を更新するなど、安定的な成長路線を築いた小飼氏にすれば有終の美をもって会長に退くことができたと言えるだろう。
ただ、外野席から見れば、大抜擢などのサプライズはなく「順当」すぎるほどの新体制に少し物足りなさも感じるが、今後のマツダの経営戦略を考えると、それ相応の人選と交代時期についても賢明な選択だったとも受け取れる。
小飼氏の社長在任5年は2019年3月期を最終目標とする新世代技術のSKYACTIV商品の導入や「モノ造り革新」によるコスト改善とトヨタ自動車とのアライアンスで米国新工場建設など量的・質的成長を目指す「構造改革プラン」を推進してきた。(TEXT:福田俊之)
■小飼会長は勝ち投手の権利を手に、リリーフに勝利を託す
8月に満61歳になる新社長の丸本氏は小飼氏よりも3歳下で入社も3年遅いが、出世は5年も早く41歳という若さで取締役に就任するなど「将来の社長候補」として早くから一目置かれる存在だった。
しかも、2013年6月に小飼氏の社長就任と同時に副社長に昇格し、ナンバー2として北米事業や企画・管理領域を統括した。
言うまでもなく、丸本氏はステージ2の最終年度に入った一連の構造改革とその先の年産200万台規模を目標とする新たな成長戦略についても計画の立案段階から取り組んできたキーマン。
それだけに、新体制後もこれまでの経営方針を踏襲し、ブレることなく北米事業の立て直しを最優先課題に持続的成長への「足場固め」に邁進していくものとみられる。
では、なぜ、構造改革のステージ2をあと1年残す重要な仕上げの時期にあえて社長交代に踏み切ったのか。それは小飼社長の在任5年を野球に喩えるとわかりやすい。
ロータリーエンジンの開発で知られた山本健一元社長の口癖だった「飽くなき挑戦」の言葉を借りれば、マウンドに立つと常に全力投球を続けることになる。
どんなにタフな社長でも9回まで投げ切るには限界もある。先発投手はリードして5回まで投げると勝利投手の権利が得られる。
大きな失点もなく好投した小飼氏の場合も無理をせずに6回以降は、全幅の信頼を寄せる丸本氏にリリーフ役を託したというシナリオが成り立つ。
もちろん外的環境が激変するなかで救援投手のエースとして満を持して登板した丸本社長も試合終了までリードを保ったまま投げ切れるとは限らない。
マツダの歴史は「小さな成功、大きな失敗」の繰り返しでもあった。2年後の2020年には創業100周年、翌2021年には待望のトヨタと合弁の米アラバマ州の新工場が稼働する予定でイベントも目白押し。
「慎重派」と評される丸本社長だが、「技術」と「財務」に精通する"二刀流〟の強みを発揮し、マツダらしい身の丈に合った手堅い経営で独創的なブランドにさらに磨きをかけられるかが問われる。(TEXT:福田俊之)
■新社長はロータリー復活をどう見る?
ロータリー復活が期待されるマツダだが、判断はトップが下すもの。丸本新社長はどうだろうか。経営評論家の福田俊之氏はこう分析する。
「丸本さんは駆け出し時代に山本健一氏(元社長)の薫陶を受け"飽くなき挑戦"のスピリットを受け継いでいる人。
ロータリーへの思い入れも強いが、いっぽうでリーマンショックの頃から財務の経験を積み、外的要因の激変で経営環境が翻弄される苦しさも知り尽くしている。
それだけにGOサインを出すにも費用対効果を慎重に判断し、その時の外的環境がポイントになるだろう」
また、丸本新社長をよく知るマツダOBはこう証言する。
「ロータリーの開発をしている技術者の年齢が上がってきてもう後がなくなってきている。
丸本さんもそれはわかっているし、社員の思いを汲んでくれる人でもあるので、頭の片隅には常にロータリーのことがあると思う。
ただ発電用はともかくとして、ロータリースポーツは余裕がないとできないのも事実。悩ましく思っているんじゃないかな」
経営環境が許さないかぎり動けないのは当然。でも、ロータリーへの思いが強いのは確からしい。期待したい! (TEXT:ベストカー編集部)
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