この記事をまとめると
■農耕道具というイメージのトラクターだがアメリカでは競技が行われている
このカッコで闘えるんか!? モータースポーツ界の変わり種マシン4選
■参戦トラクターはチューニングを重ねられて原型を留めていないものも多い
■唯一無二の大迫力が魅力のモータースポーツだった
原型を留めていない魔改造トラクターが爆走!
トラクターといえば、畑を耕したりするのどかな光景を思い浮かべがち。ですが、トラクター・プリングという豪快な競技を見たら、そのイメージはなにかでっかいケモノが猛り狂っているものへと一変するかもしれません。とにかく、V8エンジン3基載せとか、タービンエンジン2丁がけなどと魔改造され、もはやトラクターのスタイルをなしていないマシンが疾走する姿は一見の価値あり。モータースポーツの本質的な魅力を感じることができるのです。
トラクター・プリング、直訳すればトラクターによる引っ張りということですが、そもそもは農耕馬による引っ張り競技を発祥とするものでした。その昔は「オラが馬っこが村一番の力持ちだっぺ」「いんや、ワシのアオ(馬の名前)が一等だ」みたいなことから、農耕馬に丸太や重しを載せたそりなんかを引っ張らせたわけです。時代が下り、農家にトラクターが普及すると、馬からトラクターへと変わっていったのも当然のことかと。ちなみに、この競技が馬力=ホースパワーの所以となったと唱える歴史家もいるようです。
そして、1969年になるとアメリカでは各地でまちまちだったルールを全米規格に統一する動きがあり、同時に競技団体「全米トラクタープーラー協会 (NTPA)」が設立され、「日曜日に引っ張って、月曜日に耕す」というモットーを掲げ、現在まで活動し続けています。
なんでもかんでも競技にしてしまうアメリカらしいものですが、実際はヨーロッパ各国をはじめ、オーストラリアなどでも似たような競技、団体が活動中とのこと。ちなみに、日本はばんえい競馬でいまも強力な農耕馬によるそり引きレースが行われていますけどね(笑)。
6000馬力!? ハイパーカーも真っ青のパワーウォーズ
さて、アメリカでトラクターといえば、その広大な農地から巨大なマシンというのがデフォかと。とはいえ、トラクター・プリングでは、アメリカらしく細かなレギュレーション、クラスわけがなされており、当然ストックのトラクタークラスもあるのですが、醍醐味といえるのは、やっぱり何でもありのカスタムクラス。
初期のころはストックエンジンの排気量アップくらいだったのが、トランスミッションの改造が可能となると一気にエンジンの複数化が流行。シボレーやらローデックといったハイパワー&高トルクエンジンを2基、3基と増やしていき、ひところはV8エンジンを7基搭載したモンスタートラクターまで登場していました。
また、ヘリコプターのエンジンや大昔の飛行機で使われた星形エンジンすらレギュレーションで許されており、エントラントのなかにはフロリダのファンタジー・オブ・フライト博物館などからビンテージの軍用機エンジンを仕入れてくる強者もいるのだとか(現在、そうした行為は多くの博物館から拒否されています)。
現在では使用燃料がメタノール、またはディーゼルに指定され、スーパーストックオープンと呼ばれるもっとも強力なエンジンを搭載したクラスでは6000馬力・5400Nmとけた違いなパワーとトルクを発揮。ディーゼルユニットのクラスでも5000馬力・8100Nmとハイパーカーどころの騒ぎではありません(笑)。もっとも、最大排気量も11リッターと、クルマというより貨物船みたいな数字ですけどね。
で、モンスタートラクターでなにを引っ張るかというと、走れば走るほど負荷が増すという特性の大型重量級のそり。これは静止時の重量ですら2~4トン近くに設定されており、走行距離が伸びるのに合わせて重しが前方に移動して漸進的に負荷が増す(最大では29トン!)という仕組み。で、このそりを牽引してどれだけの距離を走れたかによって順位が決まるわけです。
実際の競技はドラッグレース、いわゆるゼロヨンにも似ていて、単純にアクセル全開にすればいいってもんでもなさそうです。強大なトルクによって車体は大いに暴れるため、ドライバーは巧みなハンドリング、アクセラレーションが求められることは間違いないでしょう。
また、ドラッグと違ってスピードはさほど高くはないものの、重たいものを引っ張っている「力感」のようなものがヒシヒシと伝わってくるため、ばんえい競馬同様に思わず「がんばれ!」の声がもれること請け合いです。
最後に筆者の主観をお伝えすると、アメリカのモータースポーツ全般がどこか気さくでフレンドリーな雰囲気を醸している気がするのですが、トラクター・プリングは農産地を中心に普及しているためか、よりフレンドリーというか牧歌的な空気すら漂っていそう。エントリーの車名も「メイキン・ベーコン・スペシャル」とか「ミッション・インポッシブル」とか、なんとなく田舎っぽい(笑)。だが、そこがいい! 唯一無二のモータースポーツとして大いに気に入りました!
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みんなのコメント
エアロキングはV8で21.2リッターのエンジン搭載していた。
一昔前の大型バスは10リッター越えは当たり前だった。
同じ三菱ふそうのショーグンは26.5リッターもある。