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【新春企画】鈴木正文がセンチュリーに乗る、センチュリーを語る

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【新春企画】鈴木正文がセンチュリーに乗る、センチュリーを語る

トヨタの、というより日本車のフラグシップ・サルーンであるセンチュリーを試乗するにあたって、『GQ JAPAN』の鈴木正文編集長は、自身が所有する1992年型のベントレー「ターボR」を持ち込んだ。乗り比べれば、日本と英国、ひいては日本と欧米の、高級車に対する考え方の違いが浮き彫りになるだろうという目論見だ。

東名高速道路のとあるサービスエリアで、6.75リッターのV型8気筒エンジンを積むベントレーから降りた鈴木編集長が、センチュリーに乗り込む。

センチュリーに乗る、センチュリーを語る──小川フミオ編

運転席に座り、「パドルシフトがないんですね。それはショーファー・ドリヴンのサルーンとしてみればべつに不都合なことではありません、むろん。しかし、ベントレーから乗り換えるとステアリングホイールの径が、まるでドライバーズ・カーのように小さく感じます」という感想をさっそく語った。そして、センチュリーのインテリアへの感想を詳しく評価する前に、高級車の内装についての一般論を説く。

「1991年まで生産されたメルセデス・ベンツ Sクラスは“W126”というコードネームで呼ばれていますね。同時期の2シーターオープンのSLなどにも共通することですが、あのあたりまでのメルセデスのダッシュボードに使われていたウッドは分厚い1枚板の柾目でした。それゆえ、経年変化でクラックが入ると、1枚板のテーブルがそうであるように、クレバスみたいにパックリと深々としたヒビが入った。そのクラックがまた味わい深いのですが、ドイツものらしい朴訥で正直な、原素材のごまかしのきかない力強さを、敢えてそのまま表現したインテリアでした」

一方、イギリスの高級車にはまた別の流儀があるという。

「ロールズ・ロイスやベントレーは、左右対称のインテリアにこだわります。これは様式的なこだわりです。薄く削いだ木材を何枚も貼り合わせた台座というか基礎となるウッド合板の表面を化粧板で覆っているわけですが、その表面に使われるベニヤの木目を、パネルごとに、ドアのインサート・ウッドパネルもふくめて左右対称にしています。しかも、左右ドアのウッドパネルはおたがいに向き合ったときに鏡のように対称な木目です。これをミラー・イフェクトといっていますが、幾何学的対称性をどこまでも追求している。それが様式美である、と、そういうことなんですね。このウッド・パネルの場合、経年変化によるクラックは、割れ目というよりはシワのようなヒビになる。それはそれでいいものですが、もしかすると、日本の陶器のヒビや割れ目を修復する「金継ぎ」のようなことをするとさらに味わいが深まるかもしれません。いずれにせよ、メルセデス・ベンツにはメルセデス・ベンツの、そしてロールズ/ベントレーにはロールズ/ベントレーの、みずからの様式にたいする執着がある、ということです」

と、一気に述べたあと、こう問いかけた。

「果たして、このセンチュリーのインテリアにおける様式美とはなんでしょうか?」

そうして鈴木編集長は、もう一度、センチュリーのインテリアを眺める。

「このインテリアに特定の、意志的な様式を発見することは僕にはできませんでした。運転席から眺めるかぎり、使われているという“タモ材”はきれいな柾目が通った選びぬかれた部所のもので、磨き込みも丁寧になされていて品質感は高いですね。ウッドに濃淡があるのは意図したものでしょうが、文様の幾何学的な対称性とか、濃淡のリズミカルな反復というところまでは意識されていないように見えます。ナチュラルな味わいを大切にしたということなのでしょう。それはそれで自然をそのまま享受するという日本的な感性が表れ出たものなのかもしれないですね。グレイのウール・モケットの表皮のシートはいいですね。もとはといえばレザーの表皮は、ヴィニルが出現するまではその耐久性ゆえに使用されていたもので、べつだん高級素材ではなかったわけですから、質の高いファブリックを使うのは正しいのです」

なるほど……。と、ここで鈴木編集長は、アクセルペダルを踏み込む。そして、小さくうなずいた。

じつはドライバーズカーかもしれない?

「5.0リッターのV8エンジンにハイブリッドシステムを組み合わせたパワーユニットは、モーターの手伝いもあって発進時からトルクがあって余裕を感じますね。このようにスロットル・ペダルを浅く踏み込むだけでスッとスムーズに加速していくのは、高級車にふさわしいと思います。少ししかペダルを踏んでいないのにグワッと出たり、反対に反応が遅れてもたついたりするのではいけません。後席の大事な御仁の上半身が加速や減速のたびにカックンとなっては台無しですから」

高速道路の本線に合流するため、編集長はアクセルペダルをグイと踏み込んだ。するとV8エンジンは、“シュン”という軽い回転フィールとともに回転を上げる。

「このエンジンはV8らしく上まで回すとけっこうワイルドですね。スムーズに軽く回っていきます。レヴ・カウンターがないので当てずっぽうでいいますが、5000rpmぐらいから上のサウンドはアドレナリンものです。車重が約2.3トンもあるとは思えないほどの軽快感があるのは、カタログでは6200rpmで最高出力を発揮するというこのV8エンジンの滑らかな回転フィールによるところ大だと思います。さて、運転席での乗り心地は合格です。ただ、このクルマのオーナーと目される人の居場所である後ろの席に座ってから総合的に判断しましょう」

というわけで、次にリアシートに座り、ひとしきり乗り心地や静粛性をチェックした。ここで鈴木編集長が指摘したのは、フロアマットとレースのシートカバーの感触。ちなみにフロアマットは手織りの高級敷物として知られる丹後緞通で、シートカバーの素材も高級なレースだ。ともに「いいもの」感たっぷりという。

こうして後席における和のもてなしを経験したあとに、再び運転席でステアリングホイールを握る。

「乗り心地は、後席より運転席のほうが良好でした。大きなギャップを越えた時の大きな入力にたいしては、エアサスが短い時間で上手に処理する様子が伝わってきます。しかし、小さな不整の処理については後席側はあまりうまくいってないように感じました。小さいショックに対する反応が渋いのか、ちょっとコトコトして落ち着きがよくないときがありますね。ドライバーの立場でいうと、パワーステアリングは電動式ですが、油圧式と遜色のない手応えを提供していて、なかなかいいと思いました」

そして箱根のワインディングロードに入ると、鈴木編集長のセンチュリーに対する評価が定まったようだ。

「このクルマは、決然と運転すると、ドライバーズ・カーとしてすぐれている点が見えてきます。60~80km/hぐらいの、ある程度のスピードから強めにブレーキを踏んでもノーズが不自然に沈み込むことがないし、タイトなコーナーでパワーを与えるとコーナリングパワーが自然に立ち上がります。スポーツカーとはもちろん違うとはいえ、ステアリングであれ、スロットル・ペダルやブレーキ・ペダルにたいする操作であれ、ドライバーの入力にたいして過大でも過小でもない素直な、ほどよい出力があるのは美点ですね。その意味では、ショーファー・ドリヴンに用途を限定せずに、オーナー・ドライバーが運転してもいいのではないでしょうか。となると、トランスミッションがe-CVTなので、積極的にシフトしやすいパドルシフトがあるとなおいいんじゃないでしょうか(笑)」

というわけで、編集長は、センチュリーであっても積極的に運転することをより好むのであった。

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