長く使っても「古く見えない」
霊柩車といえば、おみこしのような装飾が施されたクルマをイメージするかもしれません。しかし、こうした「宮型」と呼ばれる霊柩車は近年数を減らし、欧米風の装備や装飾を施した「洋型」や、ミニバンタイプの霊柩車が増加しています。
そのような状況のなか、霊柩車の製造・販売を強化しているのが光岡自動車(富山市)です。同社はクラシカルな見た目の改造自動車で知られますが、自社オリジナル車両も手掛けており、「日本で10番目の自動車メーカー」とされています。2015年には、国内自動車メーカー初のオリジナル霊柩車として、同社の「ガリュー」をベースとした「ミツオカリムジンタイプV」などを発売。その後も、トヨタ「アルファード」や「エスティマ」をベースとした寝台霊柩車「フュージョン」シリーズを発表するなど、ラインアップを強化しています。同社に話を聞きました。
――いつごろから霊柩車に力を入れているのでしょうか?
もともと、1990年代にアメリカで霊柩車として改造されたキャデラックやリンカーンの並行輸入車を販売し、売れ行きがよかったことが背景にあります。その一方で、当社の「ガリュー」を改造した霊柩車も巷で見かけるようになり、2000年代前半から当社自身でも霊柩車の架装を始めました。表立って力を入れ出したのは5年ほど前、葬儀や終活関連の大きな展示会に出展するようになって以降です。
――現在のシェアはどれほどなのでしょうか?
霊柩車市場におけるシェアは約20%で、業界では2位です。2018年度は180台(対前年比で約20%増)の販売を目標としています。
――どのようなタイプの霊柩車が人気なのでしょうか?
「ガリュー」ベースの霊柩車がメインです。ほどんどの葬儀社さんが1台の霊柩車を20年程度使うなかで、たとえば「クラウン」をベースにしたものだと6 7年程度で新モデルに切り替わり、古さが感じられてしまいます。一方で「ガリュー」などの当社オリジナルモデルをベースにした霊柩車ですと、もともとがクラシカルなので、古さがあまり目立たず飽きがこないというお声をいただいています。
また、たとえば「ガリュー」をベースとする5名乗車タイプの霊柩車と「リンカーン」ベースの輸入車とで比較すると、後者は価格が1.5倍程度高いので、リーズナブルな面も支持されているでしょう。
一方、既存のミニバンを架装した寝台霊柩車「フュージョン」シリーズも販売台数が伸びています。これらは車内にストレッチャー(担架)を備えており、病院などからご自宅または安置場所へご遺体を運ぶ搬送車としても、霊柩車としても使用することができます。葬儀専用の霊柩車を購入しない葬儀社さんもありますが、搬送にも葬儀にも使えて、家族葬でも恥ずかしくないクルマとして選ばれるケースが増えています。
今後はミニバンタイプが主流に? 変わる葬儀のあり方
――今後についてはどうお考えでしょうか?
今後はミニバンタイプのように、搬送にも葬儀にも使えるタイプが増え、いずれ「ガリュー」ベース車のようなボディを切って伸ばすタイプ(ストレッチリムジン)の霊柩車が減少していくと見込んでいます。葬儀件数は微増しており、それにともなって車両の台数も増えていくと考えられますが、霊柩車が葬儀単価に見合わなくなっていく傾向も考えられます。
というのは、亡くなられる方の平均年齢が伸びていますので、(故人の年齢に近い)参列者を呼んでもなかなか来られないというケースが増えているからです。すると必然的に家族葬など小規模な葬儀が中心になっていきます。当社が拠点を置く富山県内でも、たとえば300人収容の大ホールを、100人収容の3ホールに改装するといった葬儀場が出てきています。
※ ※ ※
そもそもなぜ、旧来の「宮型」霊柩車が減ってしまったのでしょうか。遺体を搬送する運送事業者の団体である全国霊柩自動車協会(東京都新宿区)は以前の取材時、葬儀価格の低下により料金の高い宮型の使用が減っていること、宮型霊柩車の乗り入れを禁止している自治体があること、家族が亡くなったことを周りに知られたくないという施主の気持ちの問題を挙げていました。葬儀のあり方が変化するなかで、霊柩車の需要も今後さらに変化していくのかもしれません。
ちなみに、光岡自動車はアジアを中心に霊柩車の輸出も手掛けており、こちらはほとんどが「ガリュー」ベースのクラシカルな霊柩車だそうです。「現地では欧米の輸入車や、自国で改造した霊柩車も活躍していはいるものの、当社モデルのようなクラシカルな霊柩車は少ないことからご満足いただいています」とのこと。いまや日本で開催される終活関連の展示会は、来場者の10人にひとりはアジア系の人で、日本の葬儀形態が参考にされていると話します。
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