この記事をまとめると
■クルマのブレーキは前後でサイズが異なることが多い
ボディは汚れてないのにホイールだけ真っ黒になるのはなぜ? クルマ好きを悩ませる「ブレーキダスト」の正体とは
■リヤブレーキが小さいケースが多いのは挙動を安定させるためだ
■最近は電子制御されていることが多く前の荷重が大きい場合がほとんど
後ろだけ小さいブレーキローターを採用する理由
普段なにげなく見ているクルマのブレーキ。しかし、ちょっと意識して見てみると、フロントとリヤでブレーキのサイズがまったく異なることに気付くだろう。とくにスポーツカーやハイパフォーマンスモデルでは、その差が顕著に表れる。なぜ、このような違いがあるのだろうか?
<制動時の重量移動が鍵を握る>
クルマが減速する際「ノーズダイブ」という慣性により車両の重量が前方に移動する現象が起こる。これにより前輪にかかる荷重が大幅に増加する。エンジンやトランスミッションが前方に配置されている一般的なクルマの場合、車両の設計や状況によっても異なるが、通常走行時は前後重量配分が60:40程度で、急ブレーキ時には80:20程度まで前側の荷重が増えるとされている。
この重量移動により、前輪には後輪の数倍の制動力が必要となる。そのため、前輪には大径のブレーキディスクと大型のキャリパーを装着し、より大きな制動力を確保する必要がある。ちなみにディスクブレーキは、ローター(回転する金属円盤)とキャリパー(ブレーキパッドを保持する部品)によって構成され、ブレーキパッドがローターに接触することで減速効果を得る。
<なぜリヤブレーキを大きくしてはいけないのか>
「それなら後ろも前と同じサイズにすればいいのでは?」と考える人もいるだろう。もちろんポルシェ911のようなリヤエンジン・リヤドライブ(RR)の車両やミッドシップレイアウトの車両では、前後ブレーキのサイズ差が小さくなることがあり、なかには前後ブレーキのディスク径が同じサイズになっている車両もある。
しかし、一般的なクルマの場合、リヤブレーキが大きいと重大な問題が発生する。なぜなら後輪に過剰な制動力がかかると、後輪がロックしてスリップしやすくなり、車両の挙動が不安定になるおそれがあるのだ。荷重の軽い後輪がロックしてしまうと、車両が横滑りを起こす「スピン」の危険性が高まる。これは極めて危険な状況であり、事故につながる可能性も高い。そのため、意図的に後輪の制動力を制限し、車両の安定性を確保しているのである。
電子制御が発達しても制動力配分は変わらない
<最新技術による進化>
近年の電子制御技術の発達により、従来の機械的な制動力配分に加えて、電子制御による精密な制動力制御が可能となっている。
たとえば、最新のABS(アンチロック・ブレーキ・システム)やESC(横滑り防止装置)は、各輪の回転速度や車両の挙動をミリ秒単位でモニタリングし、最適な制動力を配分する。さらに、回生ブレーキを備えた電気自動車では、モーターによる制動力も加わることで、より効率的な制動が可能となっている。
また、カーボンセラミックブレーキなどの新素材の採用で、より軽量で高性能なブレーキシステムの実現も進んでいる。ただし、これらの先進技術を採用しても、前後の制動力配分の基本的な考え方は変わっていない。
このように、クルマのブレーキシステムは、単に大きければいいというものではない。車両の特性、重量配分、用途、コスト、そしてなにより安全性を総合的に考慮して設計されている。フロントブレーキが大きいのは、これらの要素を最適化した結果なのだ。
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みんなのコメント
物理原則が変わらない以上、基本的な制動力配分が重量配分に従うのは当然のことです。