かつては大型ミニバンの代名詞といえばヴェルファイアというほど人気だったにも関わらず、近年は売り上げが下がり、アルファードの一人勝ちとなっている。
なぜ、ヴェルファイア人気は下降してしまったのか? 最新大型ミニバンの最新事情に迫る!
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文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部
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■なぜこんなに差がついた? アルファード&ヴェルファイア
トヨタ高級ミニバン兄弟の弟分ヴェルファイア。いまやその売り上げはアルファードの7%と見る影もない
アルファードとヴェルファイアは基本的に同じクルマだが、登録台数では大差が付いている。2021年1~10月の1か月平均登録台数は、アルファードが約8400台、ヴェルファイアは約600台だ。ヴェルファイアはアルファードの7%しか売られていない。
初代アルファードは、Lサイズの上級ミニバンとして2002年に発売された。この時はアルファードGがトヨペット店、アルファードVはビスタ店(ネッツ店の前身)の取り扱い車種だった。両車の違いはほとんどなく、純粋な姉妹車であった。
このアルファードが好調に売られたので、2008年に実施されたフルモデルチェンジでは、新たに姉妹車のヴェルファイアを加えた。トヨペット店が販売するのは2代目アルファードだが、ネッツ店の取り扱い車種は、アルファードからヴェルファイアに変更された。
ヴェルファイアとアルファードのグレード構成と価格は基本的に同じだったが、フロントマスクなどの形状は異なる。
アルファードは従来と同じフォーマルな雰囲気だが、ヴェルファイアは精悍なデザインに変わり存在感を強めた。ヴェルファイアを販売するネッツ店は、比較的若いユーザーを想定しており、デザインもそのコンセプトに合わせていた。
売れ行きはヴェルファイアが上まわった。前述の通りヴェルファイアのフロントマスクには存在感があり、アルファードに比べて新鮮味も強いからだ。
また2008年頃の販売店舗数は、アルファードを扱うトヨペット店が約1000店舗、ヴェルファイアのネッツ店は約1600店舗だったから、販売網でもヴェルファイアが有利だった。
2010年の1か月平均登録台数は、アルファードは約3000台、ヴェルファイアは約5000台だ。比率に置き換えるとヴェルファイアはアルファードの1.7倍だから、販売台数店舗数の比率(ネッツ店はトヨペット店の1.6倍)とほぼ合致していた。
■決め手は「顔」!? ヴェルファイア凋落のはじまり
トヨタ アルファード。押し出しの強い顔に「整形」した現行型へのモデルチェンジが成功し売れ行きを伸ばした
2015年になると、アルファードとヴェルファイアは現行型にフルモデルチェンジを行った。アルファードは3代目、ヴェルファイアは2代目になる。
この時にはエンジン、ハイブリッドシステム、プラットフォーム、安全装備まで大幅に刷新された。加えてアルファードのフロントマスクは、初代と2代目のフォーマルな雰囲気から、仮面を思わせる目立つデザインに変更されている。
この効果により、2017年の1か月平均登録台数は、アルファードが約3500台、ヴェルファイアは3900台であった。依然としてヴェルファイアが多かったが、その差は大幅に縮まっている。
2017年頃の店舗数は、ネッツ店が前述の約1600店舗から約1500店舗に減ったが、それでも販売網はトヨペット店に比べて1.5倍の規模になる。そこも踏まえると、アルファードは店舗数の割に売れ行きを伸ばし、フルモデルチェンジの成功を物語っていた。
アルファードとヴェルファイアの販売順位が逆転したのは、2018年に実施されたマイナーチェンジが切っ掛けだ。この時にはアルファードが仮面のようなフロントマスクにメッキを散りばめ、高級感と存在感をさらに際立たせた。
2018年の1か月平均登録台数は、アルファードが約4900台、ヴェルファイアは約3600台で、アルファードがヴェルファイアを追い抜いた。以上ように、アルファードの登録台数がヴェルファイアに近付き、さらに逆転させたのは、すべてフロントマスクのデザイン変更によるものだった。
この後の2019年は、アルファードの1か月平均が約5700台、ヴェルファイアは約3100台になる。アルファード+ヴェルファイアの総台数は、1か月平均が約8800台だから2018年の約8500台とさほど変わらないが、両車の販売格差は拡大した。
2019年のアルファードは、前年に比べて16%上乗せで、ヴェルファイアは14%減った。
そして2020年には、アルファードの1か月平均登録台数は約7600台で、2019年に比べると33%の上乗せになった。逆にヴェルファイアは1500台だから、前年の50%以下だ。アルファードとヴェルファイアの販売格差は約5倍に達した。
■販売系列の統合でさらに変化が
トヨタの販売体制変更で、全系列でアルファードが売られるようになると、クラウンからの乗り換えや、弟分であるヴェルファイアからの乗り換えも進んだ
この背景にあったのは、2020年5月に実施されたトヨタの国内販売体制の変更だ。トヨタ店/トヨペット店/カローラ店/ネッツ店の4系列は、一部地域を除いて残すが、全店で全車を販売するようになった。
その結果、従来はアルファードとヴェルファイアを扱っていなかったトヨタ店とカローラ店でも、アルファードが好調に売られ始めた。
例えばトヨタ店からは「クラウンのお客様が、新たに取り扱いを開始したアルファードに乗り替えるようになった」という話が聞かれた。
アルファードがトヨペット店の専売だった時代は、クラウンのユーザーがアルファードに乗り替えると、トヨタ店は顧客をトヨペット店に奪われてしまう。従ってトヨタ店は、さまざまな好条件を提示して、クラウンに留まるように顧客を説得した。
ところが今は全店が全車を扱うから、トヨタ店でもアルファードを販売できる。クラウンに留まるよう説得する必要もなく、アルファードへの乗り替えが進んだ。この影響もあり、クラウンの2020年の登録台数は、1か月平均で約1800台になった。2019年に比べて40%近く減少している。
さらにヴェルファイアを販売してきたネッツ店からも「ヴェルファイアのお客様がアルファードへ乗り替えるようになった」という話が聞かれるようになった。
このようにアルファードとヴェルファイアの販売格差が拡大した結果、2021年4月に実施された改良では、ヴェルファイアのグレードが大幅に削られた。ゴールデンアイズ IIと呼ばれる特別仕様車のみになり、一般のグレードは、V型6気筒3.5Lエンジン搭載車を含めて選べない。
その結果、2021年1~10月の1か月平均登録台数は、冒頭で述べた通りになり、ヴェルファイアはアルファードの7%しか売られていない。直近の2021年10月に限ると、ヴェルファイアの登録台数はアルファードの4%まで落ち込んだ。
販売店によると「2021年11月下旬の時点でヴェルファイアは生産されているが、今後の改良などで廃止される可能性が高い。アルファードのみになる」という。
■生みの親に仕組まれた兄弟同士の争い
トヨタ ヴェルファイア。トヨタの販売体制再編とコスト削減で、売れ行きで水を開けられたヴェルファイアは廃止されるとみられている
アルファードとヴェルファイアの販売推移を見ると、車両の機能には無関係なフロントマスクのデザイン変更により、優劣が逆転した。そこに全店が全車を扱う販売体制への移行も加わり、販売格差がさらに拡大して、ヴェルファイアの売れ行きはアルファードの4%に至った。
クルマは高度なメカニズムの集合体で、高額商品でもあるのに、その売れ行きは気分的なデザインによって左右される。全店が全車を扱う販売体制も含めて、アルファードとヴェルファイアの売れ行きは、自動車ビジネスの難しさを物語る。
特に今の国内販売では、半数近くを軽自動車が占めるから、小型/普通車市場ではトヨタのシェアが50%を超えた。
Lサイズの上級ミニバンは、以前からアルファードとヴェルファイアの独壇場で、オデッセイやエルグランドは販売を低迷させていた。実質的に上級ミニバンの選択肢は、アルファードとヴェルファイアに限られるから、身内同士の一騎打ちになった。
そしてアルファードとヴェルファイアの販売合戦は、トヨタによって仕組まれたものだった。その目的は車種の開発と販売コストのリストラだ。
今後は各メーカーとも電気自動車を含めた環境技術、自動運転や安全技術に多額の投資を求められる。そうなると車両の開発や販売に関する費用はなるべく安く抑えたい。そこで国内では、全店が全車を扱う販売体制に移行した。
全店が全車を販売すれば、系列化のために用意されたアルファードとヴェルファイアのような姉妹車を含めて、車種の数を減らせるからだ。仮にヴェルファイアの販売が好調であれば、アルファードが廃止されていた。
トヨタにとってアルファードとヴェルファイアは、両方ともに子供のような存在だ。その姉妹車同士を戦わせて、生き残る車種を決める。このような残酷な仕打ちを強いるほど、今の自動車業界は、厳しい時代を迎えている。
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