今や日本車では希少な後輪駆動スポーツであるスバル「BRZ」の魅力とは? 個人的にも購入を考えている今尾直樹の答えはいかに。
別世界の剛性感
新型レクサスLBXは可能性しかない! “手の届く高級車”を投入する意味を考える
小雨のなか、アップデートされたトヨタのスープラRZ(8AT)に再試乗する機会を得た。以前より、筆者はますます好ましく思った。
理由はふたつ考えられる。
ひとつは走行距離だ。前回乗った個体の走行距離はわずか700km台だった。それが今回は4000km台にのびていた。
ご存じのように自動車というのはある程度距離を重ねるとダンパーが馴染んだりして“あたり”がついてくる。フロントが255、リアが275という異なるトレッド幅で、ともに超扁平の35、ZR19というサイズの高性能タイヤを標準装備していることからも想像できるように、乗り心地はじつにスポーツカーっぽいタイト感がある。電子制御の可変ダンパーを備えていると、キリッと硬い。そのキリッと硬いなかに、微妙にまろやかさが加わっているように感じた。
もうひとつは、試乗の直前に乗っていたクルマの違いだ。前回はたまさかホンダ「NSXタイプS」で、スープラとの共通点は少ない。今回はトヨタ「86」のスバル版である「BRZ」だった。
BRZもすごくいいクルマだと思ったけれど、スープラに乗り換えたら、完成度の高さというか、異次元の“おとな感”にたまげた。86/BRZもスープラも、トヨタの企画から生まれた、フロント・エンジン、後輪駆動のスポーツカーで、スープラはGRブランドのフラッグシップである。
なによりたまげたのは、ボディの剛性感とエンジン・サウンドである。試乗車は3.0リッター直6ターボを搭載するスープラRZだから、4気筒自然吸気のBRZと比較するのはもちろんフェアではない。だけど、だからこそ、その素晴らしさが実感できたのだと思う。
スープラのボディ剛性ときたら、BRZがワラとか木の家だとすると、レンガの家のごとしである。『3匹のこぶた』のオオカミもどんと来い。ワラと木の家しか知らないこぶたが、レンガの家の剛性感は想像もつかないように、筆者も築50年近い、木造のボロ家に住んでいるのですけれど、ホント、別世界の剛性感といってよい。
ドイツ流の解決方法2019年に発表されたGRスープラの資料をひもとくと、ボディ剛性は86の約2.5倍、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)キャビンを採用したレクサス「LFA」をも上まわるとある。このときの86は初代86のことで、この日のBRZは2021年に登場した2代目だから、初代比、フロントの横曲げ剛性が約60%、ねじり剛性が約50%と向上している。
であるとしても、初代86比2.5倍のスープラには到底およばない。ステアリングやペダル、ATのセレクターなどの操作系にBRZより重みと剛性感が感じられもする。シートも硬質なフィーリングに大いに貢献している。
このような異次元の剛性感がどこから出ているのか? 筆者なりにスペックから考えてみると、まずもってスープラRZは車重が1530kg(テスト車の車検証値)ある。BRZは6MTの試乗車で1270kg、6ATでも1290kgに過ぎない。
スープラRZの試乗車はBRZより2気筒多いエンジンと2枚ギアが多いトランスミッションを搭載しているとはいえ、ホイールベースは2+2のBRZより100mmも短い。それなのに200kg以上も重いのである。う~む。つまるところ、プラットフォームが骨太だから、と、考えるのが妥当であろう。一般にホイールベースは短いほうが剛性は確保しやすいこともあるにしても。
しかして、200kg以上も重いスープラはBRZ以上に軽快な性能を得ている。それはより強力なエンジンがあるからだ。スバルBRZはボクサー4の2.4リッターで、最高出力235ps、最大トルク250Nmである。自然吸気ユニットとしては立派な値だ。一方のスープラRZは直6の3.0リッターにターボ過給で387ps、500Nmを得ている。トルクにいたっては2倍もあって、パワー・トゥ・ウェイト・レシオはBRZの5.40kg/psに対して、スープラRZは3.95kg/psを誇る。
素晴らしいエンジンサウンドは高性能の証であり、ドライバーはストレート6が奏でるその音色にこころを躍らせる。
非力なエンジンを補うべくボディの軽量化を図る。というのが零戦に代表される戦前の航空機から続くニッポンのお家芸だとすると、GRスープラには別の系統の技術哲学が流れている。多少重くなろうと、強力なエンジンでもって解決する、というドイツ流だ。
ここでさっき避けた答を開陳します。ご存じのように、GRスープラはBMWとトヨタの共同開発の賜物で、プラットフォームはBMW「Z4」と基本的に同じくするからである。
将来はコレクターズ・アイテムかGRスープラに試乗するたびに筆者も、このクルマのどこがトヨタで、どこがBMWなのだろう? ということについて思いを馳せてきた。今回、なんとなく感じたのは、そういえばスープラのほうがドライビングフィールに丸みがあるかも……ということである。
ではあるけれど、この丸みというのは前述のごとくの走行距離による“あたり”であるかもしれず、あるいは穏やかで乗りやすいというトヨタ車全体のイメージによる先入観であるかもしれない。
もちろん、Z4はオープンで、スープラはクーペだというボディの形状の違いもある。ボディ剛性の数値は間違いなくスープラのほうが上だろう。
だけど、それはボディの型式による違いであって、どこがトヨタでどこがBMWか、というのは筆者レベルにはさっぱりわからない。お手上げです。分析能力のある方にご教授を請いたいほどである。
その一方、ま、開き直りではありますけれど、その違いにこだわることもないのではないか。という気分になっていることもまた確かだ。発売から4年近くを経て、出自なんてどうでもいい、と忘れっぽい私は思い始めてもいる。GRスープラはトヨタとBMWとの共同開発から生まれた、BMWのエンジンとプラットフォームを持つトヨタのフラッグシップ・スポーツカーで、バイエルン製ストレート6のナイスなサウンドと、スムーズでトルキーなフィール、ライトウェイト・スポーツカーとはまたちょっと異なる、強固なボディの剛性感との人馬一体感、といった素晴らしい運転感覚を備えている。♪BMWのようでBMWではない。ベンベン。トヨタのようでトヨタではない。ベンベン。それはなにかと尋ねたら、GRスープラなのである。
でもって、発売から4年を経て、あらためて思うのはエクステリアデザインの独創性である。ロングノーズ、ショートデッキの古典的スポーツカープロポーションに、往年のトヨタ「2000GT」を意識したとされるダブルバブルルーフとサイドのウインドウグラフィックは、個人的には初めて見たときから、ちょっとマーコスみたいで、いいなぁ、と思っていたけれど、こんにち、ますます異彩を放っている。
トヨタの誇る名車、2000GTだって、客観的に申し上げて、その魅力のほとんどはデザインにある。では、GRスープラのデザインはトヨタ2000GTに匹敵するのか? と、問われると、う~む。それはまだわからない。だけど、GRスープラが存在しない世界というのを想像してみてみよう。ちょっとさみしい。と、筆者は思う。
BMW Z4のフィクスト・ヘッド・クーペという、BMWの現行ラインナップにはありそうでない成り立ちのGRスープラがあるいまの世界のほうが、ない世界よりもより自由で、より多様性がある、といえるのではあるまいか。
セクシィな外観に、バイエルンの伝家の宝刀、ストレート6を長いノーズにおさめたGRスープラRZは、リヤアクスルの直前に座ったドライバーに、腰から曲がっていくような運転感覚を楽しませてくれる、稀有な後輪駆動の、贅沢な2座スポーツカーであり、絶版になった折には必ずや、コレクターズアイテムとなり、将来、自動車トリビア・クイズの定番問題のひとつになるだろう。
♪BMWのようでBMWではない。ベンベン。トヨタのようでトヨタではない。ベンベン。それはなにかと尋ねたら、○○○○○○。
空欄に答を書きなさい。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
前は物凄くカッコ悪いと思ってたんだけど、この前久しぶりにすれ違った時に、そのたたずまいにカッコ良いと思ってしまった。
たぶんクセの強いデザインの車の方が時間が経つほど人々の心に刺さっていく車になるんじゃないだろうか。