夏の酷暑の中、世界初の放射冷却素材「ラディクール」を採用した自動車用傘タイプのサンシェードが注目されている
先日、この@DIMEの「夏の車内の暑さ対策で役立つ最新アイテム」の記事で、セイワの新商品、世界初の放射冷却素材「ラディクール」を採用した傘タイプのサンシェード、IMP235「ワンタッチサンシェードM」、およびリヤサイドウインドー用のIMP277「楽らくマグネットカーテンL Radi-Cool」(2枚入り)を紹介したばかりだが、実際に両アイテムを装着した屋外駐車のクルマを炎天下に丸1日駐車していても、2024年夏の猛暑を超えた酷暑の環境において、乗り込んだ際、以前より車内の暑さが緩和されたことを実感しているところだ。
IMP235「ワンタッチサンシェードM」、およびリヤサイドウインドー用のIMP277「楽らくマグネットカーテンL Radi-Cool」(2枚入り)は放射冷却素材とチタン銀コーテイングによってUV紫外線カット率99.9%以上、遮光効果99.99%以上、遮熱効果63%以上(一般的に遮熱効果35%以上で遮熱効果があるとされる)を誇り、冷却効果によってダッシュボードやその周りの機器を保護。もちろん、車内温度の上昇も抑制し、エアコンの効きUPにも貢献してくれるのだ。
日産は放射冷却マテリアル技術を採用したラディクール素材を用いたサンシェードなどをいち早く発売
しかし、2017年にサイエンス誌で発表された世界最先端の放射冷却マテリアル技術を採用したラディクール素材を用いたアイテムは、2021年11月に日産の純正アクセサリーのサンシェードやハーフボディカバーとしていち早く発売されていて、こちらはウインドーの外、ボディのフロントウインドーからリヤウインドーにかけて装着するタイプとなる。日産調べによれば、一般的なサンシェードより駐車中の車室内温度を10度以上、下げる効果があるとされている(使用環境により冷却効果は異なるそう)。ちなみにラディクール社の「放射冷却メタマテリアル技術」とは、物体の表層の材料組成と、そのミクロ構造を調整することで、物体からの電磁波放射を、大気にほとんど吸収されることのない領域である「大気の窓」と呼ばれる波長帯(8μm~13μm)に集約させ、地球の熱を宇宙空間へ放出させることのできる画期的な技術だという。
日産が自動車用自己放射冷却塗装の実証実験を公開
そんな世界最先端の放射冷却マテリアル技術を、カーボンニュートラルの実現に向けて電動化をはじめ、さまざまな取り組みを推進してきた日産が、2024年8月6日、自動車用自己放射冷却塗装の実証実験として公開した。今回開発した塗装は、物体の温度上昇を引き起こす太陽光(近赤外線)を反射するだけでなく、メタマテリアル技術の活用により熱エネルギーを放射するため、エアコンの使用を抑制しながら、涼しく快適な車内環境の提供が可能となるのだそう。
日産アリアのインテリア
自動車用自己放射冷却塗装に使用している塗料は、放射冷却製品の開発を専門とするラディクール社と共同開発。電磁波、振動、音などの性質に対し自然界では通常見られない特性を持つ人工物質「メタマテリアル」を採用している。「熱のメタマテリアル」として、晴れた冬の夜間から早朝にかけて起こる放射冷却と同じ現象を人工的に引き起こし、それにより、太陽光を反射するだけでなく、クルマの屋根やフード、ドアなどの塗装面から熱エネルギーを大気圏外に向かって放出することが可能となり、車内の温度上昇を抑制してくれるメカニズムである。
日産サクラのインテリア
自動車用自己放射冷却塗装によって外部表面で最大12度、運転席頭部空間では最大5度の温度低下を確認
開発段階において、この塗料を塗装した車両と通常塗料を塗装した車両を比較した場合、外部表面で最大12度、運転席頭部空間では最大5度の温度低下を確認したという。これにより、炎天下に長時間駐車していた車両への乗り込み時の不快感を軽減し、エアコンの設定温度や風量の最適化により、ガソリン車の燃費や電気自動車(EV)の電費の向上を図ることができるというわけだ。
特に、日産サクラ、アリア、リーフといった電気自動車(EV)において重要となる夏のエアコンの使用によるバッテリーの負荷を、大きく軽減できる可能性があるのだから、クルマの電動化時代にもうってつけの技術と言っていい。
電気自動車の日産サクラ
電気自動車の日産アリア
ただし、すでにメタマテリアルの技術を利用した放射冷却塗料は建築用途には使用されているのだが、建築用塗装は自動車用塗装と比較すると塗膜が非常に厚く、ローラーで塗布することを前提としていて、自動車の塗装に必要であるクリアトップコートの使用も想定されていない。そのため日産は、この塗料を車に適用できるよう、エアスプレーでの塗布や、クリアトップコートとの親和性、日産の厳格な品質基準など、様々な条件への対応に取り組んだのだ。
現在はトラックや救急車など炎天下においての走行が多い商用車への特装架装としての採用を検討中
本塗装を開発した、総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員の三浦 進さんは、ポピュラー・サイエンス誌の2020年「Best of What‘s New Award in the auto category」を受賞した「音響メタマテリアル」の開発も担当した方で、より効率的に車内の静粛性を向上させる方法を長年研究してきたという。本塗装の開発においては、2018年からラディクール社との共同開発の可能性を探り、2019年にはフィルムによる冷却効果を確認。さらに自動車への適用を考慮し、2021年から塗装の共同開発を進め、約3年間の開発期間において、一般的な自動車塗装に用いられるエアスプレーでの塗装に成功。また、今回の実証実験で塗装の欠けや剥がれ、傷、塩害などの化学反応に対する耐性、色の一貫性、修復性にも現時点で問題がないことも確認できたとのこと。さらに、自動車用塗装への適用として重要な要件のひとつである塗装膜厚は、同等の冷却性能を確保しつつ開発当初の120µm (0.12mm)から大幅な薄膜化に成功。現在、トラックや救急車など炎天下においての走行が多い商用車への特装架装としての採用が検討されているが、商品化に向けてさらなる薄膜化に取り組み、今回の実証実験に至ったとのことだ。
羽田空港において当該塗料を塗装したNV100クリッパーバンで評価を行ってきた
リアルワールドでの自動車用自己放射冷却塗装の効果と耐久性の検証では、羽田空港にて2023年11月から1年間の実証実験を実施。ラディクール社の日本法人の販売代理店を務める日本空港ビルデングの協力で、ANAエアポートサービスが空港で日常的に使用しているNV100クリッパーバンに当該塗料を塗装して評価を行ってきたそうだ。
日産アリア、サクラ、リーフといったEVにもぜひ採用してほしい塗装技術だ
トラックや救急車だけでなく、一般車両、とくに日産サクラやアリア、リーフのような電気自動車(EV)への適応にも大いに期待したいところで、オプション塗装として追加料金になったとしても、とくに電気自動車(EV)の夏のエアコン使用時の航続距離が伸びるのであれば、電気自動車のオーナーとしては大歓迎されるに違いない。そう痛感するほど、今年の夏は猛烈に暑い・・・。
文/青山尚暉
写真/日産 雪岡直樹(日産アリア/日産サクラ)
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